呆冗記
呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。


下手をしたら死んでいた

 「いやあ、今回は随分と衝撃的な題名だな・・・。おい」
 おお、朱雀。しかしだ・・・今だに震えが止まらないのだ・・・。下手するとマジで死んでいたかもしれない・・・。今回はそう言う話なのだ。
 「うむ、今回は実名か? ま、以下青字で語られる事は全部実話だからな。しかし・・・。『死んでいた』とは穏やかではないなあ。『A君(17)の戦争』レベルの苛めにでもあったのか?」
 「下駄箱の上靴にゴミでも入れられたかニャ? それとも、上靴が水浸しになっていたかニャ?」
 なんか、酷い事を言っているな。武田。
 「その程度では上杉が参るはずがないだろう」
 「そうニャ。それなら、トイレの大に入っていたら、上から覗かれて、『トイレ大王』というあだ名を頂戴したかニャ」
 「いやいや、きっと職場全員からシカトされたに違いない」
 いや、それではダメージはないのだ。現状に於いてそんな感じなのだ。
 「なに?」
 私、哀しいけれど、諸悪の根元なのだ。上の方で決まった色々な無茶は、全部私の作る計画表に反映されるのだが、上の方の非公式の説明は常に私の能力不足なのだよ。私に能力があればもう少しまともな計画表が作れる。こういうことらしいのだ。
 「じゃあ、机の上に花でも飾られて、『上杉明さん安らかに眠ってください』とでも書かれたかニャ」
 冗談になってないぞ。武田。
 「あれは、結構、心臓が凍るからな・・・」
 「へニャ? 僕、冗談のつもりニャ・・・」
 「だから、今回は冗談じゃないぞ。
 朝、中学校に行くと、自分の机の上に花瓶に造花がさしてあって、机に水性のマジックで『朱雀くん、安らかに眠ってください』『僕達は君が死んでくれてとても嬉しいです』『君のいない学校生活はとても楽しいです』なんて書かれているんだろう? 経験者だぞ」
 な・・・なんか冗談で済まない気がするのだ・・・。
 「た、確か・・・それで自殺した中学生がいたニャ」
 「うん、同じイニシャルがSなんでよく覚えてる。たしか、高校生の頃に話聞いてとてもショックだったよ」
 あのな・・・。なんか、私の身に起きた事よりも深刻な事象になっているような気がするんだが・・・。
 「そうか? でも死ななかったからたいしたことじゃないぞ。というか、そんな事で死んだら、SFの新作は読めないし、新しいパソコンも買えないし、美味しいものも食えないし・・・」
 「美味しい酒も飲めないニャ」
 「バカを言うな。俺の正規の飲酒歴は高校時代のサントリーレッドの4合瓶からはじまるんだ。中学生の頃は正月に日本酒を1合飲ませてもらって酔っぱらう程度。それに、もう一つの事件に比べればダメージは少なかったなあ。ま、ともかく上杉の『下手をしたら死んでいた』の事象を聞かせてもらおうじゃないか」
 なんか、言い辛くなってしまったな・・・。そこまで言われると・・・。
 「ま、いいから」
 ああ、高圧電流を使用する機械の電源部のような部分の修理をある人に頼まれてやっていたと思ってくれ。
 「ふむふむニャ」
 ま、それ自体はたいしたことではない。電源スイッチ切ってソケット引っ張り出して、そのソケットに刺さっている感電防止用のカバー外して、壊れた部品外して、新しい部品差し込んで、カバー付けて、ソケット戻して、電源スイッチを入れて動けばOK。
 ただ、その部品のプラスとマイナスに差し込む2本の金属のリード線が弱いと言えば弱いので、折れないように足を持って優しく入れてやる必要があるが、テクニックとしてはそのくらいなのだ。あと、電源ケーブルがはめ殺しなので、抜けないのが危ないと言えば危ないが、電源スイッチ切ってあるから大丈夫だろうと。はっきり言ってパソコンのディスプレイをいじるような、難しい事でもないのだ。
 「というか、あれはいじってはいけないものだろう。高圧電流バリバリだぞ」
 そうなのだ、しかし、この機械は補修部品さえあればサービスマン呼ばなくても充分直る代物でな。で、やっていたのだが・・・。そのソケットを手に持って、壊れた部品外して、新しい部品を慎重に差し込んでいる最中に修理を依頼していた人がやってきて、
 「よう、上杉君、済まないね」そう言って、本人が言う、いつもの部屋に入ったときの習慣で、メインスイッチ入れてくださった・・・。
 「げ・・・」
 「うわニャア・・・」
 『小太りの人間に持久力はない、しかし、瞬発力はある』(『A君(17)の戦争』より)から、悲鳴あげてソケット放り出したら、
 「心臓が悪いのに吃驚させるとは何事だ」って怒られた。
 「怒るよりも何よりも、下手したら死んでたぞ、貴様」
 そうだろうなあ。下手すると200Vのコンセントにヘアピン突っ込むくらいのことではあるのだ。で、そう説明したら・・・。
 「したら?」
 「したらどうしたニャ」
 「そんなこと知らないんだからしょうがない。そんなに面倒なら今度から他の人を頼む」そうだ。
 「今に・・・。死人出るぞ。貴様の職場・・・」
 ま、2年くらいは保つ部品だから、あと2年は大丈夫だろうがな・・・。
 しかし、下手したら確実に死んでいたのだ。ああ、怖かった。ともかく、そんなわけで、人間、いつ死ぬか分からないので本当に部屋の片づけをしようかと思うのだ。
 「なんか、一日延ばしになっているものな」
 「ところで、朱雀さんニャ」
 「どうした?」
 「個人的に、花瓶机の上に置かれたよりもショックな事って何ニャ」
 そうだな、少し興味あるよな。
 「それは別の話、別の時に語られるであろう」
 あ、逃げた・・・。(01,11,28)


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