呆冗記
呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。


不人気車の挽歌

 みなさん、今晩わニャ。随分と間だが開いてしまったけれども、『プロジェクト ×(ぺけ)』今回の朱雀龍樹新型乗用車導入の顛末後編をお送りするニャ。前回、回想シーンがあまりといえばあまりに力が抜ける感じになってしまったので今回は僕が司会、上杉が回想シーンをやることになったニャ。それでは朱雀さんこんばんわニャ。
 「司会で力が抜けるという可能性は考えなかったのか?」
 どうでもいいニャ。だいたい、レトリックニャ。上杉が勝手にニャーにゃー付けてるニャ。
 「平仮名はよした方がいいぞ・・・」

 ああ、もう、回想シーン行くぞ。まったく・・・。
 レオーネの後継車を何にするか。この件についての論議は一切なされなかった。すでに暗黙の了解としての「スバル車のワゴン購入」が決定されていたのだ。
 軽のプレオは論外。レガシィは過去に車検の代車で自分の車庫スペースに入らないサイズであることは確認済みだった。
 レガシィが入らない車庫にフォレスターが入る筈もなく、何よりも朱雀はフォレスターのようないかにもRVというデザインは嫌いだった。
 彼の望む22インチのディスプレイを運搬できる車。すなわちワゴン車でメーカーはスバル。この選択を満たすものは、インプレッサしかなかったのだ。

 しかし、一体この「22インチのディスプレイ云々」って何ニャ。
 「いや、前にSONYの17インチディスプレイを購入した時にレオーネに入らなくて結局送ってもらったものだから、こんど三菱の22インチディスプレイを買うときは、自分で運べる車が欲しいなと・・・」
 何回、22インチのディスプレイを買うつもりニャ?
 「・・・」

 スバルインプレッサ。この車はスバルがWRCで勝利するために作られた。それまで参加していたレオーネはベースが乗用車のため、重く肝心の剛性も不足していた。後継車たるレガシィで剛性こそクリアしたものの、未だに重い。
 軽く、剛性の高い車。しかし、スバルはそれ専用のボディを作る贅沢など許されない。そこで考え出されたウルトラCが信じられない2重人格の車だった。一つは小柄なセダンをラリー用に開発する。そして、そのセダンをベースにしたワゴン車に1.5リッター程度のエンジンを与え、レガシィの下、小型普通乗用車の部門に殴り込ませたのだ。
 結果は吉と出た。すなわち、インプレッサは過酷なWRCラリーと、お母さんのお買い物車というふたつの側面を持つ世界的にも希有の車となったのだ。

 「でもって、買ったのは当然ターボかニャ」
 「うん、散々職場の後輩にも言われたんだけどね、「やっぱりターボでしょう」「インプレッサだったらターボだよね」って。しかし、買ったのは20N」
 「20Nニャ? あの、NAツインカム2リッターの、変哲もないインプレッサニャ?」
 「そうだけど?」

 インプレッサスポーツワゴンにはいくつかのグレードが存在する。存在自体が首を傾げたくなるようなラリーバージョンのWRX。(なんとこれにはATすら存在する)。エンジンはそこまで過激ではないにしろ、数々のSTiパーツで武装したSTi。そして、STiからSTiパーツを取り除いたターボの20K。以上がラリーを戦うための素材と、その遺伝子を受け継ぐターボ車としてのインプレッサの系列だ。
 お買い物車としては安価なI’s。少しスポーティにしたI’sスポルトがある。
 しかし、20Nはそのどちらにも所属しない。不人気車種。それが20Nを如実に現す言葉だろう。

 「そ、そんなにおかしいか?」
 「絶対におかしいニャ。インプレッサ買うならやっぱりターボニャ。これは真理ニャ。もしくは割り切ってお買い物車とするならば、I’sか少し格好付けたいならI’sスポルトニャ。20Nなんて、エンジンは中途半端。価格も中途半端。箸にも棒にもかからないニャ」
 「しかし、運転のうまい冴速さんならともかく、俺のキャラクターに合うと思うか?」
 「合わないニャ。朱雀はPCなら結構高級機持っていても様になるけど、スポーティな車は絶対に合わないニャ。これも真理ニャ」
 「・・・」

