−第十章 運命の出会い・後編−
1
アシュラと対峙したアレウス達三人は、剣を正面に構えた。各々の剣には強力な魔力が込められており、その刀身からまばゆいオーラを放っている。
「ゼルフ、フォルスの怪我を看てくれ」
アレウスは後ろを振り向き、ゼルフに指示を送る。
「かしこまりました」
ゼルフは頷き、肩の傷を押さえてうずくまっているフォルスに近づいた。
「癒しの呪文をかけます。精神を落ち着かせ、呪文を受け入れてください」
ゼルフはフォルスの手をどかし、傷口に触れた。
「ううっ!」
フォルスは目を閉じて激痛をこらえる。
ゼルフが呪文の詠唱を始めるのと同時に、淡い光りが発せられた。ゼルフの詠唱は次第に大きくなっていき、そして最高潮に達したとき、光りははじけた。
「もう結構ですぞ」
ゼルフはフォルスに声をかける。フォルスは恐る恐る目を開けると、傷口は驚くほどきれいに塞がっていた。
「すまない」
フォルスは剣を拾い立ち上がろうとした。
「っ!」
だが、再び肩に激痛が走る。まるで細身の剣(レイピア)で貫かれたような痛みだ。フォルスはまた地面に倒れた。
「傷は塞がっても動かすのはまだ無理です」
ゼルフは慌てて抱え起こす。
「あの男はアレウス様達に任せましょう」
そう言って、ゼルフはアレウス達の方を見た。
(あの男が、”魔王”アレウス・・・・)
地面に膝をつきながらも、フォルスは真っ直ぐにアレウスを見つめた。
「”魔王”アレウスか。のこのことそっちから出てくるとは好都合。フォルスともども血祭りに上げてやる」
アシュラは武器を握り直し、気持ちを切り替える。今度の相手は三人。それも魔族だ。気を引き締めないと、勝てる相手ではない。
「行くぞ!」
アレウスの声を合図に、三人は正面から突っ込んだ。
「何人来ようと同じだ」
アシュラはわずかに腰を落とし、三人を迎え撃つ。
「だああああ!」
カイザが雄叫びを上げながら剣を振り下ろした。アシュラは剣で軽く受け流す。
その後ろから、すかさずラルクが飛び込んだ。しかしその攻撃も小槍(ショートスピア)に受け止められ、さらに棍棒で反撃された。
ラルクは盾を使ってアシュラの攻撃を受け止めた。しかし、それでもなお凄まじい衝撃がラルクの身体を突き抜ける。あまりの勢いに後ろに吹き飛ばされてしまった。
「やつはオーガーか・・・・」
ラルクは、思わず怪力のオーガーを連想した。盾を持つ左腕がビリビリと痺れる。
「カイザ、気をつけろ」
「そのようですね」
アシュラの攻撃を目の当たりにし、二人は慎重に攻める。
しかし、その攻撃は八本の腕によってすべて防がれてしまった。アレウス達は息もつかせぬほどの攻撃を加えたが、ことごとく跳ね返されてしまう。
「どうした。フォルスの方がまだマシだったぞ」
八本もの腕を持つ相手と戦うことは、もちろん始めてである。慎重に相手の攻撃を見極めようとしたことで、剣に鋭さが欠けていた。
「ふん、魔族といえど大したことはないか」
アシュラは残忍な笑みを浮かべる。もちろん、それはアレウス達を怒らせるための芝居だった。怒りで冷静さを失えば、必ず隙ができる。だが、怒りが逆に思わぬ力を出させることもあるので、アシュラはそれ以上は深追いしなかった。
「いきがっていられるのも今のうちだ!」
期待通り、一人の男がアシュラの挑発に乗ってきた。
「カイザ落ち着け」
アレウスが慌てて制するが、カイザはその声を無視してアシュラに突っ込んでいった。
「来な」
アシュラは剣を構えた。しかし、アシュラの予想以上にカイザの攻撃は鋭かった。最初の攻撃を受け流したのは良かったものの、二撃目をかわすことができず厚い胸板に鋭い刀傷を受ける。
(ふっ、キレやすいがそれで力が増すタイプか。一番やっかいだな)
アシュラは鋭い攻撃を繰り出した。
アレウスはカイザを援護しようとアシュラに飛びかかる。アシュラは二本の腕でその攻撃を受け止め、残る腕でカイザを攻撃した。
カイザは地面を転がっていくつかの攻撃をかわしたが、棍棒をまともに胸に受けてしまった。
鈍い音と共に、カイザはものすごい勢いで吹き飛ばされる。地面の上を何度も転がりながら、カイザはようやく止まった。
「ゲホッ、ゲホッ!」
息が詰まり、カイザは激しくせき込んだ。その口から赤い液体が吐き出され、地面を濡らす。
「ちくしょう!」
胸が激しく痛む。
「じっとしていてください。いま癒しの呪文をかけますから」
その様子を見て、フォルスを看ていたゼルフがやってきた。
じっとしろと言われても、始めから動けるような状態ではない。カイザは胸を押さえながら、苦痛に顔をゆがめる。
ゼルフがカイザの胸に手を当て、軽く押した。
「ぐあっ!」
カイザはたまらず悲鳴を上げた。
