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title/1979 第1幕
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状況 :会場には「タイトゥン・アップ」(YMO) OR
    「いけないルージュマジック」(忌野清志郎&坂本龍一)
    だんだんボリュームが大きくなると同時に、照明が落ちていく
    フェードアウトして、オープニングの音楽、PLASTICSの
    「TOO MUCH INFORMATION」に変わる

=== 記者会見 ===  00min00sec

状況 :舞台上手から、記者が十数名歩いてくる。音楽が止まり、ピンスポット
香山 :初めて変だぞ、おかしいぞと感じたのは、1979年7月の終わり、
    YMO渡米記者会見席上のことです。
記者A:あ、来た!
記者B:来たぞ!
記者C:来た!
状況 :3名ほど舞台下手の方へ駆け出していく
香山 :えぇ、シンセサイザーを多用したエレクトリックミュージックなんて
    説明されてました。まもなくテクノポップと呼ばれるようになる音楽です
    業界ではそれなりに注目されていたとはいえ、まだまだminorityでした
    YMOは2日後にLAに飛んで、チューブスの前座として初の海外公演を
    行う予定だったんですが、彼らの名前を知っていたのはごく一部の
    マニアだけで、当時ちまたでヒットしていた曲と言えば
状況 :舞台上からスクリーンが落ちてくる。香山は顔をそちらの方に向ける
    スクリーンには、「ヤングマン」のシングルジャケット
    西城秀樹がバカみたいにニッコリして、頭の上で手で輪を作っている

 > ヤングマン <

 HEY!
 素晴らしい Y・M・C・A

状況 :スライドは、ジャケットを拡大して西城秀樹の上半身を映している

 Y・M・C・A

状況 :スライドは、ジャケットを拡大して西城秀樹の顔のアップを映している

 憂鬱など吹き飛ばして

状況 :スライドは、ジャケットを拡大して西城秀樹のニッコリと笑った
    口のアップを映している。スライドの粒子がハッキリと見える

 君も元気出せよ!

