変な人たち
男は呆然と売り場に書かれたポスターを見上げていた。
12月は7日のことである。
『20世紀アリス 売り切れました』
「どうしてニャ。どうして、どうして、今日発売で、今はまだ3時で、商品が売り切れるニャ」
私はその姿を見なかったことにしてくるりと背を向けようとした。今日は外回りのついでに職場で使用するカセットテープやビデオテープの購入に『Yカメラ』へ来ていたのだ。
そこで、私は見てはならないものを見てしまった。
そのまま背を向けて帰ろうとする。しかし、僅かに遅かった。
「上杉ぃ・・・。アリスソフトの限定品。『20世紀アリス』が売り切れニャ・・・。僕はどうすればいいのかニャ・・・」
気付かれてしまった。しかし、そんなことを誰が知るか。
「前回の、アリスの館4・5・6はきちんと買えたのに・・・。限定品だから再販はあり得ないニャ」
どーでもいいではないか。
「いざいかん、『はい』電気。へ。さあ、上杉、車を運転するニャ」
って、おまえなあ・・・。
そうこうしている私たちの横を、ポスターを見て舌打ちをし、足早に去っていく男達がいる。
まさか、この人々もTの同類なのだろうか・・・。だったらとっても嫌なのである。
結局、我々は『はい』電気で商品を購入することに成功した。
しかし、やっぱりT。おまえどっか変だぞ。
やっぱりサロマの蠣は美味いのである。今日は12月10日。ボーナスもでたし(少しだけど)少し贅沢をしようと『K』さんへ来ている。いつもの面子である。
「美味いニャ」
だから、少しは海産物を食うのだT。
「ま、いいんじゃないか。人間喰いたいものを喰えばいい」
確かにそうだが・・・。
「そうだ、マスター。今年も例のものお願いするね」
え、今年も買うのか? ここの黒豆。
「これがないと正月が来ないからな。婆さんもここのでないとダメなんだ。ま、婆さん孝行するさ」
あっさりSが言う。そ、それはそうだろうが・・・。
『K』さんの黒豆は畏れ多くも畏くも、皇室に納めたおせちを作ったこともあるマスターの師匠からマスターが伝授された製法で作られる。その美味たるや、甘い豆が、充分に日本酒の肴になるのだ。
恐るべきは日本料理である。
しかし、わざわざ一瓶買うっていうのが・・・信じられない。
やっぱりS、おまえもどっか変だぞ。
さて、評判のUNIQLOへ行ってみた。寝間着代わりのスエット上下と、トレーナーを何着か、それに部屋で着る暖かいカーディガンのようなものが欲しいのだ。
しかし、安い。トレーナー1着1980円とはなんなのだ? 更にスエット上下1980円。スエットのズボンだけ1000円って・・・これが衣料品の価格なのだろうか?
悲しいことに私のサイズはXL。
ところがなかなかそのサイズがない。どうやら大きい方から売れるらしい。
「一サイズ大きいのをお買いになられるお客様が多いものですから・・・」
店のお姉さんが申し訳なさそうに言ってくれる。
私の場合、一サイズ大きいのだったら私XL以上になってしまうではないか! 悲しい話である。
「XLがないのか・・・」
私はモスグリーンのトレーナーのLサイズを棚に戻した。
「じゃあ、XSにするかな」
お姉さんの笑顔が凍る。
痛いほどの沈黙。
「お客様、XSは特に小さいサイズですが・・・」
「へ?」
「XL、L、M、S、XSとなっております」
がああああああん。
私は思わずよろめいた。
不肖、上杉明、今の今までXL、XM、XS、L、M、Sだと信じていたのである・・・。
なんてこったい。
どうやら一番変なのは私らしい・・・。(00,12,10)