呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。
秋の夜長に 2
秋の夜は長い。
ととととと。ああ、これはそんな縛りは必要なかったのであった。
「一体、何をしているニャ」
いや、少し、どころではなく、掃討疲れているのだ。総統かもしれない。最近、土日も休めないし・・・。残業手当は付かないし・・・。
「愚痴るニャ! ま、いいニャ」
ところで、一体、何をしに来たのかな。お前は。
秋の夜に勝手にやってきて、勝手に私の保存缶コーヒーを開けてしまうTを睨みながら聞く。
「また、出たニャ」
出た? 何が。痔でも出たか? 雨降って痔固まる・・・。
「・・・。話をきちんと聞く気があるかニャ?」
あ、結構マジっぽいではないか。何が出たのだ?
「例の奴ニャ。Sの」
何・・・。例の奴が・・・。
「例の奴ニャ・・・」
例のか・・・。やばいな・・・。
などと延々と続けると、もしかして新規にここを訪れてくださった60名近くの方々に堪忍袋の緒が蘇生する暇もないほどの怒りを感じさせてしまう可能性があるのではっきり言おう。
実は、わが友人Sには出るのである。
今回はほぼ完全なノンフィクションな(一部、私があまり親しくない実在の人間の迷惑を考えて仮名にしたり、状況を変えたりしているが)話である。
実は、来年の夏にでも取っておこうかと思っていたのだが・・・。ま、これはこれで良かろう。
一枚、多く着込んで以下の文章を読んでいただきたい。
さて、我が友人、高校教師Sには、どっぺるげんがあが存在する。その存在が確認されたのは、我々が暑い夏を、予備校という名の牢獄で過ごしていた20年近く前だった。
Sが昼飯を「Yゼニトール」(と、我々は呼んでいた。すみません「Yゼミナール」。でも、あの数学は全然役に立ちませんでした!)の地下食堂で取っていたときの話である。予備校での友人。(これも凄まじい話である。予備校で友人を作るなよ。S)のNくん(現医療カウンセラー)が頓狂な声をあげたのだそうだ。
「S、おまえ、どうしてここにいるんだ!」
「へ、ここにいちゃ悪いのかな」
Sは、ラーメンをすすり込みながら剣呑な声を出す。はっきり言って空腹のSを相手にするのは危険である。高校時代から空腹になると奴は凶暴になるのだ。
「でも、お前S駅の南口を南に向かって歩いていかなかったか? 声かけたけど、無視していっただろ?」
「いや、俺は今日はきちんと講義受けてたぞ。M先生の英語は相変わらずわらえん」
私たちは星里もちる氏のあのいまは亡き徳間書店のコミック雑誌『キャプテン』の連載作品以前に、「犬がいぬ」「布団がふっとんだ」「猫が寝込んだ」等のギャグをM先生から浴びせかけられていたのである。さすがにかの先生も「幹事長がかんじちゃう」などという破壊力のある奴は仰らなかったように記憶しているが。自主休講した回に言われていたかもしれない。
「なんだって・・・。じゃああれは誰だったんだ・・・」
思わず唸るNくんであった。
こうしてどっぺるげんがあは私たちの前に姿を現したのである。
そして、数年後Sが時間講師をしていたときの話である。
今度は高校時代の友人Mくんがある飲み屋でSを見たというのだ。
まあ、Sは今も昔もいける口故にそれ自体はおかしくも何ともない。
しかし、最大の問題は、そのとき、彼が婦人同伴であったと言うことなのだ。
これだけは宇宙がひっくり返ってもあり得ないではないか!
そんな事に比べれば、その日、Sが別の場所で別の友人と飲み会をやっていた事実など大したことではない。(本当か?)
更に、どっぺるげんがあはS自身をも襲うのだ。
ある日、「Yカメラ」へ部活の買い物を買いに行ったSはクレジットで買い物をし、領収書を所望した。それを女店員が書いてくれているとき、『実習生』という名札をつけた店員がひょこひょことやってきて、こともあろうに、こう言ったのである。
「S先生、H大学力増進会でお世話になったOです」
そして、領収書を見て一言。
「ああ、今は高校の先生をなさっているんですね」
私はSとは高校からのつき合いだが、あやつは大学時代、N建とK発局とD書房以外のバイトはしていない。(それを全部つぎ込んでPCを購入したのだが・・・)それどころかSはある中学時代の事件からH大学力増進会には嫌な思い出しかないのだ。そんなところでのバイトなどあり得ないのである・・・。
流石に、このときはそう言うことを気にしないSも背筋が凍ったそうだ。
以後、今の職場に移ってからは、生徒の遭遇状況が結構ある。
曰く、数年前、
「先生、いつも乗っているママチャリやめて普通の(彼らの普通の自転車はクロカンである)自転車買ったんだね。どこどこを親と一緒に車で通ったら、走ってたよね」
彼は、今年の夏、例の事件まで乗っていたのはママチャリであり、しかも、その場所は彼が行ったこともない場所だった。
曰く、
「いやあ、昨日、先生にそっくりの人と会ったよ。でもね、すぐ偽物とわかっちゃった。結構美人の彼女と一緒だったから・・・。いやあ、世の中には似た人もいるもんだねえ」
いやあ、この認識の正しさ。これで日本も安心である。
などなど・・・。どっぺるくんは結構アクティブに生きているらしい。
「それでニャ、昨日なんだけどニャ、また出たらしいのニャ」
なに?
「場所は『Yカメラ』の2F。部活の卒業生の挨拶を無視して行ってしまったらしいのニャ」
気が付かなかったんじゃないのか?
「ところが、その卒業生とS。その直後に3Fで会ってるのニャ。Sはなんでも授業で使うタイマーを買いに行ってたらしいのニャ」
ニアミス・・・。で、どうなった?
「何か気味悪いから、下に降りたがる卒業生拉致して4F駐車場からまっすぐ帰ってきたそうニャ」
なんということを・・・。そっくりさんと会えるチャンスではないか! 私だったならすぐに鏡のパントマイムをするというのに・・・。なぜだ、なぜ神は私にどっぺるげんがあを与え賜わなかったのだ!
「でも、どっぺるげんがあと会うと数日後に死ぬって言うニャ」
た、確かに・・・。
「それが本当なら興味あるニャ。ああ、どうして降りていかなかったニャ」
おいおい、数日後って、おまえSと道東旅行に行くんじゃなかったのか。運転中にSに死なれたらとんでもないことになるんじゃないのか?
しかし、それだけはどうしても言えなかった。
Tはどっぺるげんがあについて熱弁を振るっている。
夜はまだまだ続く。(00,10,26)
追伸
これを書いた後、Sから連絡があった。さらなる進展があったらしい。部活生徒の話によると、彼の隣の小父さんが、
「今は、高校の先生しているコンピューターの出来るSという男が昔、うちの会社にいたんだぞ」
と言っているのだそうだ。
会社名はカタカナ4文字。しかし、Sはそんな会社に在籍したことはない。しかもSの名はそんなにある名前ではない。
真面目に怖くなってきたのである。(00,10,31)