状況 :スライドと音楽が消え、再び香山にピンスポット
香山 :馬鹿なんじゃないかと思うほど、楽天的な歌でした
状況 :グレーのタキシードに蝶ネクタイ、眼鏡をかけた司会者が舞台下手から
    マイクを持って歩いてくる
司会者:みなさま、大変お待たせをいたしました。それでは、
    いよいよご登場願いましょう。YMOのお三方です
状況 :「FIRE CRACKER」にのって、舞台下手からYMO登場。赤い人民服
    拍手で迎える記者達。舞台上手に用意されてた椅子に座る
    左から、坂本、細野、高橋の順。音楽が止まり、しばらく会場を
    見渡す
細野 :細野
高橋 :高橋
坂本 :坂本
3人 :イエローマッジック...
司会者:既にご存じの通りこの5月、
状況 :自己紹介を無視して、勝手に進める司会者。あぜんとする3人
    ノーファインダーで写真を撮ったり、メモをとったりする記者達
司会者:ファーストアルバムを、アメリカのA&Mレコードからリミックス
    発売したばかりのYMOのみなさまは、8月の2,3,4と、
    いよいよLAはグリークシアターのステージにたたれるわけなんですね
状況 :YMOの方を振り向く司会者。記者達も手を止めYMOの方を見ている
細野 :はい、我々も初の海外公演と言うことで、
司会者:そしてきたる9月25日
状況 :またもや、勝手に進める司会者。司会者の方を向いてにらむ細野
司会者:待望のセカンドアルバム「SOLID STATE SURVIVOR」がALFAレコードから
    発売になります。そして今日はそのレコーディングを終えたばかりの
    アルバムの中から、シングル曲の、
状況 :手に持ったメモをのぞき込みながら
司会者:「RYDEEN」を本邦初公開していただけるわけなんですね?
状況 :再び、YMOの方を振り向く司会者。記者達も手を止めYMOの方を見ている
    しばらく間をおいて、細野、ただうなずく。それを見て元の姿勢に戻り
司会者:はい。今日お集まりのマスコミの方々ももちろん、初めてお聴きに
    なることと思います。ね?
状況 :再び、YMOの方を振り向く司会者。記者達も手を止めYMOの方を見ている
    細野、しばらく間をおいてただ大きくうなづく
司会者:はい。私もさきほどから
状況 :心臓に手をあてて
司会者:ドキがムネムネです!
状況 :再び、YMOの方を振り向く司会者。記者達も手を止めYMOの方を見ている
    細野、しばらく気付かない。坂本と、高橋が細野をのぞき込む
    2人の顔を見た後、細野はふてくされたように
細野 :フッ
状況 :と、鼻で笑う
司会者:ケッ!
状況 :と吐き捨てて、元の姿勢に戻る。細野、怒り心頭に達し、椅子から
    立ち上がり、司会者に飛びかかろうとするが、坂本と高橋がなだめて
    再び椅子に座る
司会者:それでは、「SOLID STATE SURVIVOR」の中から、「RYDEEN」
状況 :舞台下手からADが出てくる
司会者:テープの用意よろしいですか?
状況 :AD頭の上で大きく丸を示す
司会者:お願いします
AD :カチッ
状況 :スイッチを押す。ADは両腕を腰に当てている。司会者は直立している
    しばらく待つが、音が出ない
司会者:どうしたぁ?
AD :あれ?.....あ、こっちか。パチッ
状況 :会場の照明が落ちる
AD :あ、あこれ明かりだ
司会者:ばかやろう。どーも、みなさんすいませんでした
AD :あ、これか。これだ!
状況 :「ポキッ」という音
AD :あ
司会者:なんだ?おい、今何が折れたぁ?
AD :さぁ。こう、暗くっちゃぁねぇ
司会者:つけろよバカ!
AD :あ、そうか。パチッ
状況 :照明がつく。舞台中央になぜか高橋。ADが高橋の左腕を折っている
    苦しそうな声を漏らす高橋。細野しばらくその状況に気付かない
    隣を見ると、座っているはずの高橋がいない。立ち上がり、まわりを
    きょろきょろと見る。坂本も立ち上がる。細野、高橋に気付いて
    歩み寄りながら
細野 :オォッ!
司会者:大丈夫ですか?
細野 :高橋ぃ
状況 :右手で左腕をかばうようにして立ち上がる高橋。力無く
高橋 :あぁ....、だいじょうぶです
司会者:あ、そう
状況 :と、こともなげに言う。怒る細野
細野 :貴様ぁ!
高橋 :いや、いいんだ
細野 :よかないだろう!
高橋 :いいんだよ
細野 :だって、お前
高橋 :俺がいいって言ってんだろう!!!!!
状況 :細野、びっくりしたような表情で
細野 :なんだよ...何怒ってんだよ。俺はお前の腕をさぁ
高橋 :いいんだよ。腕の1本や2本ぐらい
細野 :だって2本で全部だぜ!
状況 :突然細野の背後から
坂本 :ケチだ
細野 :えぇ?
状況 :細野振り向く。細野の方に歩いていく坂本
坂本 :ケチだよお前は
高橋 :ケチだ
坂本 :いいか、腕は2本あるけど、人生は1回なんだぞ!!
状況 :細野の顔の前で、左手で2を、右手で1を示しながらすごむ坂本
細野 :そりゃあそうだけど...。そういう事じゃなくて、ドラム叩けないよ!!
高橋 :いいんだよ...。人生のドラムを叩くさ
状況 :力強くうなずきながら高橋の元へあゆみよる坂本。なにか話しかけて
    元気づけている
細野 :何言ってんだお前ら

香山 :故障したテープレコーダー、消えた照明、折れた腕。
    そして、突如訳の分からない人生論を語り始めた高橋と坂本
    私はそこに、偶然ではわりきれないなにかを感じ始めていました

AD :あ、わかりました。これですよ。パチッ
   :腹八分目ともうしますが、私もダイエットを始めましてねぇ
    102キロあった体重が84キロに減りました。快調そのものです
状況 :楽しそうに聴いているAD
司会者:これ、ラジオだろ!
ラジオ:それでは、今日の8曲目。これまたユニークな若手の登場です
    新人バンド「ドリームス・カム・ホーム」のデビュー曲を
    お聴きいただきましょう。「元祖RYDEEN」
状況 :シンバルの音とともに、「RYDEEN」そっくりの曲が流れ出す
    舞台後ろの幕が左右に開き、舞台後ろにステージがあらわれる
    中央に一番高いステージ。左右に低めのステージがある。
    中央のステージにはシンセサイザーが2つ、ドラムセットが1つ
    緑のジャケットを着て3人で演奏をしている
    しばらくして、司会者が舞台下手の方へ走って消えてゆく
    ボリュームがさがって、細野が立ち上がる
細野 :そっくりだ!どうする?先にこんなの聴かれちゃ、俺達が盗作したと
    思われちゃうぞ!こいつらいったい誰だ!?
    ドリームス・カム・ホームってどういう意味なんだ!!
状況 :坂本、立ち上がり
坂本 :どういうことだ!?「RYDEEN」は、ごくごく身内しか聴いてないハズなのに
    それとも内部に裏切り者がいるというのか?
    まてよ...まさか作曲した幸宏がパクリを!
状況 :高橋、左腕を押さえたまま立ち上がる。ゆっくりと、しかし力強く
高橋 :人生のドラムを叩く!
状況 :ステージ上でみんなこける
高橋 :どんどこどんどこドラムを叩く。力一杯叩いたら、友達百人できるかな
状況 :ボリュームが再びあがる。リズムをとる記者達
    YMOは舞台の袖の方へ走って消えていく。舞台後ろのステージ上に
    眼鏡をはずしてギターを持った司会者(?)が登場。突如歌い始める