「折れた骨が内臓に突き刺さっているのでしょう」
これでは傷を癒してもまともに戦えそうにはない。
一対一となったアレウスは、アシュラと激しい戦いを繰り広げていた。戦っている内にアシュラの攻撃にも慣れてきたが、それでも凌ぐだけで精一杯であった。
「なぜお前達は我らを滅ぼそうとする」
アレウスは剣を横に払った。
「どうした、急に?」
アシュラがその攻撃を受け止めると、激しく火花が散る。
「そもそもお前達は何者だ。有翼族はどこから現れたんだ」
今度は首筋めがけて突きを放つ。
「知る必要のないことだ。滅びるお前達にはな」
アシュラはわずかにアレウスの剣の軌道を変え、後ろにそらした。
「一つ教えてやろう。お前達を滅ぼすのは、大いなる意志のためだ」
「意志だと・・・・?」
アレウスの動きが一瞬止まる。
「一体誰の意志だ?」
有翼族を操る存在がいるということなのだろうか。
「おしゃべりは終わりだ。お前とフォルスが消えれば、運命は我らのものとなる」
アシュラは拳でアレウスの顔面を狙う。アレウスは腰を落としてかわした。
さらに振り下ろされてきた剣をかわし、小槍(ショートスピア)を正面で受け止める。そしてアレウスは、アシュラの顔面めがけて炎を吐いた。
「なにっ!」
ドラゴンの炎とは比べものにはならないが、それでもアシュラを怯(ひる)ませるには十分であった。
「私は人間ではない。それを忘れるな」
アレウスは今が勝機と悟り、長剣を一閃させる。そして、血しぶきが上がった。
アレウスの剣は、狙いをたがわずアシュラの肩に食い込んだ。溢れる血液が、アシュラの身体に幾筋もの赤い線となって流れる。
(やった!)
手応えは十分にあった。勝ったと思ったその瞬間・・・・
「がはっ!」
今度はアレウスが血を吐き出した。
一瞬、アレウスには何が起こったのか分からなかった。しかし視線を下に向けた瞬間、アレウスの目が大きく見開かれる。
アレウスの脇腹に、小槍(ショートスピア)が深々と突き刺さっていたのだ。流れ出る鮮血は小槍(ショートスピア)を伝い、地面に血だまりを作っていった。
(ばか・・・・な・・・・)
明らかにこちらの方が傷が深い。アレウスの身体から、急速に力が抜けていった。
「そっちこそ忘れるな。俺は有翼族じゃないんだ」
アレウスにとどめを刺すべく、アシュラは剣を振り上げた。
2
とどめを刺そうとした瞬間、アシュラの剣が弾かれた。
「ちっ!」
アシュラは舌打ちをする。
「どいつもこいつも邪魔しやがって」
アシュラの視線の先には、ラルクの姿があった。ラルクが〈フォース〉の呪文を使い、気弾を飛ばしてアシュラの剣を弾いたのだ。
さらに別の気弾が放たれ、アシュラは後ろによろける。その気弾を放ったのはゼルフだ。
その隙に、大男がアレウスを抱えてアシュラのそばを離れる。
「危ねえところだったな」
アレウスを助けたのは、遅れてやって来たウィーリュック。アレウスはすでに気を失っていた。
ウィーリュックにも、一目見ただけでアレウスの傷の深さは分かる。アレウスの身体を気遣いながら、ウィーリュックは司祭らしき男のところへ向かった。
ゼルフもそれに気づき、ウィーリュックのもとに駆け寄ってくる。
ウィーリュックはアレウスを慎重に地面に下ろし、仰向けの横たえた。
「ひでえ傷だがまだ生きている。治せるか?」
ウィーリュックが訊ねる。
「もちろん。死なせるわけにはいかない」
ゼルフはアレウスの傷口に手を当て、すぐに呪文の詠唱を始めた。ゼルフには珍しく、ひどく慌てている。
(そう、死なせるわけにはいかないんだ)
まだ赤子の頃から側にいるゼルフにとって、アレウスはまるで我が子のように愛(いと)おしかった。
王という立場を意識しているせいか、時としてはっと思わせるほど大人びた雰囲気を見せるアレウス。だが、ごく限られた者にした見せない、別の顔を持っていることもゼルフは知っている。
大人らしさとは全く逆の、子供のような心だ。旅とか冒険とかに憧(あこが)れる心。一つに集中すると、周りが見えなくなってしまう心。そして、愛情やぬくもりを求める心。
聞いたばかりの冒険譚を、目を輝かせて自分に語るアレウス。珍しい魔族を見かけ、命を落としそうになったアレウス。心の奥底では、親子の愛情を求めていたアレウス。
強さと同時に弱さもあるからこそ、自分はアレウスの側にいてやりたいと思う。司祭にとって傷を癒すだけではなく、心を癒すことも大切なことだから。
ゼルフの詠唱は、どんどんと大きくなっていく。額には玉のような汗が光っていた。
すでにゼルフの両手は真っ赤になっていた。しかしそのでもなお、アレウスの生気を抜き取るように傷口からは血が流れ続ける。
「はあああああ!」
