呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。
ニュータイプのいないG その4
まずは余談。
過去において『ガンダム・センチュリー』なる本がみのり書房から出版されていた。この本は数があまりでなかったためか、現在は古書店街でかなりの高値で取り引きされている。高校時代の仲間内では亡くなったMが持っていたことを思い出す。それが復刻されていたので現在のオフィシャル設定とは異なるものもあるが、あまりの懐かしさについつい買ってしまった。しかし、4千円は高いのである。
以下本編
さて、モビルスーツの運用を開始したジオンにおいて、ある可能性が示唆されたのはモビルスーツ実戦配備のための訓練の途中であった。高速で移動する模擬標的に対し、射撃コンピュータによるサポート以上の反応速度で平均より遙かに高い命中率を発揮するパイロット・ごく一部であるがそんなパイロットが訓練の後半に現れたのである。それはまるで自機と敵機の位置関係の未来予測を行うかのような反応といえた。また、一部のパイロットはシミュレーション上で光の速度で発射されるメガ粒子砲さえも回避して見せたのだ。シミュレーション上とはいえ、光の速度の攻撃を回避するパイロット。現場において彼らは今までとは違う者達。『ニュータイプ』と呼称され密かな注目を集めたのである。
だが、この注目はジオン軍上層部。ドズル・ザビとギレン・ザビによって無視された。彼らにしてみれば連邦軍の根拠地であるジャブローを完膚なまでに破壊し、早期終戦を実現するブリティッシュ作戦の準備に忙殺され、確率論上の現象などに気を回す余裕はなかったのだ。また、特に根っからの軍人であるドズルにとっては現実の存在であるコロニーをジャブローに落とすことが重要であり、その現実の前には、目に見えない可能性などは端から理解する必要のないものだったのだ。また、ギレンも『ニュータイプ』を宇宙選民思想のイデオロギーバックボーンの補強と、「ジオンは『ニュータイプ部隊』という無敵の軍隊を保有している」という定法。宣伝活動に使用したものの、積極的に戦力化しようとはしなかった。
もしも、彼らをブリティッシュ作戦の消耗戦に投入せず、1部隊として特別にチューンしたザクを与えていたら・・・。戦争の帰趨はどうなっていたかわからない。この通説は、ジオンがエネルギーCAPを早期に開発していたら。ゲルググが3月速く量産されていたら。サイクロプス隊がガンダム奪取に成功していたら。ランバ・ラルにマ・クベが増援を送っていたら。アムロ・レイがサイド3に生まれていたら。シャア・アズナブルが父親と同時に死亡していたら。と同様、戦後数十年、徒花のように咲き誇り、枯れていった架空戦記のネタの一つである。
そしかし、現実は無惨だった。現場において新たなる可能性と思われた彼らのほとんどは、ブリティッシュ作戦において駆動時間延長用のバックパックによって機動性を極度に失ったザクの動力性能に慣れる間もなく、次々と戦場にその命を散らしていったのである。この比率は、訓練中の平凡なグループよりも遙かに高く、彼らが優秀さ故に難易度の高い戦場に投入されたことを割り引いても、ジオン軍上層部の無理解を肯定する結果となった。
逆に、彼らのような能力はなくとも、20世紀の航空戦以来の伝統にに忠実なもの達が戦果をあげていたのである。黒い三連星。赤い彗星、青い流星、等々、ジオン軍のトップエースはみな伝統的なエースの末裔達であった。
唯一、このデータを重視した上層部がいた。それがグラナダのキシリア・ザビである。彼女は密かに『フラナガン機関』を設立。ブリティッシュ作戦以後、軍人事に手を廻し、訓練中に特異な成績を叩き出したパイロットを集めようとした。しかし、彼らのほとんどはブリティッシュ作戦によってほとんどが戦死、戦傷していた。
すなわち、自機と敵機の位置関係を正確に予測するには定点となる自機の正確な動力データが必要であり、それがない以上、正確な敵機の位置予測など不可能に近い。フラナガン機関の研究員は生き残ったパイロットの調査により、そう結論づけた。彼らは新しい機体に慣れる間もなく実戦に投入され、消耗させられたのだ。
そこで、彼らが次に目をつけたのが木星−地球間の水素・ヘリウムタンカーの航法士達であった。長距離のタンカーには推進剤の補給が欠かせない。よって、航路の途中に無人の高加速タンカーを数十隻、予定航路を中心に送り出し、そのうちのいくつかとランデブーさせる。これが定法とされていた。しかし、木星航路のパイロットの中に、常にこの補給タンカー分布の中央へ艦を進める者がいたのだ。男の名はシャリア・ブル。『フラナガン機関』において最初のニュータイプと呼ばれた男である。
彼のために試作されたモビルアーマー『ブラウ・ブロ』は単装2基、連装2基の有線メガ粒子砲を装備し、そのパイロットの優れた空間認識力によって大きな戦力になると期待されたのだった。事実、試作機シミュレーションにおいては数倍の敵に有利な戦闘を展開した。が、最大の欠陥はエネルギーCAP開発の遅れによるその本体の巨大さと有線誘導というメガ粒子砲の誘導方式であったであった。
よって、研究者の中には『ブラウ・ブロ』を移動トーチカと位置づける者も多いのはそのビグザムよりも巨大な本体をモビルアーマーの枠に入らないと認識するからに他ならない。
そんな戦後の評価はさておき、『ブラウ・ブロ』は連邦のトップエース、連邦において『ニュータイプ』と呼ばれた少年。アムロ・レイと戦うことになるのだが、それはまだ先のことである。
『ニュータイプ』。今までとは違う者達。ジオンの訓練基地において始められたこの呼称はしかし、ジオンと連邦の情報宣伝戦によりふくれあがり、まったく予想もしない意味を持ってしまった。
『ニュータイプ』新たなる人類。
『ニュータイプ』選ばれた人類。
『ニュータイプ』人間兵器。
言葉だけが暴走し、以後の戦争に大きな影響を与え続けることになる。(00,3,5)
ちょっと短いが今回はこの辺で。
次回、いよいよオリジナルガンダム戦記へ。いやあ、長い前ふりである。真面目にラストまで持っていけるのか。心配になってきたのだった。