 > 元祖RYDEEN <

 歌え 声も高らかに
 叫べ マントひるがえし
 俺の名前はRYDEEN
 食べても食べても 食べあきない
 そんな毎日 そんな青春なのです

状況 :再びボリュームが下がる
香山 :気がつくと、YMOの3人はどこかへ消えていて、記者会見は中断
    アルバム「SOLID STATE SURVIVOR」はなぜか発売中止となりました
    ドリームス・カム・ホームが歌う「元祖RYDEEN」はまたたくまに
    チャートを駆け登り、原宿・セントラルアパート裏にオープンした
    竹の子という小さなブティックのウェアーを身にまとったTeen-agerたちは
    好んでこの曲で踊り狂いました。やがて枯れ葉が舞う頃、彼らは
    「竹の子族」と呼ばれてあらゆるメディアを賑わすようになりました
    寂しさとうらはらの高揚感、超高速の新陳代謝、根拠のない暴走
    夢のようなあの時代の幕開けでした
状況 :再びボリュームがあがる、記者達は舞台袖へはけていく
    演奏が終わり、音楽が変わる。スクリーンが上から降りてくる

> スライド <

 皆さん、
 こんにちは。
 −
 ようこそ
 いらっしゃいました。
 −
 今回は青春ドラマ
 −
 のハズです。
 −
 根拠レスの時代
 を疾走する
 −
 三人の少女の
 物語と、
 −
 彼女たちから零れ
 落ちる
 −
 どうでもいい
 エピソード達。
 −
 いつも長いお芝居で
 御迷惑をおかけしました。
 −
 今回はもっと長いです。
 −
 約3時間もあります。
 −
 みなさんは
 −
 もう逃げられません。
 −
 1994年
 3月の日曜日
 −
 坂井家
 午後6時40分