ゼルフの呪文が完成した。ゼルフの両手からはまばゆい光が放たれる。
(頼む、助かってくれ)
もし神という者が本当に存在するなら、ゼノンは自分の願いを聞いて欲しかった。いや、願いを聞いてくれるなら誰でもいい。
光りのなかで、アレウスの傷は回復していった。もはやゼルフには、ゆっくりと回復していくアレウスの肉体しか感じられなかった。
それからどのくらい経ったのかは分からない。気付いたとき、アレウスに触れたまま、呪文の光りは消えていた。
「アレウス様・・・・」
ゼルフはアレウスに声をかける。未だにアレウスは目を覚まさない。だが、かすかに肌のぬくもりが感じられた。
「アレウス様!」
もう一度、今度はやや強く声をかける。
「うう・・・・」
アレウスのまっすぐな眉が、わずかに動いた。そして、アレウスが目を覚ます。
「ゼルフか?」
陽の光を受けて、アレウスは少しまぶしようにする。
「そうですぞ」
ゼルフは安堵の表情を浮かべた。
「また、助けられたな」
「そのためにアレウス様の側にいるのです。後ろのことは考えず、前だけを見てアレウス様は戦ってください。アレウス様に何かあったら、私が必ず助けますから」
アレウスには大きなものを目指して進んで欲しい。自分にできるのは、アレウスが後ろを振り向かないように支えてやることだ。
「お前がいてくれて本当に助かるよ。ありがとう」
信頼という言葉をさらに通り越した二人の関係は、これからも変わることはない。
3
(残りは、私とウィーリュックという男だけか・・・・)
アレウスが助かったのを見て、ラルクは改めてアシュラと向き合った。フォルス、カイザ、アレウスの三人は癒しの呪文を受けたものの、すぐには戦えないだろう。残ったのは、自分とウィーリュックだけだ。
(二人でかかれば倒せるか・・・・)
すでに武器を一つ失っているし、肩にはアレウスが負わせた大きな傷がある。これならアシュラにも勝てるかも知れない。
「油断しない方がいいぜ。奴は確かに強え」
ラルクの考えを見透かすように、ウィーリュックが近寄ってきて声をかける。
「奴の攻撃をすべて目で追おうとするな。いくら奴でも、すべての腕で同時に攻撃できるわけではない。戦いながら、体で覚えるんだ」
「あんた、アシュラと戦ったことがあるのか?」
「ああ、一度だけな・・・・」
ウィーリュックが、鋭い視線をアシュラに向ける。アシュラに恨みがあるのはフォルスだけではない。ウィーリュックも、3年前のあの時に大切な仲間達を失ったのだ。
「いくぜ・・・・」
ウィーリュックは巨大な蛮刀を抜いた。その蛮刀を、片手で軽々と扱う。
「ああ・・・・」
ラルクも魔法の剣を構えた。
「ちょっと待ってくれ」
とその時、ラルクの肩を誰かが掴(つか)む。一体誰だろうかと、ラルクは後ろを振り返った。
「あんたは・・・・」
そこにいたのはフォルスであった。だが、剣を握る右腕は力無く垂れ下がっている。
「大丈夫なのか、フォルス?」
ウィーリュックが心配そうに声をかける。未だに痛みが残っていそうなフォルスの腕では、まともに剣を扱えそうにない。
「こんな傷なんて関係ない。アシュラを倒すのは俺だ」
フォルスは鋭い眼孔をアシュラに向ける。
「ふんっ、けが人は寝てな」
フォルスの視線を、アシュラは残忍な笑みで受け止める。
「一瞬でいい、奴の隙を作ってくれ」
フォルスはラルクに耳打ちした。今の腕の状態では、剣を一振りするだけで精一杯だろう。その一振りに、フォルスはすべてを賭けるつもりだった。
「やってみよう」
ラルクは小さく頷く。アシュラを倒せないまでも、隙だけなら作れるかも知れない。
ラルクは目でウィーリュックに合図を送り、同時にアシュラに向かっていった。
「おらぁ!」
ウィーリュックは蛮刀を振り下ろす。アシュラは小槍(ショートスピア)で受け止めた。ウィーリュックは素早く剣を戻し、強烈な斬撃をアシュラに浴びせる。
一方ラルクは無理な打ち込みはせず、フェイントなどを使いながらアシュラを揺さぶっていく。
異なるタイプの攻撃を受け、アシュラは守勢に回った。さらに、アレウスから受けた傷がアシュラの動きを鈍らせる。
アシュラはわざと相手の攻撃を誘うような動きをしたが、二人は決して無理な打ち込みはしなかった。
(くそ・・・・)
傷口からはどんどん血が流れ出している。長期戦になればこちらが不利だ。その焦りの気持ちが、アシュラに隙を生まれさせる。
アシュラの苛立ちを感じて、ラルクはわざと隙を作った。
ラルクの狙い通り、アシュラはその隙を狙って鎚(フレイル)を振るった。もちろんその攻撃は予期しており、ラルクは後ろにステップしてかわした。
狙いのはずれたアシュラの身体は、バランスを失って大きく崩れた。
(しまった!)
