アンカラ〜ユルギュップ
(1992年4月25日)

    アンカラ城跡
    アンカラ城跡内

    アンカラの北東、ビザンチン時代に築かれた城壁に囲まれた一帯がアンカラ城跡である。
    城、と言っても城壁の内部は現在は住宅街になっている。
    一部スラム化しているという話だったが、私が見た限り荒れた雰囲気はなかった。
    子供たちがかけっこしながら通り過ぎる。
    窓から干している洗濯物がはためいている。
    牛乳の配達車が城門の前に乗りつけると、近くの家からおばさんたちが容器を手に集まってくる…。
    人々の生活の匂いがあちこちに感じられた。

    城壁の門から続く道を登っていると、向こうから兄弟らしい男の子がふたり、大きなかごを抱えて歩いてきた。
    これから行商に行くところのようだ。
    目が合ったので「メルハバ(こんにちは)」とあいさつすると、10才くらいの男の子の方が近寄ってきて、かごの中のキャンディを一袋手渡してくれた。
    「いくら?」と聞くと首を振ってさらにもう一袋、ちがう種類のキャンディを押し付ける。
    そしてお兄さんの後を追って足早に行ってしまった。
    大事な売り物だろうに、なぜ私にくれたのだろう?
    後でTさんにこの話をすると、これからもこんなことはよくあると思うよ、と言う。
    トルコでは親日感情が強く、日本人にはなにかと親切だとか。
    それにしても通りすがりの人間にそんなに親切なものだろうか。そのときは思ったのだが、後に嫌というほどTさんの言葉を実感するのだった。



    ユルギュップの町
    ユルギュップにて


    カッパドキア地方はトルコ有数の観光地だ。
    かつてキリスト教徒たちが迫害を逃れて隠れ住んだ地下都市や岩窟都市がある。
    アンカラからはバスで5時間。
    お昼を軽く食べた後、Tさんと一緒にバスに乗った。

    途中、バスからの眺めは見渡す限りの平原だった。
    何もない道の真ん中でバスが突然止まったと思ったら、羊の群れが道を横切っていたこともあった。
    時折天気雨が通りすぎ、平原に虹がかかる。
    いつまでも続くかと思われた平原が途切れ、やがて町にさしかかった。
    カッパドキア地方では最も大きいネヴシェヒールの町だ。
    私達はもっとカッパドキアらしい町に泊まろうと、更に先のユルギュップまで行くことにした。

    ◇◇◇◇◇

    ユルギュップの町でバスを降りると、一番最初に目についた旅行社で今日のホテルと明日の観光ツアーを決めた。
    紹介してもらったホテルに向かい、一息ついたのが6時頃。
    この時期のトルコは8時過ぎまで明るい。
    散歩でもしようかと外に出た私達は、ひょんなことから途中道案内してれた少年ムスタファ君の家に招待されることになった。

    私達が案内されたのは、岩肌を刳り貫いて作られたような小さな家だった。
    玄関で靴を脱いで入る。
    入り口は狭くて気をつけていないと頭を打ってしまうほどだったが、中は思ったより広くてきれいだった。
    床には色とりどりの絨毯が敷かれており、白く塗られた壁にも色鮮やかなタペストリーが掛けてある。
    箪笥とベットの他には家具らしい家具もなかったが、テレビはあった。
    家族構成はお父さん、お母さん、ムスタファ君とその弟君(推定2才)。
    Tさんはトルコ語が堪能なので会話はトルコ語だ。
    トルコ語は片言しかわからない私は話についていけず、もっぱら弟君と遊んでいた。
    そのうちお父さんがアルバムを持ち出してきた。
    結婚式の写真、親類が集まった時の写真、ひとつひとつ説明しながら見せてくれる。
    その中にムスタファ君の割礼の時の写真などというものもあった。
    我々日本人にはなじみのない習慣だが、イスラム教徒にとっては大切な儀式のようだ。

    そうこうするうちに食事の時間になった。
    この食事の方法がなかなか合理的でおもしろい。
    まず床に大きな布を敷いて、まるい木の枠を置く。
    やがてお母さんが料理を載せた直径1メートルくらいの大きなお盆を持ってきてその枠の上に置いた。
    そうするとちょうどまるいちゃぶ台のようになる。
    食べる時は床に座って布の端を膝に掛けて食べる。
    みんなでお盆を囲んで食べる姿は、なんとなくひと昔前の日本の食事の光景のようだ。
    玄関で靴を脱ぐ習慣といい、トルコと日本はどことなく似ているような気がする。
    料理は豆とおいものスープ、羊肉と野菜の煮込み、青菜のサラダと素朴なものばかりだったがとてもおいしかった。
    トルコ料理のよさは家庭料理にあると言われるのもうなずける。
    それからパン。
    トルコのパンはおいしい。
    外側はパリッとしていて中はふんわり。
    バターなどつけなくてもどんどん食べてしまう。
    食べる端から切り分けてくれるので、適当なところで"Hayur sagolun(=no thank you)"と言わないときりがない。

    食べ終わっておいとまする頃には9時を過ぎていた。
    明かりもない暗い道。
    ホテルの近くの広い道までムスタファ君が送ってくれた。
    空には一面の星。
    おいしい夕食と、明日のカッパドキア観光への期待でいい夢が見られそうな夜だった。



    (4/25終)

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