呆冗記
呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。

38℃の攻防

 熱が出た。きっぱりと熱が出た。凄まじく熱が出た。
 熱があるのにどうしても手を離せない仕事があった故に無理して出勤を続け、仕事が終わったとたんに体も壊れた。
 咳と嚔(くしゃみ、態とらしく難しい漢字を使うのも熱のせいだろうか)がとまらず、喉の粘膜は真っ黄色の痰を製造するのに余念がない。
 平熱が35℃しかない人間が38℃以上出したらどうなるか? 36℃5分の人間の39℃5分である。これはちょっとしたものであろう。これが私の現状である。平熱よりも3℃高いと人間かなりトリップ出きるようだ。
 だいたい、私は体型から見ると信じられないかもしれないが、低血圧の低体温なのだ。過去に骨折で入院したときに、電子体温計が私の体温に対応出来ず、エラーばっかりとなってしまった。
 これが紳士淑女ならまず、非は体温計にあると考えられただろうが、なにせこちらは洟垂れ高校生である。看護婦さんは瞬時に非をこちらに認めた。
 「上杉君、あんたなに莫迦な悪戯してるの。ちゃんとしなさい。ちゃんと」
 「いや、何もしてませんって」
 「だったら何で体温計にエラーが出るのよ」
 「あのお、体温計壊れてるんじゃないですか?」
 「そんなはずないでしょ。昨日もエラー出たじゃないの。全部壊れてると言いたいの」
 そんなこと言われても困るのである。
 「あのお、じゃあアナログ体温計ありませんか?」
 私の譲歩であった。
 看護婦さんはこちらを睨み付けると看護婦詰め所から年代物のアナログ体温計を持ってきてくれた。
 そして計ってみたところ・・・。
 34℃9分。
 だから、私は胸を張って主張できるのだ。電子体温計の最低計測限界は35℃であると。(おそらく何の役にも立たないのだろうが・・・)
 そして、看護婦さんの態度もまた私の入院中大変優しかったのである。
 ああ、二十歳程度の若い看護婦さんなら、友人T好みの、恋のアバンチュールも生まれたやもしれないが、私の担当の看護婦さんは私の母より年上の方であったのだ・・・。はあ。
 そういう星の元に私は生まれ、死んでいくのかもしれない・・・。
 いかんいかん。高熱のあまり人生を悲観的に考えてしまっている。これは悪い兆候だ・・・。
 何か楽しいことを考えなければならない。少なくとも、無理矢理詰め込んだ昼食後30分は起きていなければならない。30分たったら薬を飲んで再び布団に潜り込むのだ。
 ああ、どこかからか、白鳥の湖の曲が聞こえるではないか? どこでどう刷り込まれたかは知らないが、昔から熱が出たり具合が悪いと頭の中にLPレコードがぐるぐる廻っているイメージが浮かび上がるようになってしまった。そして白鳥の湖が聞こえるのである。これはいったいどういうことなのだろう。
 うう、また嚔が出る。
 ハクションの湖。そういうことかなのであろうか。
(01,1,31)

 追記 下手な駄洒落で落としたが、白鳥の湖云々は本当である。
    いったいなんでこんな曲がかかるのだろうか。
(01,2,2)


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