=== 坂井家 === 09min40sec

状況 :舞台中央にテーブル。回りには椅子が置いてある
    下手には台に置かれた電話。下手側は台所。正面奥は玄関
    音楽がフェードアウトし、テレビからサザエさんのカツオの声
    エプロン姿で夕食の準備をしている女
    舞台左奥から、男と女が歩いてくる
ハジメ:マチコちゃん、次は?
マチコ:坂井さん
ハジメ:坂井さん
状況 :2人で玄関の前に並ぶ。向かって左がハジメ。紙の手提げ袋を持っている
    マチコは水色の包装紙の箱を抱えている
ハジメ:坂井さん
状況 :表札を指さして確認し、「ピンポーン」とチャイムを鳴らす
リカ :はいはいはいはいはいはいはいはい
状況 :駆け足で、台所から玄関に向かう。玄関で、2人を見てるが反応がない
    しばらくして
リカ :はい!
ハジメ:うわっ!
状況 :驚く2人。顔を見合わせて
ハジメ:あぁ...開いてたんだぁ...
マチコ:こんばんわ
リカ :こんばんわぁ...
ハジメ:こんばんわ
リカ :こんばんわぁ...
状況 :おじぎをして挨拶をする2人。けげんそうにおじぎするリカ
マチコ:今度向かいに越してまいりました太川と申します
リカ :あぁ〜あ、こんばんわぁ
状況 :事態を納得し、明るい声で挨拶するリカ
マチコ:あの、これつまらない物なんですけれども
状況 :抱えていた包みをリカに渡す
リカ :あ、どうもぉ
ハジメ:どうも
マチコ:どうもすみません、お夕食どきに失礼かなとは思ったんですけど
状況 :話も聞かずに、包みを眺め回すリカ
リカ :はい?
マチコ:お夕食どきに失礼かなぁとは思ったんですけど...
状況 :突然、電話のベル
リカ :はいはいはいはいはいはいはい
状況 :テーブルの上に包みをたたきつけるようにして置いて
    電話の方に走っていくリカ
リカ :もしもし
状況 :電話の声を確認してから
リカ :サカイでございま〜す!
状況 :と、サザエさんのオープニングをまねる
リカ :あたしよ!なに娘かと思った?そんなに声若い?
    今?だいじょうぶだいじょうぶ、平気でございま〜す!ふふふふ
状況 :顔色が変わり、怒った口調で
リカ :何?あぁ、まさかまたキャンセルかぁ!?あれほど大丈夫って
    言っておきながら。何が「ごめんなさいでございます」よ
    バカじゃない?
状況 :ふてくされてような感じで
リカ :お仕事じゃねぇ、しかたありませんわね我慢するしかありませんわねぇ
    女は急な仕事じゃねぇでございま〜す
    何、切れちゃうって?今どき10円玉でかけてるんでご...
    あんた携帯持ってたじゃない!そうやってね、嘘が嘘を呼んで
    気がつくと自分がついた嘘でモチついてんのよ!!!
    意味がわかんない?私だってわかんないわよ!!!
状況 :自分の顔を指さしながら怒鳴るリカ
リカ :いつも自分だけだと思ってそうやっ...
状況 :受話器を口元から離し、しばらく睨んでから、たたきつけるように
    受話器を置く。大きな音が響く。電話台に両手をついたまま顔だけ
    玄関に向け、2人の方を睨みつけるリカ。リカから顔をそらしながら
マチコ:あの、お夕食どきに失礼かなとは思ったんですよ...
リカ :えぇ?
状況 :怒った口調で応えるリカ
マチコ:ですから、お夕食どきに
状況 :リカの方を見ながらおどおどするようにしゃべるマチコ
    うろたえた様子でマチコの手をつかみ
ハジメ:どうも、おじゃましました
状況 :と、言って立ち去ろうとするがマチコは動こうとしない
マチコ:失礼かなとは思ったんですよ
状況 :急に明るい声になり、手を叩きながら玄関の方に走りながら
リカ :あ、あ、いいんですよまだ。なぁんか、ごめんなさいねぇ
状況 :しばしの沈黙
ハジメ:どうも、お夕食どきにすいませんでした
状況 :顔の前で右手を振りながら
リカ :ぜ〜んぜん、ぜんぜん、ノープロブレム
状況 :といって笑うリカ。リカを見つめる2人
    ちょっと考えて、意を決したように、右手を横に出しながら
マチコ:サンキュ〜!
状況 :固まる3人、しばしの沈黙
ハジメ:あははははは
マチコ:ふふふふふふ
状況 :ごまかすように笑うハジメ。マチコの頭を指さして
ハジメ:ちょっとバカなんですよ、こいつ
状況 :むっとした表情でハジメを見るマチコ
ハジメ:それでは我々、ほんとに失礼いたします...
状況 :再び電話のベル、怒りをあらわにしながら電話の方へ歩いていくリカ
リカ :ふざけんなよぉ!
状況 :受話器を取り、偉そうな態度で
リカ :もじゃもじゃ!!!
状況 :声を確認し、いきなり腰が低くなり、ぺこぺこおじぎをするリカ
    舞台右奥から女の子がバカみたいに元気にはしゃぎながらやってくる
リカ :ど〜もぉ、いつも息子がお世話になっておりますぅ