気付いたときにはもう遅かった。ラルクとウィーリュックの剣が脇腹に突き刺さる。
「くそおおおおお!」
血ヘドを吐きながら、アシュラはなおも反撃をしようとする。だがその時、彗星が放たれた。
その彗星はアシュラの胸を貫き、背中から突き抜けた。
四人の動きが止まる。ラルクとウィーリュックは、アシュラの脇腹に剣を突き刺していた。アシュラは、大量の血にまみれながら大きく目を見開いてた。そしてフォルスは、アシュラの胸に剣を突き刺していた。
「ば・・・・か・・・・な・・・・・」
自らの死を悟り、アシュラはゆっくりと倒れた。そしてその巨体は大地を揺るがし、二度と動くことはなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・」
アシュラの死体を見つめながら、フォルスは立ち尽くした。アシュラを倒したという事実のみが、頭のなかを激しく駆けめぐる。
友を失い、アシュラに負けたあの3年前。そして今までの道のりは、辛く長いものだった。
「勝ったぞー!」
フォルスは叫んだ。こみ上げてくる勝利の喜びを爆発させるために。仲間達に戦いの終わりを告げるために。そして、天にいる友に知らせるために。
戦いは、終わった・・・・。
4
「終わったか・・・・」
仰向けに寝たまま、アレウスは首だけをフォルスの方に向けた。
傷つきながらも天に向かって拳を突き上げるフォルスの姿は、まるで英雄物語の一場面のようだ。それほど勇ましい姿だし、アレウスも思わず見とれてしまった。人々から勇者と呼ばれるのも、分かるような気がする。
「ゼルフ、すまないが私を起こしてくれないか。ここに来たのはあの男に会うためだからな」
まだ脇腹には痛みが残っている。しかし、ようやくフォルスに会えたのだから、いつまでも無様に倒れているわけにはいかない。
アレウスはゼルフの肩を借り、痛みをこらえながら立ち上がった。そして、フォルスのもとへと向かう。
一方のフォルスも、叫び終わった瞬間に肩の傷を押さえながらよろけた。無理をして剣を振るったからだろう。そのフォルスを、ウィーリュックが慌てて支える。
お互いに抱えられながら、二人はゆっくりと近づく。その間も、二人はずっと視線を合わせていた。お互いに感じ合うところがあったのであろう。
「お前がフォルスだな。”蒼き彗星の勇者”・・・・」
先に声をかけたのはアレウスであった。
「”魔王”アレウスか。あんたの噂は聞いているぜ」
フォルスは、噂の”魔王”が思っていたよりもずっと若かったことに驚いた。
「こんな姿で申し訳ないが、私がアレウスだ」
アレウスはわずかに白い歯をこぼす。
「こっちも悪いな、せっかく俺に会いに来たってのに。印象を悪くしたか?」
フォルスも苦笑いを浮かべる。
「ふっ、ふふふ・・・・」
「はははは・・・・」
二人はお互いの姿を見ながら笑い始めた。その声は次第に大きくなり、二人とも心の底から笑い続ける。
「思っていた通り。いや、それ以上だ」
アレウスは笑いをおさめ、フォルスの印象を語る。
すべての悪を砕いてしまいそうなその眼差しに、世界一の彫刻家でも表現できないような凛々しい顔立ち。
”勇者”という言葉を全身で示しているフォルスの姿は、アレウスの想像を遙かに超えていた。
「こっちもそうだよ。本当に魔族って強いんだな」
有翼族の大軍相手に勝ったという噂を聞いているが、どうやら本当だったようだ。
伝説に聞く魔族の姿は、もっと醜悪なものをしていると思っていた。しかしアレウス達の姿は、自分たちとほとんど変わりない。もちろん一目で人間ではないと分かるが、フォルスにとっては意外であった。
二人は再びお互いの顔を見合ったまま、笑顔をかわした。
「アレウス様ー!」
すると、アレウスの聞いたことのある声が遠くから聞こえてきた。その懐かしい声の持ち主はすぐに分かったが、なぜ彼の声が聞こえてくるのだろうか。
(いったいどうして・・・・?)
