呆冗記
呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。


なんてミラクル

 人間、食わなくてもいいものがある。可能であれば永遠に意識の外に追いやっておきたいものがある。
 たとえば、『あんこ豚カツ』
 たとえば、『練りわさびキムチメンタイコラーメン』
 可能であるならば、二度と会いたくはない、可能であれば、二度とにおいも嗅ぎたくはない。しかし、人は興味によって己が命を危険にさらすものなのだ。「好奇心は猫を殺す」のである。
 しかし、その結果、我々は、ホヤを、カキを、フグを、おいしくいただけるのだ。

 さて、Kさんこと久部さんがクリスマスパーティの夜、ワインにビールにウィスキーをしこたま飲んだ後に取り出したもの。それはピンクに輝く二つのカップラーメンだった。
 「ミラクルラーメンって言うんだよね」
 久部さんは飄々として言われた。
 「はあ・・・」
 「噌と、ー油と、アイスクリーム。で、ミラクル」
 「味噌と、ラー油とアイスクリーム」
 私の頭の中を警報が鳴り響く。
 まず、味噌ラーメンは間違いない。大好物である。特に、最近のお気に入りは北47条の『M』。赤味噌ラーメンは絶品だ。
 次に、ラー油。私は餃子を食べるときはたれを使わない。醤油とラー油を半々にしたものにおろしショウガをこれでもかこれでもかえいえいと入れて食べるのだ。これが一番である。
 最後にアイスクリーム。その昔雪印のアイスクリームを九州の又従兄弟たちはとうとう食べられなかった。牛乳臭いというのである。逆に彼らが好んだ赤城のラクトアイスはまるでシャーベットのような味がした。
 それぞれは大好物である。しかし・・・。
 そして、好奇心が勝った。
 だいたい、アイスクリームといったって、フロートのように浮いているわけではない。すぐに溶けるのだ。そして、バター味噌ラーメンという食い物があるではないか。バターも、アイスクリームも乳製品。「馬も四つ足、鹿も四つ足」(あ、逆だ。これでは莫迦である)ではないか。
 私はお湯を用意するとちらりと久部さんの方を向いた。
 「アイスだけ先に食うというわけにはいきませんよね」
 久部さんはゆっくりと首を横に振られた。ま、当然である。
 私は後学のため、乾燥アイス(まじめにかんからかんに乾燥していながらなめると立派にアイスの食感なのだ。まじめに驚いた)をなめてからカップにスープやかやくといっしょに放り込み。お湯を注いだ。

立ち上るバニラの香り!

 「・・・」
 私たちはしばし無言だった。中身は味噌ラーメンである。間違いない。視覚が叫ぶ。これは味噌ラーメンであると。しかし、嗅覚が異議を申し立てるのだ。これは味噌ラーメンではない。バニラの香りがする何かだと。
 一口すすり上げる。のどの奥にバニラの甘い香りが立ちこめる。しかし、味覚は味噌ラーメンなのだ。
 私たちは乾いた笑いをあげた。そのまま無言でラーメンをすすり込む。1960〜65年生まれの基本原則は「もったいない」なのだ。残すことは許されない。

ああ、なんてミラクル!!!

 人間、食わなくてもいいものがある。可能であれば永遠に意識の外に追いやっておきたいものがある。
 たとえば、『あんこ豚カツ』
 たとえば、『練りわさびキムチメンタイコラーメン』
 たとえば、『ミラクルラーメン』
 可能であるならば、二度と会いたくはない、可能であれば、二度とにおいも嗅ぎたくはない。しかし、人は興味によって己が命を危険にさらすものなのだ。「好奇心は夢民を殺す」のである。

 しかし、2000年問題で大混乱がおきてこのWEBページが終わってしまったら、最後の文章これか・・・。ま、実にらしい文章ではありますな。(99,12,27)


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