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アンタルヤ (1992年4月28日) ![]() カイセリからアンタルヤまで夜行バスに乗った。 トルコを旅行する時、最もお世話になる交通機関はバスだろう。 鉄道より路線も多いし、交通渋滞のないこの国では時間も正確だ。 バス会社もたくさんあって競争が激しいからサービスもいい。 オトガル(バスターミナル)の眺めはなかなか壮観だ。 各バス会社のカラフルな看板が並び、客引きがさかんに呼び込みをしている。 バスの呼び込みなんて他の国ではまず見かけない。 バスが発車すると、車掌さんが乗客ひとりひとりの手にコロンを振り掛けてくれる。 日本のおしぼりサービスみたいなものだろうか。 飲み物のサービスもある。 もうひとりの車掌さんは、ひとりひとりに行き先を聞いてリストに記入していた。 夜中に眠っていても目的地に到着したら起こしてくれるのだ。 アンタルヤ到着は朝9時過ぎ。 寝過ごすことはないだろうとは思ったが、それを聞いて安心した。 それからトルコの夜行バスでは男女が隣合わせになることはない。 イスラムの戒律のせいなのだろうが、ひとり旅の女にはありがたい習慣だ。 目を覚ますと、窓の外は明るかった。 それとも明るくなったから目が覚めたのだろうか。 眠い目をこすりながら外を見ると、バスはくねくね曲がる山道を走っていた。 木々の間に湖が見える。 何と言う湖だろう?かなり大きな湖だ。 朝の光に湖面が静かにきらめいていた。 昨日親しくなった絨毯屋さんが、私が夜行バスで行くと知って「夜じゃせっかくの景色が見えない。昼のほうがいい。」と言ったのも一理あるなと思った。 眠っている間に見過ごした景色にちょっと未練を感じてしまった。 アンタルヤの町に着いて、最初にツーリストインフォーメーションを探した。 やっと見つけてホテルを紹介してもらおうとすると、一言「ホテルならその辺にいっぱいある」。 いっぱいあってどこがいいかわからないから紹介して欲しいんだろうが〜と言いたかったが、英語力もないことだしあきらめた。 とりあえず最初に目についた適当な宿に落ち着いた。 アンタルヤの町は地中海沿岸で最も大きなリゾート地だ。 シーズンにはちょっと早いが、海岸にはヨットがいくつも並び、海は果てしなく青く輝いていた。 海岸付近の華やかさとは裏腹に、路地を辿って行くとひっそりと静かな町並みが広がっていたりして、散策するにはおもしろい。 途中、宿の近くの旅行店の前に座っているジュンコさんという日本人の女性に出会った。 その時はしばらく話をして別れたのだが、夕食に誘ってみようともう一度出会った場所まで行ってみた。 彼女の姿は見えなかったが、近くに住んでいるのだろうとオフィスにいる人に彼女の居所を聞いてみた。 彼女を知っているという男の人が連れて行ってくれるというのでついて行くと、彼は道端に止めてあったタクシーに乗り込んだ。 彼はタクシーの運転手さんだったのだ。 タクシーは町を出て、近郊の新興住宅地のようなところを走って行く。 タクシー代を請求されるだろうかと心配したが、サービスだと笑う。 やがてタクシーは立ち並ぶ団地のような建物のひとつの前に止まった。 その一室に案内されると、ジュンコさんが昼寝をしていたのか眠そうな顔で出てきた。 申し訳なく思いながらも、夕食を一緒しようと思ったことを話すと快く受けてくれたのでほっとした。 リビングに座ってチャイを入れてもらう。 ジュンコさんは、アイデンというその男性とここで一緒に暮らして居るのだった。 そのうち結婚しようと思っている、と言っていた。 食事は3人でアンタルヤの町に出て、アイデンのよく行くというお店へ行った。 ごく普通のロカンタ(大衆食堂)。 トルコではこういうお店の方が高級レストランより美味しいような気がする。 アイデンがおすすめ料理をどんどん注文してくれた。 ひとりで食べるよりたくさんのものを食べられるし、なによりしゃべる相手がいるのは楽しい。 お腹いっぱい食べた後、アイデンがとある場所に連れて行ってくれた。 細い路地の奥にある小さなチャイのお店。 薄汚れた店の中にはテーブルとイスが数個あるだけ。 ここはもっぱらチャイの出前をしている店で、私たちが絨毯屋などでチャイをごちそうになるときはこういう所から配達してもらっているらしい。 大きな機械でチャイを入れている。 私たちがチャイを飲んでいる間にも、下働きらしい男の子が飛び込んで来ては、お盆にチャイを載せて出て行く。 狭い店内には数人の男性がチャイを飲んでいたが女性の姿はない。 そういえばトルコの女性はチャイハネには行かないと何かに書いてあったような気がする。 ジュンコさんもこういう所に来たのは初めてと言っていたから、私のために連れて行ってくれたのがわかって嬉しかった。 その後、私の泊まっていたホテルまでふたりで送ってくれた。 夜の空気に甘い匂いが混ざる。何の花だろうか。 昼間歩いたこの町には、オレンジやミモザ、アカシアなどの花が咲き乱れていた。 昼間は気がつかなかった僅かな香りが暗闇の中に息づいている。 アンタルヤの町は最初のインフォーメーションの印象が悪かったし、ちょっと観光地ズレしてるところもあったけれど、こんな香りの中にたたんでいると、そんなことがどうでもいいくらい、いい気持ちになってしまうのだった。 |