信じられないような顔つきで、アレウスは声のする方を向く。そこには、必死の形相でこちらに向かってくる一人の魔導師の姿があった。
「ゼノン!」
ゼノンの声に答えるように、アレウスも大きな声で答える。さらにその後ろには、レーテとガルア達の姿もあった。
「レーテではないか」
アレウスはさらに驚いた。気を失っていたはずの彼女が、何故ここにいるのだろうか。分からないことばかりである。
「レーテだって」
その言葉に、フォルスは慌ててアレウスの見つめる先を見る。
「あの女がレーテなのか・・・・」
噂に聞く聖女だが、実際に見るのは初めてであった。こっちに走ってくる黒髪の女性を、フォルスはじっと見つめる。
ゼノン達は息を切らせながらやって来た。激しい戦いを物語るように、かなりほこりまみれになっている。
これでアレウスの周りに全員が集まったことになる。
「ゼノン、一体どうしたんだ?」
まさかこんなところで、ゼノンに再会するとは思っていなかった。
「アレウス様、実は大事な話がありまして・・・・」
ゼノンは息を整えるように、二、三度大きく息を吐いた。
「レーテ、お願いします」
アレウスに伝えたいことは山ほどある。だがそれは、レーテの仕事だ。
「分かりました」
レーテは小さく頷き、アレウスとフォルスの前に進み出た。
「アレウス、お久しぶりです。ご心配かけたかも知れないですが、私はようやく自分を取り戻すことができました」
(自分を取り戻した?)
以前会ったときとどことなく雰囲気が違うことには、確かにアレウスは気が付いた。 「そしてフォルス。ようやくあなたに会えました」
レーテの表情には、探し求めていた者に出会えた喜びに満ちている。
「君が、あのレーテなのか?」
喜びはフォルスとて同じであった。自分よりもずっと以前から、人々の先頭になって有翼族と戦おうとした聖女。レーテがいなかったら、おそらく今の自分はなかったであろう。”ジャスティス”の結成には、彼女も無関係ではないのだ。
「ええ、私がレーテです。私はあなたに会いたかった。あなたがいたからこそ、私の努力は報われたのです」
自分も、フォルスなくしては今の自分はなかったであろう。
「フォルスにアレウス、そして皆さん。実は、私は普通の人間ではありません。本当の私は、水の精霊ウインディア。ある事情により、レーテという人間の身体に憑依してしまったのです」
レーテはフォルスとアレウスを見つめながら、ゆっくりと語り始めた。
「なんだって!」
事情を知るゼノン以外は皆驚いた。
「一体どういうことだ?」
アレウスが訊ねる。
「皆さんに、この世界に迫っている危機をお話しいたしましょう。すべては、十八年前のあの日・・・・」
レーテの口から、すべてが語られる。
5
「皆さんは、創世神話について知っていると思います」
「あの昔話だろ。”混沌”(カオス)から世界が生まれたとかいう・・・・」
フォルスは、子供の頃に聞かされた神話を思い出した。
「現在の人たちはあれを作り話と思っていますが、本当のことなのです。”混沌”(カオス)から、”天”(ブレイア)と”地”(ガイア)が生まれました」
有名な話であるが、ほとんどの者は伝説としか思っていない。
「たしか、ブレイアとガイアの間に二人の神が生まれたのだったな。”天神”ゼノアと、”創造神”プロメウス」
アレウスも、子供の頃から神話については聞かされている。もちろんアレウスも、単なる作り話としか思っていなかった。
「そうです。ゼノア様はブレイア様を倒し、この世界の支配権を得ました。そしてプロメウス様はそれぞれの世界、つまり”人間界”と”魔界”に動物を植物を、ゼノア様は支配者たる存在を創りました。そしてその後、ゼノア様は我々精霊の住む”精霊界”を創りました」
そして、今の世界があるのだ。
「その神話が、今の世界とどう関係があるんだ?」
フォルスが訊ねる。
「ゼノア様がブレイア様を倒したとき、ブレイア様がある予言を残したのです」
「予言?」
レーテの言葉にアレウスは興味を持った。神話では、ブレイアが予言を残したなどとは伝わっていない。
「ブレイア様は死ぬ間際、ゼノア様にこう言ったのです。”いずれお前も、同じように自分の子供によって倒されるだろう”と・・・・」
「すると、ゼノアはもうこの世界には存在しないということか?」
アレウスが続けて訊ねた。
「いえ、ゼノア様はまだ存在しています。そして運命の御子は、今この世界に存在しているのです」
「何だって!」
アレウスは驚いた。
「今から数千年前、ゼノア様は一人の人間と結ばれました。名前を、テティス様と言います。テティス様はゼノア様から、神としての力を与えられました。そして今から十八年前、テティス様は一人の赤子を身籠もりました。ブレイア様の予言を思い出したゼノア様は、テティス様の子供を殺そうとしたのです」
