呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。
さよならムーミン
ムーミンの作者のトベ・ヤンソンさんが亡くなった。ご冥福をお祈りしたい。
日本人にとってムーミンといえば薄いブルーの毛を生やした二本足でたつ心優しいカバのイメージがあるが、あれはどうやら、アニメの『ムーミン』に端を発するものらしい。
原作のムーミンはトロールである。
トロール。
トロールといえば別名トロル。北欧神話のなんだか恐ろしい怪物の総称ではないか。
古エッダ『巫女の予言』ではラグナロクの時に太陽を飲み込んでしまう大天狼スケルのことをトロルと呼び慣わしている。
別の説では霜の巨人の末裔というのもある。彼らは自分の祖先がトールハンマーによってうち砕かれたことから雷をひどく嫌うのだ。そういえば、原作のニョロニョロは気圧計をご神体とし、雷を愛していたのではなかったか? (うろ覚え)
トールキンの描くトロルは、邪悪な魔法により石から作られた種族である。石よりも固い体を持ち洞窟や暗い洞穴に住み、生肉を食うのが至上の楽しみであり、ただ楽しむためにのみ殺しをするのだ。
これがトロルなのである。その姿は一様に醜く、背中に大きなこぶ、長い鼻と牛のような長い尾を持った怪物なのだ。
たぶんこのムーミントロールは恥ずかしがったり、もじもじは決してしないと思われる。その前に人間様がぱっくり食われるに違いない。そういえば、その昔、しおざきのぼる氏が実はドイツの生物兵器だったということで『コンバットコミックス』でそんな漫画を書いていたような気がする。あれは時事ネタが多すぎてコミックスにならないのだろうか?
それはさておき、日本において恥ずかしがったり、もじもじしたりするようになってしまったムーミンを作者は、あまり好いてはいなかったようである。側聞だが、日本製のムーミンを見た作者は泣いて怒りをあらわにされたということだ。作者の描いた世界はもっともっとドライで、北欧の冷たい風が吹いているのかもしれない。しかし、TV版の『ムーミン』の世界には暖かい雨が降っているような気がする。
そして、私にとってのムーミンはやはり薄いブルーのカバなのである。スノークのお嬢さんはノンノンでなければならないのだ。ムーミン谷はほのぼのした場所なのである。作者がどう、考えていたにせよ・・・。
時に人生に悩み、一人橋の上にたたずむ岸田氏の声のムーミンは、スーパーロボットに明け暮れていた私の精神世界に少しばかりの違和感を与えてくれた。
世の中には、大声で武器の名を連呼するだけでは解決できないことがあることを、私はムーミンから学んだのかもしれない。
だから、より原作に近づいた『楽しいムーミン一家』は私の心を震わせるものではなかったのだろう。ナイーブな、すぐ泣いたり喧嘩したりする旧ムーミンに比して腕白でドライな新ムーミンは別物だったのだ。
そして、私は私の力では解決できないことをいくつも経て、7月の雨に濡れながら、一人、過去を想うような、スーパーロボットのパイロットとは似ても似つかぬ人間となってしまった。未来は無限の可能性に満ち、その一つを選んでどこまでも相棒と行くはずだった人生はしかし、何も選ばず、何も選べず、理不尽な現実によって、今年も流れていく。
夏の雨が好きになってしまってからどれだけの時間が流れたのだろう? そして、私はどこへと流れていくのだろう。7月になるとそんなことを考える。(01,7,4)