呆冗記
呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。


A君の戦争?

 しかし。なんか凄いものを読んでしまった。
 いや、一部で密かに盛り上がっていた作品である。その名は『A君(17)の戦争 1 まもるべきもの』(豪屋大介著 富士見ドラゴン文庫)。
 実はこれ、あの御大こと佐藤大輔氏の変名であるという話もあり、期待していたのだが、しかし、凄まじいのだ。真面目に凄いのである。
 話は簡単である。良くある異世界ものだ。この世界で変哲もない少年、小野寺業士が異世界に呼ばれ、そこで虐げられた人族を助け、魔族を蹴散らすのが普通の話。しかし、この話、二つの太陽が輝く異世界に救世主として召喚されてしまった主人公は人類族の迫害に苦しむ魔族達の支配者「魔王」として召喚されたのだ。

 (僕は約束した)

 (彼に約束してしまった)

 しかし、死に際してもただ家族のことだけを案じていた少年
(上杉注 トロルである)の願いを裏切るような卑怯者にだけはなりたくなかった。

 「わかったよ! わかったわかったわかったわかったぁ!」

 「やってやる。やってやる絶対にやってやる! 約束は守るぞ! 誰にも、誰にも苛めさせやしない! 苛めさせるものか! 僕がやってやる! 絶対に、絶対にっ!」

 これって佐藤節ではないのか? なんだか異様に燃えるのである。いや、立派な新城直衛ではないか? この辺りは。
 そうだ、これを読まないで何を読むというのだ? 起てよ国民!
 といったらきちんとそういうネタもある。

 「今日、我々はここで戦う! そして勝つ! 確かにランバルトは強く、我々は苦戦し、諸君らの多くはこの地で倒れることになるだろう! しかし、それは、魔族と人族が、だれからも差別されることなく自由に生きることのできる魔王領をまもるための尊い犠牲なのだ! 諸君がそれを信じているのならば、我々が敗北することはない! ランバルトはたちまちのうちに形骸と化す! 僕はあえて言おう! ランバルトはカスであると!」

 うう、御大はオタクは嫌いではなかったのか? いや、御大は無責任な自分の世界に沈み込むオタクが嫌だったのだ。おそらくは。ここに出てくる「魔王」田中和夫も「総帥」小野寺業士も、まもるべきものを持っている。
 たとえ、魔王のまもるべきものが

 10歳ほどと思われる少女つーか幼女つーかまぁ表現はお好み次第でどうぞという女の子であった。まん丸な目にふっくらした薔薇色の頬、ボーイッシュに整えられた燃えるような赤毛。身体の線は子鹿のよう。

 な68歳のサタニアンとの隠居生活であっても。(少し、ほんの少しだけ羨ましいかなあ・・・。いやいや)
 主人公のまもるべきものがあんまり引用が多いのもなんなので省略するが、この世のものとも思えない美少女との生活であっても、その生活を維持するためには、この魔王領をまもらなければならない。
 いや、それだけではない。元の世界で省みられることすらなかった彼らを必要としてくれたこの魔王領の魔族達を守らなければならないのだ。
 はっきり言って、まもるべきものを持ったオタクだけは敵に回してはいけない。
 逃げるオタクを滅ぼすのは簡単だ。
 しかし、立ち向かってくるオタクくらい始末に負えないものはない。私も含め彼らは、一芸に秀でている。普通人の皆様の思いもしない手段で足下を掬われることがないとは言えないのである。
 ま、放っておけばまず、一般人とは交わることもないのだから、彼らを迫害しない以上は問題ないのだが。うむ。

 しかしだ、読み終わって冷静になってみると、少しばかり首を傾げる部分もある。少しばかり人物造形が素直すぎないだろうか?
 いやいや、ここまで予備兵力を重視するのはやはり御大だろう。
 大輔と大介。この違いは?
 しかし、本人がこんなに文体を変えてくるのだろうか?
 いや、他人だとしたら、ここまで似た文章を書くことが作者の意地と良心によって可能だろうか?
 ともかく、賞すら取っていない豪屋大介氏が実在ならば、簡単に一冊ドラゴン編集部が書かせるだろうか?
 とまあ、いくらでも悩めるのだが・・・、ま、ともかく面白いのである。
 なんか、こんなの読むと自分の力を試したくなってしまうではないか。ま、無理だろうが・・・。(01,11,22)


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