チカ :たっだいまぁ!!!
状況 :玄関から入ってくるチカ。靴を脱ぎながらけげんそうにハジメと
    マチコを見る。背中には布製のDバッグ。なにか、かかえている
リカ :まだ帰ってきてないんですよぉ。はい...
状況 :米を抱えたまま、電話の所に行きのぞき込むようにし、自分の顔を
    指さすチカ。顔の前で手で「違う違う」と示し、手を振って向こうに
    行けと指示するリカ。ゆっくりと舞台上手の方へ歩いていくチカ
リカ :はい。あ、あの戻りましたらこちらからお電話させましょう.....
    あ、さようでございますか....はい...はいはい...はーい、
    はいわかりましたぁ。ごめんくださいませぇ
状況 :おじぎをして受話器を置く
ハジメ:じゃあ、我々これで失...
状況 :ハジメを無視して
リカ :あんた学校でなんかした?
チカ :何よぉいきなり?
状況 :うろたえるながら振り向くチカ
チカ :なんでぇ、どうして?
状況 :チカの方に歩いてきながら
リカ :今の電話。口調でわかるでしょうあんんたの友達じゃないって
チカ :あぁ
状況 :明らかにうろたえてるチカ、声が少し裏がえっている
リカ :学校からだと思ったん....
チカ :あ〜、いやいやいやいや...ほれ!
リカ :何?
状況 :抱えているモノを見せながら
チカ :おみやげ。純国産米
リカ :やったー!どっから奪ってきた!
状況 :両手をあげて喜ぶリカ
チカ :奪っちゃいないよやだねぇこの人
状況 :米をテーブルに置くチカ。玄関の方を見ながら
チカ :誰?
リカ :ガス屋さん
チカ :ふーん
状況 :冷淡に応えて、椅子に座るチカ。リカはハジメとマチコの方を向いて
    両手を開いて、親指を自分の頭にくっつけ、残りの4本のうにょうにょ
    動かして、からかうようなしぐさ。振り向いて、チカの右肩を2回たたき
    鼻の下をのばして
リカ :うっそ〜
チカ :へぇ
状況 :ハジメとマチコを見ながら、淡々と
リカ :しまったぁ、何を言っても信じやしない。歪んだ親子関係
状況 :ハジメとマチコは呆気にとられている
    再び、チカの方を向いて
リカ :ササニシキ?
チカ :ううん、コシヒカリ、5キロちょと
リカ :でかしたぁ!
状況 :右手を出して
チカ :3500円
リカ :売るのかよぉ
チカ :雨宮米店の6割だ、どうだ!
状況 :米を自分の背中の方に隠すようにし、椅子のうえで片膝をたてるチカ
    リカ、ちょっと考えて
リカ :わかった
状況 :勝ち誇ったようににやけるチカ。エプロンのポケットから紙を取り出すリカ
リカ :これと交換でどうだ
チカ :何それ...
状況 :と笑いながら言うが、しばらく紙を見つめて
チカ :あぁ!!!
状況 :悲鳴をあげて立ち上がる
チカ :また、人に来たファックス!!!
状況 :台所の方に逃げるリカ、追うチカ。止まってファックスを頭上に掲げる
    ピョンピョン跳んで、奪い返そうとするチカ。小さな動きで巧みに
    かわすリカ
チカ :もう、勝手に人の部屋に入らないでって
状況 :反対方向へ逃げるリカ
チカ :言ったでしょう!!!返してよう!!!
    ちょっと、いつ取ったのよぉ、それ!!!
リカ :おととーい!!!
チカ :しーんじらんない!!!二日も隠し持ってたのぉ!!!
状況 :両手を握りしめて激怒するチカ。リカの所へ走っていく
    再び、ファックスを頭上に掲げ、
リカ :そして、機は熟した!
状況 :動きを止めるチカ
チカ :あっ
状況 :うまくチカをかわし、テーブルの後ろを通って台所の方へ走るリカ
チカ :悪魔!バカ!返してよぉ!!!!!
リカ :交換だぁ!
状況 :テーブルの所までいき、絞り出すような口調で
チカ :ほんとうに、母かよぉ!!!
状況 :悔しそうな表情で、テーブルに両手をついて
チカ :もう、どうしてそういう....
状況 :テーブルにある包みに気付くチカ、しばらくそのまま固まる
    エプロンのポケットの所で、なにやらごそごそやっているリカ
    お互いに背を向けあったままである。突然、包みを胸に抱いて
チカ :ふー、ふっふっふっふっふっふっふ!!!
状況 :不気味に笑うチカ
リカ :ふー、ふっふっふっふっふっふっふ!!!
状況 :左手に紙、右手にライターを持ち、頭上に掲げながら、笑うリカ
    チカは背を向けたまま
チカ :ふー、ふっふっふっふっふっふっふ!!!
リカ :ふー、ふっふっふっふっふっふっふ!!!
状況 :お互い背を向けたまま、反時計回りに移動をする2人
    チカは台所の前に、リカはテーブルの前にくる
    リカは、ライターに火を付ける。チカ、包みをゆっくりと頭上に掲げ
    ゆっくりと振り返りながら
チカ :ふー、ふっふっふっふっふっふっふ!!!!!!!!!!
