■2004/04/16 Renewal

Cordes sur ciel
空の上のコルド

Cordes sur ciel―「空の上のコルド」。

なんて素敵な名前なんだろう。
この名前にひかれて、フランスのタルン地方にあるその町に行くことにした。
小高い丘の上に築かれているその町は、朝霧の漂う時には、その名の如く雲の上に浮かんでいるように見えるという。
最寄りの鉄道駅Vanrac-cordesからコルドの町までは約5km離れている。
ガイドブックに「アルビからのバスを利用するほうが便利」と書いてあったので、まずアルビの町に行くことにした。


2000.04.27

朝から雨が降っていた。
アルビのバスターミナルは乗り場の横に小さなカフェがあるだけで、切符売り場などは見当たらない。
カフェの窓ガラスに貼ってある時刻表では7時45分にコルド行きのバスがあるはずなのに、一向に来る気配がない。
カフェのおじさんに聞いてみると「今はバカンスシーズンじゃないからバスはないよ」と言われる。
これは困った。
旅行の日程上、なんとか今日中に行きたいが、鉄道で行って雨の中5km歩くのは避けたい。
迷ったすえ、昼までに雨が止んだら行くことに決めて、アルビの町を散歩することにした。
アルビはタルン川のほとりに位置する古い町で、サント・セシル大聖堂やトゥールーズ・ロートレック美術館など見所は多い。
通り過ぎるだけではもったいない町だ。(→街角便り「アルビ」
そうこうしているうちに雨が上がりはじめた。午後はコルドに行こう。
トゥールーズ行きの列車でTessonniersまで行き、Aurillac行きに乗りかえる。
車窓からの眺めは一面のどかな農村風景だ。
ちょうど新緑が美しい季節で、見飽きることがなかった。


Vanrac-cordesの駅は、何もない小さな駅だった。
列車を降りたのは私ひとり。
駅の前にあった「CORDES 5km」の標識に従って歩く。
国道に出ると視界が急に開けて、一面の菜の花畑が広がった。
そしてその向こうに、遠くコルドの町が浮かび上がっていた。
要塞のようなその姿は、のどかな景色の中でそこだけ異質な感じがした。
菜の花畑とコルド
道に沿って歩き続けると、やがて道はカーブしてコルドの町は見えなくなった。
しかし、一本道なので迷う心配はない。
途中、Vanracの村を通り過ぎた。
村とは言っても道沿いには小さな家が数件あるだけ。100メートルほどで通り過ぎてしまった。
その後はしばらく、木陰も何もない野原の中の一本道をひたすら歩くことになった。
空は厚い雲に覆われていたが、晴天だったら逆に暑くて大変だっただろう。

コルドまであと2kmほどになった頃、横を駆け抜けていった車がその先で止まった。
車の中にはふたりのおじさん。コルドまで行くなら乗らないかと手招きする。
もちろん、ありがたく乗せてもらうことにした。
しばらくして、車がなだらかな坂を登りきったと思ったら、いきなり目の前にコルドの町が姿を現わした。
後部座席で騒ぐ私に、おじさんたちも相槌を打ってくれる。
車はコルドの町のある丘を回り込むように走り、やがて町の入り口の広場に辿りついた。
そこで私を降ろすと「Bon Voyage!」との言葉を残して、車は走り去っていった。
こんな束の間の出会いが私は好きだ。
なんとなく幸せな気分で、コルドの町に足を踏み入れた。

なだらかな坂道の両側にみやげ物屋が並んでいる。
シーズンオフというわりには賑やかだ。
町の周囲には駐車場がたくさんあったので、観光客のほとんどは自家用車で来ているのだろう。
やがて、道の先に時計塔のある門が見えてきた。
ここから先は勾配がきつくなる。
息を切らしながら急な石畳の坂道を上ると、ベンケール門に着いた。
この内部がいわゆるシテ(旧市街)で、13世紀頃の建物が多く残っている。
時計塔の門
Porte de l'Horloge
シテをまっすぐに貫くレイモンド7世大通りを歩く。
「大通り」と名付けられていても、車が行き違うのがやっとの狭い石畳の道だ。
観光案内所を見つけた。
13世紀の建物だという「フォンペイローズの家」の一角が観光案内所となっていた。
ここで地図を手に入れて、ついでに帰りのバスのことを聞いてみる。
やはりアルビへのバスは、この時期はないそうだ。
地図を見ながら、案内所の裏手にあるサン・ミシェル教会に行ってみた。
シテ内にある唯一の教会だ。
13〜15世紀の建立で、素朴ながらも堂々たる造りだったが、残念ながら中には入れなかった。
そのまま大通りの一本裏手にあたるサンミシェル通りを歩いた。
薄暗い石畳の道を歩いていると、中世の町に迷い込んだような気分になる。