 朱雀龍樹のインプレッサ購入の絶対条件は三つあった。
 一つは4輪ディスクブレーキであること。幾たびかの危機を現状のレオーネの4輪ディスクブレーキが救っていくれた事実を朱雀は忘れてはいなかった。
 もう一つは馬力。これは現状を凌ぐこと。あたら馬力が足りないために危機回避に失敗する。これだけは防がねばならない。ちなみにGT/2のカタログ上の馬力は130馬力である。
 最後が明るいライトだった。

 「また、奇妙な条件を・・・、あとはどーでもいいのかニャ。本来ならもっといろいろ違う条件があるニャ」
 「どんな?」
 「色だとか、内装だとかニャ・・・。それだから女にもてないニャ」
 「別にナンパ車にするつもりもないし。長距離を安全に走る。短距離を確実に走る。それで充分。だから4輪ディスクは絶対に欠かせない条件だった。セールスさんは後輪はディスクでなくても十分だと言っていたし、事実、試乗してもブレーキに関しては問題なかったんだけどね。もう、拘りだな」
 「次の馬力は、ターボの方が絶対に出るニャ」
 「過剰な馬力は一般公道で必要か? という問題だ。250馬力を確実に路面に伝える技術は残念ながら俺にはないんだ。155馬力でもレオちゃんより25馬力も上だ。しかも、ターボラグもなくスムーズに出力される。」
 「ふうニャ。なんか・・・もっと自信持っていいと思うんだけどニャ」
 「自虐と諧謔というやつだ」
 「何ニャ? それ」
 「伊達と酔狂、自虐と諧謔。へ理屈も理屈、くそ意地も意地、から元気も元気と続くんだが」
 「なんだか哀しい話だニャ、で最後のライトは何ニャ?」
 「いや、、後輩の車に乗せてもらったら、ライトが明るくてな。
去年の代車のレガシィ、あれも明るかったが、それ以上の明るさで。話聞いたらHIDとかいう奴らしくて、絶対これを付けようと思ったわけだ」
 「ああ、懐かしいニャ。しいちゃん元気かニャ。あれのフォグとハロゲンライトの4重装は凄かったニャ。それに比べてレオちゃんのライトは本当に暗かったニャ」

 スポーティな20KにはHID装備のメーカーオプション形式は多々ある。しかし、20Nには一つしかない。HIDをメーカーオプションで付ける場合、嫌も応もなく、その形式を選ぶしかない。このことからも、20Nの性格が伺われる。
 20NにHIDを付けたい。そう言った朱雀に対し、セールスさんは、驚きの色を隠せなかったという。
 しかも、HIDは事故で一発10万円とも言われる高価なライトである。
 「車両保険に必ず入ってくださいね」
 セールスさんはそう、念を押すと発注書に20NのHIDライト付がついた形式を書き込んだという。

 「まあ、20Kなら300万出してもインプレッサのターボの一番安い奴という評価でしかないんだよ。しかし、20Nなら、これは必要十分な性能を持った上でオプションも満足行くだけつけられて、300万を十分に切るわけだ。現状に於いて車に300万は出せないが、NAの最高級インプレッサという称号は手に入る。必要ないものに金をかける必然性を認めないよ。ターボでなくて何が悪い!」
 「すると14台のコンピュータはみんな必然性があるわけニャ」
 「・・・」

 とにもかくにも、発注はなされた。その時点でHID装備の20Nは日本のどこにもなかったらしい。
 「納車まで下手すると1月かかるかもしれません」
 セールスさんの哀しい宣言がそれを証明していた。
 しかし、幸いにして、納車は予定よりも1週間早い8日と決まった。おそらくは、朱雀のために作られたHID装備のスバルインプレッサ スポーツワゴンが納車される。
 果たして、ターボは必要なかったのか? その証明はおそらくは10年以上後、この車が次世代車へとバトンを渡したときに、評価は定まるのかもしれない。この車の物語は今、始まる。

 次回予告
 おそらくは、常識人ならば決して踏み込むはずのない世界。美少女ゲーム。この混沌とした世界を、ただただ一ユーザーとして渡っていこうとする男がいた。度重なる誹謗、中傷、しかし、男は己のみを信じ、この世界を突き進む。一体男をそこまで駆り立てたものは何なのか? 次回『難攻不落少女を攻略せよ』美少女ゲームに捧げた青春。をお送りします。(嘘)(01,11,7)


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