「ちょっと待ってくださいよ。予言を恐れているなら、どうしてゼノアは子供なんか作ろうとしたんですか?」
ソロンが慌てて口を挟んだ。確かに彼の意見はもっともだ。
「それは私にも分かりません。ですが、ゼノア様がテティス様の子供の命を奪おうとしたことは事実なんです。幸いにもプロメウス様がそのことをテティス様に伝えたおかげで、私たちはゼノア様から逃れることができました。もっとも、プロメウス様はその罪で重い罰を受けたと聞きます」
そこでレーテは一息ついた。
「私たちは人間界に逃れようとしました。人間界なら、生まれた赤子を隠すことができると思ったからです。しかしその途中で、テティス様が追っ手の攻撃を受けて傷ついてしまいました。そのため、人間界に行くために儀式は私が行いました。しかし私にはテティス様ほどの力がなかったため、儀式は完全には成功しなかったのです。精神と肉体が分離してしまい、私の魂は生まれたばかりの赤子に憑依しました。それがレーテです。そして肉体の方は、精霊界へと飛ばされたのです」
「ということはお前が魔界に来たのも、私の城がこの世界に移ってしまったのも、すべて精霊としての力なのか?」
アレウスが訊ねた。確かに精霊なら、別の世界を行き来できる能力があってもおかしくはない。それに、もしその能力があるなら魔界に帰ることだってできるだろう。
だが、レーテは表情を暗くさせた。
「精霊である私にも、異なる世界を移動することができる能力はないのです。ですから、十八年前にも儀式に失敗しました。私が魔界で使った力は、極度に追いつめられたときに偶然発揮されたものと思ってください。私にせいであんな事になってしまったのは、本当にすまないと思っています」
「いや、いいんだ。話の腰を折ってすまない、続けてくれ」
いままで、この世界で人間達と共存するために有翼族と戦ってきたのだ。魔界に戻れることはもはや諦めている。
「分かりました」
レーテは頷き、話を続ける。
「私の肉体と魂が別々になったということは、テティス様にも同じ事が言えます。つまり、テティス様の肉体と魂も別々になってしまったということです。では、その魂と肉体は何処に行ってしまったのか・・・・」
そしてレーテは、フォルスの方を見つめる。
「テティス様はもともと人間ですから、神を滅ぼす予言の勇者もまた人間のはずです。そしてフォルス、あなたこそその勇者に違いありません」
「俺が神を滅ぼす勇者だって!」
フォルスは思わず叫んだ。
「馬鹿な。俺はただの人間だぞ。神を倒せる力なんてありはしない。”蒼き彗星の勇者”なんて呼ばれてるけど、そんなのは周りの奴らが勝手に付けた名前だ」
「勇者が持つものは、神を倒す力ではありません。すべての人たちに、神に対抗するための勇気を与えること。それが、勇者の力なのです」
「そんなことは俺一人の力じゃない。仲間達が助けてくれたから、俺達の活動は成功したんだ」
「でも、先頭に立って戦ったのはあなたです。あなたの戦う姿に、人々は希望を見いだした。そして、アシュラをも倒す力を持っている」
「俺が、予言の勇者・・・・」
フォルスは、おのれの手の平をじっと見つめた。自分の体の中に、神の血が混じっている。そして、その神を滅ぼす力が備わっているのだ。
「そして魂ですが・・・・」
レーテは、今度はアレウスを見つめる。
「テティス様も私と同じように、誰かに憑依したと思われます。そしてアレウス。私はあなたが、テティス様の血を引くもう一人の勇者であると思います」
「私が?」
レーテの言葉に、思わずアレウスは自分の耳を疑う。
「ゼノンさんから聞きましたが、あなたのお母さんは一度死んでから生き返ったようですね?」
「そう聞いている。母上は病で死んでしまったが、その後で再び生き返り、私を産んで死んでしまったそうだ」
魔界では有名な話しだし、アレウス自身小さい頃にゼノンからよく聞かされた。
「まさか、母上が生き返ったのはテティスという女神の魂が憑依したからというのか?」
「そうです。この世界の危機を救ったのは、あなた達魔族ではありませんか」
「それは、人間達と共存するために有翼族と戦おうと決めたからだ。それが女神の魂を受け継いだことと、いったい何の関係があるんだ?」
女神が産むとされている予言の勇者。それが有翼族と戦うことと、どんな関係があるのだろうか。
「それこそ、テティス様の意志だからです。人間と魔族が手を結び有翼族と、いえ、神と戦うことがテティス様の望まれたことなのです」
「神と戦うだと・・・・」
アレウスは、言葉を失った。
6