やがて道は大通りと合流し、門に突き当たった。ここがシテの終わりだ。
その向こうまで行ってみると、展望台に出た。
ちょうど晴れ間も見えてきたので、ここでちょっと休憩することにした。
こうして見ると、この町が城壁で幾重にも囲まれているのがわかる。
ヨーロッパの中世は暗黒時代とも呼ばれる。
魔女狩りや100年戦争、宗教戦争、ペストの流行…。
幾重にもめぐらされた城壁は、そのような災いから町を守るためのものだったのだろうか。
のどかな緑の農村風景を眺めながら、ふとそんなことを考えた。
町にひき返し、賑やかなレイモンド7世大通りを散策する。
現在のコルドの町は、芸術と工芸で復興を果たし、多くの観光客が集まる観光地となっている。
アトリエや土産物屋などを一軒一軒眺めながら歩くのは楽しかった。
イヴ・ブレイヤ―美術館には、この町が芸術で復興する中心となったブレイヤ―の描いた風景画をはじめとして、リトグラフやタピスリーなどが展示されている。
他にもおもしろそうな美術館やギャラリーがあり、ゆっくり見たかったのだが、あまりのんびりしてもいられない。
駅までまた1時間以上歩かなければいけないし、天気も心配だ。
さっきから小雨が降ったり止んだりしている。
列車の時間は6時だったが、4時頃、町を発つことにした。
コルドの町並み

町の入り口まで坂を下り、来た時には車で通った道を歩き始める。
しばらくすると、Les cabannesという小さな町に出た。
ここは、行きに車の中からコルドの町を見つけて感激した所だ。
町はずれ近く、道の横に苔むした小さな階段が続いているを見つけた。
なんとなく上ってみると、小さな十字架が出迎えてくれた。
この階段は教会へ続く階段だったのだ。
ここから見るコルドの町の景観が素晴らしかった。
眼下にはLes cabannesの町の家並み、それを取り巻くように緑野が緩やかに続き、その先にコルドの町がそびえる。
教会の前のベンチに座ったまま、かなり長い間その景色を眺めていた。
教会の前より
雲行きが、また少し怪しくなってきた。
駅までの道をひたすら歩き始めたが、空模様は悪くなる一方だった。
黒い雲が空の半分を覆い、北の方角の山が白く霞んでいる。
あの雨がここまで来る前に、せめてVanracの村まで辿り着ければ…との願いもむなしく、やがて雨が降り出した。
はじめポツポツきたと思ったら、すぐに視界が白く霞むようなどしゃ降りになった。
傘もまったく役に立たない。
Vanracの村までの100メートルほどを歩く間に、乾いているところがどこもないくらい、びしょ濡れになってしまった。
しかし、ここまで降られるとかえって気持ちがいい。
雨が降る前のじっとりと重かった空気が洗い流され、涼やかな空気が漂う。
雨の白いカーテン越しに見る景色は、さっきまでの景色とは違って見えた。
やっと辿り着いた一件の家の軒を借りて、雨宿り。雨はますます激しくなっている。
飛沫が白い煙のように漂い、雨は川となって道を流れていく。
こういうハプニングも悪くはないが、列車に乗り遅れるのは避けたい。次の列車は2時間後なのだ。
幸い雨宿りして10分ほどで、小降りになってきた。
歩き始めてしばらくすると雲の合間から陽が漏れ始め、いつのまにかさっきの雨が嘘のような青空が広がっていた。

振る返ると、菜の花畑の向こうにコルドの町が浮かんでいた。
初めて見た時のような違和感を感じないのは、あの町が石造りの要塞などではなく、花で飾られた家々が迎えてくれる美しい町だということを知ったせいだろうか。
青空の下、菜の花畑に囲まれたコルドの町はとても幸せそうだった。

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