学校の揚げパン
相変わらずネタがない。困った話である。そうやって嘆いていると、友人Sが一つのすさまじい炭水化物の固まりを持ってきてくれたのだった。
「なんか、えらい言われようだな」
だって、そうではないか。これって、炭水化物を油で揚げて砂糖を振った物だろう・・・。小学生のこれと、高校生の焼きそばパンといえば簡便に炭水化物をい摂取する最大の手段であろうが・・・。
「なんか、無茶苦茶いってるな。だが、懐かしいだろう」
確かに懐かしくはある・・・。友人Sの手みやげは京田食品(今はKyodaというのだろうか)の『懐かしい味 学校あげパン さとう』だったりする。
しかし・・・怪しさ爆発。京田のあげパンである。
「せっかくネタになると思って余計に買ってきてやったのに、その態度はなんだ? おい」
京田食品といえば個人的には、『ニッキパン』が懐かしい。ニッキパンとはシナモンをとことん効かせたホットケーキミックスにパンを、くぐらせ、で、たぶん揚げたちょっと下手物的なパンであった。そう、フレンチトーストの卵とミルクをホットケーキミックスに変えた物と思えば大変近いだろう。
もしかしたら、冬だけの限定商品だったのかもしれない。何故か夏にはなかったような気がする。
そして、そのもの悲しいニッキの香りはなぜだか子どもの頃を思い出させてならないのだ。
ああ、青春の日々よ、選ばれなかった者の恍惚と不安我にあり・・・。
何を言っているのか・・・。
いつしか生産ラインから外れてしまったのだろうか? ここ数年その姿を見ることはなかった。その京田食品が・・・完全に受け狙いではないのだろうか・・・。
とにもかくにも、目の前のあげパンの袋をえいやとばかりに封を切る・・・。
あれ・・・。
私は二三度目をしばたかせた。
「どうだ?」
友人Sが聞いてくる。私はしばらく動かなかった。
これはない・・・。
私は嫌いなものがいくつかある。自分の考えを大事にしない奴。自分の考えに固執するあまり、他人の考えを尊重しない奴。酒を水で割る奴・・・。しかし・・。これはもしかしたらそれ以上かもしれない。
あげパンのさとうはいつから粉砂糖が許されるようになったのだ!
「そうだよな。そのはずだ」
Sの奴が大きく頷く。
「ちなみに、アンケートを採ったのだが、本州出身者も、年齢が少し上の人も同じ事を言っていたぞ」
そうだろう、そうだろう。学校のあげパンはグラニュー糖でなければならないのだ。
しかし、そんなことでアンケートをとるなよ・・・。S。
それはともかく、悲しい思いでパンを囓る。
う・・・。
「どうだ?」
じんわりと私の瞳に涙がにじんだ。これはない・・・。
京田のあげパンはまるでドーナッツの生地で作られているかのようだった。非常にパンのキメが細かい。
あげパンのパンはコッペパンでなければならないのだ!
「そう、その通りだ! これではまるでできの悪いドーナッツだ!」
同志よ・・・。
しかし、35にもなる男が二人、どうしてこんなことで盛り上がるんだろうな・・・。
「それはやっぱり幼児期体験が貧しかったからではないのか?」
へ・・・?
「戦後20年。やっぱりまだまだ貧しかったんだな。袋菓子だってそんなになかったし、だからこそ、給食の白玉だんごや、フルーツポンチ。あげぱんなどに異様な執着があるんじゃないだろうかな?」
うーん。たしかにそうかもしれない。
しかし・・・。
「本当のあげパン、喰いたいよな・・・」
ああ・・・。なんでそんなにしみじみしてしまうのだろうか・・・。懐かしい味があげパンなんてなんだか悲しいのである。
しかし、結局あげパンは食ってしまった。
「典型的なもったいない人間だな。駅弁の蓋の米粒から喰うという」
人のことが言えるのか? 貴様は。
しかし・・・。一つ疑問があるのだがな。Sよ・・・。
「どうした?」
あげパンのさとう味以外の味って何だろう・・・。
なんだか怖い考えになってしまったのだった・・・。(01,4,26)