「神に創造された人間と魔族。お互いはそれぞれの世界で、神を尊び幸福に暮らしていました。しかし時が経つにつれて、彼らの間に邪悪な心が芽生えていきました。神を敬うことを忘れ、時に相手を憎しみ、富と権力に目がくらみ、争い合うようになりました。だから、ゼノア様はこう考えたのです。人間と魔族を滅ぼし、再び新しい世界を創ろうと。そのために有翼族を創り出したのです」
ゼノアにとって、自らが創造した者達が劣悪になっていくことは深い悲しみであった。だからこそ、自らの手で清算しようとしたのだ。人間と魔族を滅ぼし、一から世界を作り直すために。
「しかし、テティス様の考えは違いました。ですから、赤子を身籠もったことを知ったテティス様は、人間界に逃れようとしたのです。その結果、ゼノア様は予言の赤子を取り逃し、テティス様の行方を見失ってしまいました。そこで、有翼族をこの世界に送り込んだのです。予言の勇者を倒し、人間と魔族を滅ぼすために」
重い空気が辺りに流れる。誰一人として、口を開こうとはしなかった。誰もが皆、レーテの言葉の大きさに打ちのめされていたのである。
「私は、人間や魔族が間違っていたとは思っていません。おそらくテティス様も同じように考えていたからこそ、ゼノア様のもとから離れようとしたのだと思います。だから私は、例え神が相手でも戦おうと思っています。フォルス、そしてアレウス。あなた達は、神に立ち向かうことができますか?」
レーテの言葉は、二人の心に深く突き刺さった。まさか、有翼族が自分たちを滅ぼすために神が創った存在だとは思いもしなかった。果たして、絶対的な力を持つ神を倒すことができるのだろうか。しかし立ち向かわなくては、その先に待っているのはこの世界の滅亡である。
「私も、レーテの考えと同じだ」
最初に口を開いたのは、アレウスであった。
「我々はこの世界で、自分たちの手で生きてきた。神などの力を借りず、自分たちの力で歴史を歩んできたのだ。例え神であろうとも、我々の存在を脅かす者であれば、私は立ち向かおうと思う」
そう言って、アレウスは共に戦ってきた仲間を見回した。
「私はアレウス様の決意に従おうと思います。例え神であっても、我々の存在を否定されたくはありませんからね」
アレウスの言葉を聞いて、ゼノンも腹をくくった。アレウスが神に挑むことに、正直に言って不安の方が大きかった。だが、今のアレウスからは微塵も不安感が感じられない。神に挑む決意に満ちた表情。それを見て、自分も希望を失ってはいけないと思った。
「そうですよ、アレウス様。こうなったら神の奴をぶっ倒してやりましょうよ」
カイザも、巨大な敵を前にして逆に気持ちが高ぶっているようだ。そのカイザに肩を借りているラルクも、表情を引き締めて頷く。
「苦しい戦いになるだろうが、自分たちの運命は自分たちも手で守ろう」
アレウスの表情を見て、レーテもホッとした。見る者に、勇気と希望を与える。まさに王者だ。そして、テティスの魂を受け継いでいるだけある。
「フォルス、あなたはどうですか?」
レーテはフォルスに声をかけた。あとは、一番肝心な予言の勇者だけだ。
「・・・・・・」
そのフォルスは、ずっと地面を見つめたままうつむいていた。が、レーテの声に顔を上げる。その顔には、一点の迷いもなかった。
「俺にとって有翼族は敵だ。親を殺され、友を殺され、仲間を殺された。もうこれ以上、人間が殺されるのは嫌だ。だから俺は戦った。その有翼族を創ったのが神であれば、その神もまた俺の敵。もし俺に神を倒す力があるのなら、俺は神と戦う」
この世界を守ることこそ、自分が戦ってきた理由。もし本当に予言が正しいなら、自分が戦うことで世界を救うことができるのだ。
「二人とも、そして皆さんありがとうございます」
二人の言葉に、レーテは涙を滲(にじ)ませる。
「戦おう。私たちの手で、新しい時代を築くのだ」
アレウスはフォルスとレーテの手を取り、固い握手を結んだ。三人はお互いの顔を見合わせ、新たな決意を固める。
その光景を、遙か遠くから見つめている一人の兵士がいた。周りには誰もいない。彼は馬に拍車をかけると、南へ向かっていった。その先には、エルデニア城があった。
7
三人の姿を見つめる者が、もう一人いた。巨大な水晶に映し出されているその光景を、じっと見つめている。
そこは人間界でも、魔界でも、精霊界でもない。そう、ここは”天界”と呼ばれている。
天界には、一つの巨大な神殿があった。七色に輝く大理石でできており、”レインボーパレス”とも呼ばれている。
そしてその神殿の玉座に鎮座する者こそ、天神ゼノアである。
威厳に満ちたその表情。ウェーブがかった黄金に輝く髪。白いローブの下からはたくましい肉体をのぞせ、全身からは淡い光りのオーラを発している。まさに神と呼ばれるにふさわしい姿である。
