呆冗記
呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。


鮎喰お、鮎

 おまつりがやってきたのに、しごとがおわらない。ほんとうなら、がっこうはひなんくんれんをいちじかんやっておわり。あとは、ときしらずのおしょうゆづけとあかかぶのすのもの。さんさいのにもののごちそうをたべて、おこづかいをもらって、なかじまこうえんへさーかすをみにいくはずなのに・・・。
(口語訳 お祭りがやってきたのに、仕事が終わらない。本当なら、学校は避難訓練を1時間やって終わり。あとはトキシラズのお醤油づけと赤蕪の酢の物。山菜の煮物のご馳走を食べて、お小遣いを貰って中島公園へサーカスを見に行くはずなのに・・・。)

 完全に壊れてしまっているのである。いや、いつもじゃないかという突っ込みはこの際、なしにしていただきたい。気がつけばこの駄文も既に九十有余回。ここまで莫迦話ばかりだといっそ爽やかとも言えるかも知れない。
 閑話休題。
 そんなこんなで泣きながら仕事をしている私にSから来たメールが
 「鮎喰お、鮎」
 であった。
 鮎かあ。S行きつけの名店。『K』さんの鮎は木曽川の鮎である。その味たるやSをして、
 「『K』の鮎を喰わねば夏が来ない」
 と生意気に言わせる逸品だ。
 あかん、涎が・・・。仕事にならんな・・・。
 初鮎としては時期が遅いが、落ち鮎というには早いだろう。ともかく、
 『初鮎は女房の母親を病気にしても喰え』
 という話もあるではないか。
 ここは一発。いない女房の母親を病気にして早く帰るしか、あるまい。
 幸い、外回りの仕事がある。それを最後に、直帰である。直帰。そのまま『K』さんに突入である。
 地下鉄駅のホームでSと待ち合わせる。
 「待ったぁ」
 「ううん、今来たとこ」
 流石、ナイスボケだ。S。しかし、この周りの視線が突き刺さるのはどうにかならんか?
 「竜になるニャ」
 わ、びっくりした。なんでTがここに。
 「川魚を一人で三匹食うと竜なるニャ」
 Tよ、貴様は二つ間違っておるぞ。川魚を三匹喰うと龍になるのは「岩魚」だし、「竜」だったら火系統のドラゴンではないか。東洋系、水系統ははやはり「龍」でないといかんと思うぞ。
 「そんなことはどうでもいいニャ。問題は、なんで二人で鮎を喰いに行くのかと言うことニャ」
 どこで嗅ぎ付けやがった。この味音痴。Sを見ると首を横に振る。
 「わはははは、正義は必ず勝つニャ。今はゲーム屋の帰りニャ。この時期二人で示し合わせ、僕に連絡が来ないとしたら、それは、鮎を喰いに行くしかないニャ」
 見事な推理だ。明智君。しかし、他ならどこでも連れて行くが、『K』さんだけは別である。この偏食児童は魚と魚介類が駄目なのである。魚介類で食えるのは刺身系統だけ。牡蠣はは嫌い。川魚は骨が面倒なので喰いたくない。ええ、おまえ、この前牡蠣食いに行ったときは、鹿肉と鴨肉と牛肉しか喰わなかったよな。
 「治部煮、蝦夷鹿ステーキ、但馬牛肉串焼きニャ」
 うう・・・。神も照覧あれ。鮎の時期に鮎を喰わず、牡蠣の時期に牡蠣を喰わぬ人間に幸あらん事を・・・。
 「行くニャ、行くニャ。治部煮が待ってるニャ」

 結局、行くことになってしまった。

 でもって鮎である。
 鮎。その香り。箸をつけるとその身は輝かんばかりに白い。そしてその身はあくまでも甘く香しい。処女を抱くというのはこういうことかも知れない・・・。
 「池波正太郎氏の受け売りはよせ」
 悪うござんした。
 鮎を喰うときは大急ぎである。焼き上がりを地ビールなど飲んで待っていると。目の前に鮎が出てきた。ともかく熱いうちが勝負だ。身をむしっては飲み込み、『K』さんのオリジナル日本酒で舌を洗っては、はらわたを頬張る。
 Sなど鮎は硬骨魚だというのに骨も頭も噛み砕くという剛の者である。
 「やってみたらどうだ? んまいぞ」
 ま、今度な。そのあと名古屋コーチンのお作りでもう少し酒を飲み、すっかり満足する。
 ああ、うまかった。
 「やっぱり『K』さんの鹿肉は美味しいニャ」
 ま、そういう趣味もあろう・・・。
 「Sくん、上杉君、7月に天然ウナギ、入るからね。楽しみにしてね」
 おお、次はウナギだ。
 ともかく鮎のおかげでもう少しだけ頑張れそうだ。仕事のピークはまだ、これからである。(00,6,18)


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