呆冗記
呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。


豪遊

 友人が一人、遠方から帰ってきた。その名を小白滝さんという。かの昔、高校・大学時代に凄まじくのめり込んだ同人時代の友人である。ファンタジーを愛し、ファンタジー系のTRPG(テーブルトークRPG)を愛し、そしてベタ甘のマスターを憎んだ硬骨漢だった。
 私が「エルフに味噌つけて頭から囓るとモロキュウになる」(某TRPGでエルフは植物である)というギャグに笑えるようになったのも、自分で死ぬような愚かなことをするプレイヤーに操られるキャラクターを平気でぶち殺せるマスターになったのも、あのて、この手でプレイヤーのシナリオを破綻させようとする極道なプレイヤーになったのも、みんな彼のおかげである。
 今回の来札は9年ぶりとなった。それどころか、暫く見ないうちに彼は師匠になっていたのだ。かの地で古武術の道場を開き、外人の弟子までいるのだそうだ。
 しかし、確か私の大学時代、彼のやっていたのは中国武術ではなかったかと思うのだが・・・。
 それはさておき、こんな時、歓迎する場所は一つしかない。なんといっても9年ぶりの再会である。もはや『K』さんの料理を食い尽くし、を酒を飲み尽くすしか歓迎の意を示す手段はない。私はいつもは素寒貧の財布に諭吉さんを3枚と漱石さんを何枚か詰め込み、『K』さんで小白滝さんを迎撃したのである。
 やってきた小白滝さんは道場主らしい貫禄を身につけていた。流石、一国一城の主である。そして、一番弟子だという外国人青年。英語が全然ダメな私としては思わず構えてしまう。が、うまいものとうまい酒をくらえば人類皆兄弟である。
 まずは地ビールを3本頼んで乾杯。あまり飲めないという話だったのだが、いける口ではないか。
 「えっと、なごやこーちん いず じゃぱにーず おりじなるちきん’ず さしみ。でぃあすてーき。だっく。ふぃっしゅ・・・」
 適当な英語であるが、意味は通じているのであろうか?
 ともかく鶏が大好きであるとのことなので、我々が『K』さんに入り浸る原因となったコーチンの刺身を二人前頼む。大きなまな板皿にコーチンが見事に盛り合わされている。
 青年、すべて自分のと勘違いしてにこにこと自分の前に置いて食べようとするところを師匠に怒られる。文化が違うのだからそんなに怒るなよ・・・。ま、師匠と弟子の間には余人にはうかがい知れない関係があるのかもしれないが・・・。
 そのコーチンを『K』さんの特別酒で食する。青年。すいすいと食べて、なんだか、もっと欲しそうな顔をするではないか。
 ともかく、彼にいろいろ食べた後でまだおなかに入るならもう一人前取ってあげると約束して次へ行く。
 次は何にしようか。
 「マスター、鮎はまだでしょう・・・」
 「上杉君、1週間早かったね」
 うーむ、ここの鮎は最高なのだが・・・。
 「鰻ならあるよ」
 「鰻かぁ・・・。いいなあ」
 と、小白滝さん。だったら早いところ言えばいいのに。とまずは一匹焼いてもらう。これを三千盛でいただく。が、小白滝さん以上に青年がぱくぱくと食べる。
 「弟子なのに贅沢なんだよ・・・おまえは」
 うう、本当にGガンダムみたいな師弟関係ではないか・・・。
 慌てて次をオーダーする。鹿肉ステーキ。二人前。別盛りで。アイヌ葱、おっといけない行者ニンニクの香りが食欲を誘う。
 そして、この店限定の更なる特別酒が飲み頃であるというのでそれを日本人分だけ頼んですこし青年に味見してもらう。
 「べりぃ てぃすてぃ」
 なんと言うことだ、この青年、そこらの酒飲みより味がわかる。
 次は焼き物のツボ鯛に、彼のための鴨ロースだったが、ツボ鯛上で早速師弟の攻防が始まる。本当に彼は外人なのだろうか。それとも、師匠の教育の賜物だろうか・・・。
 その間にも彼の、
 「今日はこーるどさけしか出ないが、ほっとさけはどんな時に飲むのか」
 とか、
 「今日飲んだ酒は少しずつ味が違うがどういう根拠で選択しているのか」
 とか、うちの職場の若いのに爪の垢でも飲ませたい質問が飛び出す。
 マスターも大車輪である。秘蔵の古久谷の茶碗や、鉄の鍔など奥から出して公開してくださる。
 なんか、扱い違いません?
 「ま、上杉君は常連だから・・・」
 そうかなあ・・・。
 次は・・・〆の一皿。
 マスターの一言。
 「カワハギのいいのが入ってるよ」
 これで決まりである。『K』さんの普通酒でカワハギの刺身をいただく。懺悔するとカウンターに置く皿の上下を間違えたりしたのは私である。これならどっちが日本人か判らない。しかし、うまい・・・。
 結局、まだ入ると言うことなので、名古屋コーチンもう一人前。本日の料理はこれにて打ち止め。
 いやあ、本当に出るもの出るもの美味である。冴速さんも言っていたがこういう店はちょっとない。
 「そうだね、でも、あるところにはあるよ。修業先の先輩や後輩が東京で店出してるけど、一人前3万円とかからで・・・」
 げげ、ところがこの店では、お酒1升近くに、ビール3本飲んでこれだけ喰って、一人前9千円。本当にこの店知っててよかった。
 しかし、こんな豪遊ちょっとない。ああ満足満足。
 「本当だよな、二人でコーチン一人前頼んでた頃もあったよな・・・」
 そー言うことをバラスなよ、小白滝・・・。(00,5,20)


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