呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。
石の城
『シュタイン・ベルガー』
60年代生まれの『ヲ』でこの名を知らぬ者はおるまい。
我々の脳裏に燦然と輝く名作『エリア88』(新谷かおる)。その中で、鋼鉄の撃墜王と呼ばれた、フーパー・キッペリングが愛飲したドイツの白ワインである。
物語の中では2回、この酒を飲むシーンがでてくるのだが、当時の未成年には高嶺の花であった。
が、私の給料が確実に上昇し、我が家の近くの酒屋が内部を大改造して、日本酒、ワインを厳密な温度管理の元販売してくれるようになって、せんだって、久部さんと一緒にはじめてこの白ワイン(1998年)を味わう機会を得たのである。(本来なら、この話は46話になるはずだったのだが、佐藤大輔氏の作品のおかげで発表がずれてしまったのだ)
さて、真っ白いラベルの『シュタインベルガー』のコルクを梃子式のコルク抜きで丹念に引き抜く。クリスマスの時には、例の『黒猫』の白ワインと『キャンティ』の赤ワインをコルクが乾燥しすぎていてウェンガーのポケットナイフ。『モーゼル』で開けることができず、むりやり押し込んだ前科を持つ私としては、注意に注意を重ねるしかない。
こういう言い方はおそらくワインには失礼なのだろうが、クリスマスの2本でこの1本の価格である。慎重にしくはなしである。
しかし・・・。久部さんとふたりでグラスに白ワインを満たし、乾杯をして口を付けた瞬間、違和感が広がったのだ。
「炭酸の味がするね」
私よりはるかに繊細な味覚を持つ久部さんがつぶやく。
「そうですね・・・」
素晴らしい果実臭。フルーティな甘み。滑り落ちるのどごし。しかし、炭酸の残りを感じる。
美味ではある。しかし、白ワインにこのように炭酸が残っていていいのだろうか?
これがあの男たちが愛飲したワインなのだろうか?
それとも、ドイツから日本へのあいだの管理が悪く、炭酸が発生してしまった物なのか?
事態は混迷の度を深め、私は温度管理のしっかりした違う店でもう一度『シュタイン・ベルガー』を購入する決意を固めたのである。
ま、旨かったのでもう一本飲んでみようという下心はまた、別の話なのだ(00,1,29)