呆冗記
呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。


なんじゃこりゃぁ・・・

 松田優作。
 『ブラックレイン』をこの夏、金曜ロードショウでやったせいか職場の若者が五月蠅い。
 「いやあ、『こころ』の松田優作さんってアクションも出来たんですね。昼食時の雑談である。
 (莫迦野郎)
 「貴様らなあ、温厚な俺でも切れるぞ! いや、高校の友人Nが聞いたら手前らの首は折れてるぞ」
 思わずそう思ってしまう私であった。
 ああ、Nがいなくなってから、そしてかの方が亡くなってからどれほど時間がたったのだろうか。

 Nは松田優作の出演する映画やTVはすべてをチェックしていたという凄まじい男だった。『探偵物語』を全話ベータで録画していたという噂も(私は確認していないが)あったほどだ。
 彼とはどういう訳か馬があった。アニメマニアの私が松田優作マニア(この頃おたくという言葉は存在しなかった)と知り合ったのもおかしな話だが、『超時空戦記オーガス』というアニメ(OVAにもなったから知る人は多いかもしれない)のエンディングテーマ(今聞くと、どう考えても男と女の翌朝の情景と思ってしまうのは私がすれてしまったせいであろうか)が松田優作主演の『探偵物語』の音楽と関係があったからだった。
 いや、その評論の深さは凄まじくリアリストでストイックだった。
 あの、『探偵物語』の最終回。探偵の工藤ちゃん(松田優作ファンの方、私の年齢に免じて、こういう呼び方を赦して欲しい)が今まで駆けめぐった街の中をシーンごとに色の変わる傘を差しながら歩くラストシーン。「生きていたんだ」そういう私に彼はとどめを刺してくれたのだった。「普通の人間が差している傘の色が変わるか。甘いなあ。やっぱりラストで死んだんだよ」
 あの傘は天使の翼だったのだろうか。

 私はステンのマグカップでお茶を飲みながら若いのに訪ねた。
 「『なんじゃこりゃあ』っていう『太陽にほえろ』のシーン知ってるかい?」
 なんとなく、凄まじく年齢をとった様な気がした。
 「ああ、よくギャグでありますね」
 「おまえら、オリジナルを知らないのか!」
 瞬間。私は目眩を感じた。もう、若い時間は帰ってこないのだろうか?

 『ブラックレイン』の撮影前に、かの監督がこう聞いたそうだ。
 「アクションは出来るのか?」
 松田優作は『にやっ』と笑ったそうだ。
 (これ、何かで読んだのだが、何で読んだのかわからなくなってしまっております。ご存じの方がいたら教えて下さい。上杉の妄想ではないはずです)

 Nは高校を卒業するとボストンバック一つで東京へ向かった。私は北条司氏の『キャッツアイ』と『シティハンター』(当時結古本屋に構高く売れた)を売った金を餞別に渡した。その後、Nとは連絡がない。私は再び北条司氏の漫画を買うことはなかった。
 結局、私は生まれた土地から出る勇気はなかった。だから・・・私には松田優作氏を評論する資格などはないのかもしれない。しかし、その否定の言葉はNにこそ言って欲しいのだ。
 「甘いなあ。上杉。おまえが松田優作を語るには十年早いんだぜ」と。
 そして、その時、私は文庫版の北条司氏の漫画を買うのだろう。
 (99,8,25)


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