呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。
前略 ○○様
前略 ○○様。
このたびは双子のお誕生。お喜びはいかほどかと存じ上げます。
ただ、最近どうしても気になることがあってこのたびお手紙を差し上げます。
あなたのご主人と、お舅さんの関係回復のためのご苦労は重々察しております。しかし、その行為は果たして、ご主人の為なのでしょうか? 最近そんな風に思えます。
妻たるもの、夫の側に立つのが人の道のように思えます。しかし、あなたの最近の行動はお舅さんの側に立ちすぎていませんか?
あなたも息子さんが生まれたのですから、子供がどんなに可愛いかはご理解いただけると思います。特にあなたのお姑さんは心臓が弱く長くは生きられない体でした。限られた時間の中、ご主人をどれだけ愛されたか。その愛情を失ったとき、ご主人がどんなに喪失感を感じたか。ご理解いただけないのでしょうか。
昔のあなたはそのあたりをご理解いただいていたようですが、最近のあなたはそのことをお忘れではありませんか? それどころか、お舅さんが倒れた時にご主人が作ったマトンのソース。快気祝いの蟹料理。等、お舅さんが勝って大満足と行った態度ではありませんか。
シラウオの時もそうです。いったん家を出るのならば、二度と帰らない覚悟はおありでしたか? 自分の母親も、ご主人の使用人も肯定する、ご主人とお舅さんの和解。これをなす自分が正義であると錯覚していませんか? だとしたらトンでもないことです。
余人には伺いしれない2人の関係をあなたごときが中心になってどうにか出来ると錯覚しているのなら、それはちゃんちゃらおかしいと申せましょう。
更には「立派なおじいちゃん」「りっぱなおじいちゃん」こういって育てられたお子さんとご主人の関係が将来、どうなるか。お考えになったことがありますか。
私の母は、すくなくとも、2人の息子が社会人となるまで父親の悪口は一言も言わない女性でした。(息子が社会にでてからは「本当に定年になってもお酒の量が減らない。困ったものだ」など息子に愚痴るようになりましたが)
「お父さんは偉い」
「おとうさんは立派」
「お父さんのおかげ」
ですから、私も弟も、家では酒飲んで寝てばかりの父親でしたが、尊敬していました。しかし、あなたの家庭ではどうなるのでしょうか。私の友人に教員がいますが、「家庭が安定していない生徒は可哀想だ」と言っています。それとも、故意に家庭不和の芽を生やそうとなさっているのでしょうか? ならば何も申し上げますまい。
そういえばとんでも本にこんな記述がありましたっけ。
あなたが愛しているのはお舅さんであり、ご主人はその代用品に過ぎない。
こ言葉が真実を言い当てていたのでしょうか?
むろん、このようなあなたの態度の豹変は、あなただけのせいだけではないのかもしれません。あなたにとってはあらがうことの出来ないレベルでの問題なのかもしれません。
あなたの存在する世界は十数年前、当時のバブル全盛のなかでのグルメブームのアンチテーゼとして生を受けました。ですから、あなたのご主人は権威に対するアンチテーゼとして存在していたのです。権威に対して屈さないあなたのご主人は本当にご立派でした。私など拍手喝采したものです。
対してお舅さんはその権威を代表するものとして存在していたのです。
あなたの世界が権威に対するレジスタンスであった頃はこのシステムは完全に機能していました。しかし、恐ろしいことが起こります。
そう、あなたの所属する世界が大ヒットしあなたの所属する世界が権威として通用するようになったのです。
これより以前、その変化を危惧した、漫画家でもある漫画評論家はこう看破しました。
あなたの世界は10巻ほどで終わるべきだ。そうでなければ、ご主人はアウトローではなくマイホームパパになってしまう。そうなってしまったらあなたの世界は終わりだ・・・。
しかし、いろいろな問題があってそうはなりませんでしたね。ヒット作品の晩節を汚すことなく終わることは大変難しいのでしょう。
そして、あなたの世界は変革しました。権威の象徴、打破すべき存在であったお舅さんはあなたの世界が権威であることの象徴として君臨します。もはやレジスタンスのアウトローであるあなたのご主人の存在は必要性を失ったのです。
しかし、あなたのヒロインの座は変わりませんでした。故にあなたと新しいヒーローであるお舅さんとの接近は必然なのでしょうか?
長々と書いて参りましたがもう、何も申し上げますまい。
ただ、これ以上ご主人を苦しめるのはやめていただきたい。過去のご主人を知る者にとっては今のご主人の姿は涙なしでは見ることが出来ないのです。どうか、力になって差し上げてください。お願いします。
草々
2000年10月1日
コミックス発売以来の一ファンより
山岡(旧姓 栗田)ゆう子様 (00,10,1)