ゼノアの前には、三人の人影があった。いずれも片膝をつき、かしこまった態度をしている。彼らこそ、”四天王”と呼ばれるゼノアの側近達だ。
右手には、全身をローブに身を包んだ男がいる。彼の名は、”死神”のゼファー。フードを深くかぶり、その表情はまったくうかがうことはできない。だがその奥には、鋭い眼孔だけが不気味に光っていた。
彼の仕事は、神に逆らう不遜な存在を闇に葬ること。テティスとウインディアが人間界に逃れようとしたときにも、ゼノアの名を受け彼は二人を追った。
中央には、獅子の姿をした大男。”白虎”のテイオと呼ばれている。背中には巨大な剣を背負っており、刀身から放たれる強力なオーラが、名剣であることを物語っている。
彼は、主に魔界で有翼族の指揮を取っている。時には先頭に立って戦うこともあり、魔王アレウスとも戦ったことがある。
そして左手に控えるのが、裾の短い赤い衣を身につけた女。名を、”心眼”のソーラという。彼女の額には、第三の眼が光っていた。”心眼”の名の通り、その眼は相手の心を読むことができる。
四天王にはもう一人、”八つ手”のアシュラという男がいる。テイオと同じく有翼族の指揮を執っていたが、アシュラは主に人間界であった。だがそのアシュラは、たった今フォルスという若者に倒されてしまった。
「ついにこの時が来たか・・・・」
ゼノアの重層な言葉が辺りに響く。
神を滅ぼす予言の勇者が現れ、そして事実を知った。この先フォルスは、必ず自分の命を狙ってくるだろう。
さらにそのフォルスは、もう一人の勇者であるアレウスと手を結んだ。魔族の存在がなければ、人間達は滅んでいたはずなのだ。フォルスやレーテの活躍はあっても、運命を変えるほどまでにはいかなかった。それほどまで、人間達を追いつめていたのだ。
「テイオ、魔界の方はどうなっている」
「やはり、魔族の抵抗は激しいものがあります。アレウスがいなくなったことで一時は混乱していましたが、現在は反撃に転じています」
潜在的は強さを持つ魔族相手では、人間相手のように圧倒的に優位に立つことができない。しかも現在では、残った王族の魔族達が団結して反撃をしている。戦いの情勢は、一進一退といったところだ。
「やはり、人間達を滅ぼしてから総力を挙げて魔族と戦うべきでした」
テイオの声が、幾分苦しげになる。
始めはそう考えていたのだ。まず人間達を滅ぼし、その後で魔族と戦う。だがその考えは、思いもよらない事態でもろくも崩れ去ってしまった。一部の魔族が、人間界に現れてのである。
「魔界の方は現状維持だ。下手に守勢に回れば、魔族を勢いづかせるだけだろう。分かったな、テイオ」
「はい・・・・」
テイオは頭(こうべ)を深く垂れた。もしあの時アレウスを討ち取っていれば。そして、そこにいたレーテも・・・・。
「ゼファー。テティスの捜索はどうだ?」
続いてゼノアは、ゼファーの方を見る。
「全力を挙げて捜索を続けておりますが、未だにテティス様は・・・・」
ゼファーの言葉も苦しかった。
それも当然だ。十八年前は目の前で逃がし、その後の捜索にも関わらず未だにテティスの行方は掴めていない。
「ウインディアのことだ、おそらくテティスを探そうとするはずだろう。奴らにテティスが力を貸すようなことは、何としてでも阻止しなければならん」
「分かっております。必ずや、奴らよりも先に・・・・」
そう思い続けて、もう十八年経っているのだ。自分の発した言葉には、確かな自身はない。
「ソーラ。あの事だが・・・・」
最後に、ゼノアはソーラに声をかけた。
「先日調査して参りましたが、やはり封印は解けつつあります。まだ完全に解けるにはほど遠いでしょうが・・・・」
ゼノアの間に、鈴の音のような声がこだまする。彼女は両目を閉じたままだが、額にある第三の眼は、決して閉じることはない。
「あの封印を解くことは、危険すぎます」
ソーラは初めて目を開き、ゼノアを見つめた。
「もちろんそれは儂も承知している。だが、最後の時には・・・・」
覚悟を決めるしかないだろう。自分としても、できればあれは使いたくない。だが人間と魔族を滅ぼすためには、どうしても必要なのだ。
「例の”祭器”がある場所も掴んでいます。その時は、私が直接向かいましょう」
「分かった。皆の者ご苦労であった。さがってよいぞ」
ゼノアの言葉に三人は一礼し、それぞれゼノアの間を後にする。
(儂を滅ぼす予言の勇者か・・・・)
部屋に静けさが戻った後、ゼノアは再び水晶を見つめた。そこには、互いに握手を交わす二人の勇者と、一人の聖女が映し出されている。
(時代は変わる。その先に待っている運命は、儂の望む世界か、それともお前達が望む世界か・・・・)
世界の運命をかけた真の戦いが、ついに始まる・・・・
前のページへ | 目次へ | 次のページへ |