    この包みを...あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!
状況 :振り返ると、リカの手には火のついた紙が。
    包みを床にたたきつけ、悲鳴を上げながら走ってくる
ハジメ:あぁ!!!
状況 :たたきつけられた包みを見て思わず声を上げるハジメ
    燃える紙をテーブルの灰皿に置くリカ。炎を見つめるチカ
    勝ち誇ったように
リカ :これで情報はあたしの頭の中だけにあるぅ!!
状況 :と言ったとたん、突然表情を変えて
リカ :しまった、読むの忘れたぁ...
状況 :しばしの沈黙。突然発狂したように
チカ :あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!
状況 :叫びながら、台所の方へどかどかと歩いていく
    包みを踏みにじるチカ
マチコ:あなた〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!
状況 :マチコは駆け込もうとするが、ハジメが懸命に押さえている
チカ :なんだよこれ〜〜〜!!!!
状況 :包みをベリベリ破るチカ
チカ :なんだ、タオルかよ!!
状況 :再び床にたたきつける、悲鳴をあげるハジメ
    マチコと顔を見合わせ
ハジメ:ヨシッ!
状況  :靴を脱ぎ始めるハジメとマチコ
    チカは絶望した表情でテーブルの方へ歩いていく
    マチコとハジメが駆け込んできて、マチコは包みのところで
    座り込む。チカはテーブルの後ろを通って、舞台上手後方へ
    ハジメはテーブルの横の椅子に立って、こぶしを握りしめ
ハジメ:いいかげんにしないか〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!
状況 :驚いた表情で見つめるチカと、リカ
    ハジメの方を見上げながら、
マチコ:ハジメさん.....
状況 :椅子の上で、肩をふるわせて
ハジメ:よく見ろ!
    タオルはタオルでも、ただのタオルじゃない!
状況 :包みを指さして
ハジメ:バスタオルだ!
    お引っ越しのご挨拶の品をそのバスタオルに決定するまでに
    妻が、そして私がどれだけ苦悶したか...その長く苦しい冬の時代を
    あなた達は知るよしもありません。
状況 :座ったまま、破れた包装紙を繕うマチコ
ハジメ:おせんべいの詰め合わせは?
    いやいや、歯の弱い方がいて、食べられないかもしれないなぁ
    クッキーの詰め合わせは?
    いえいえ、虫歯の方がいて食べられないかもしれないわ
    じゃあ、ビール券は?
    まてまて、お酒を飲まない人だっているんだよ
    じゃあ、こけしは?
    いえいえ、あれほどもらって困るモノもないわ
    それじゃあ、石鹸なんてどう?
    まてまて、もしかしたら、あれしか使わないかもしれない
    あの〜...、なんだぁ
状況 :単語が思い浮かばないハジメ。右手でなにかを押すようなしぐさ
ハジメ:今はやりの
状況 :ハジメの方を指さして
チカ :ボディーシャンプー
ハジメ:違う!...液体石鹸だ!
状況 :むっとした顔でハジメの方を指さして、テーブルの方に歩み寄りながら
チカ :だからそれはボディーシャンプー...
状況 :チカの言葉を無視して
ハジメ:液体石鹸しか使わないかもしれない
    これらは、ほんの断片にしかすぎません
状況 :バッグからハンカチを取り出し、目元をぬぐうマチコ
    椅子から降りて、マチコの方に歩み寄るハジメ
ハジメ:マチコは、本当に優しい女なんです。知り合った頃からずっとそうだった
状況 :ハジメに肩を抱かれ、包みを抱えて立ち上がるマチコ。肩を抱いたまま、
ハジメ:15年前から変わらないのは...このマチコと、サザエさん一家だけです
状況 :チカ、リカの顔を見て
チカ :笑うとこ?
リカ :さぁ
状況 :首をかしげるリカ。ちょっと考えて、体をくねくねしながら
    バカにするような口調で
リカ :どこでしりあったんですかぁ?
ハジメ:そういうことが言いたいんじゃないんですよ!
状況 :ムッとして、リカの方にノシノシと歩いてくるハジメ
チカ :さだまさしのコンサートとか?
ハジメ:失礼だなぁ!
チカ :え、失礼かぁ?
状況 :リカの方を見るチカ。リカはうなずいている
マチコ:DEVOなら一緒に行きましたけど
リカ :ウソ!?武道館?
チカ :何?
マチコ:2回目です、80年
ハジメ:サンプラの方
チカ :え?
リカ :フリーダム・オブ・チョイスのツアー
ハジメ:そうそう
状況 :ハジメとリカの間に割り込んで、リカの顔を見ながら
チカ :何のこと?
状況 :ハジメの方を指さしながら
リカ :へぇ〜、結構ニューウェーバーだったんだ
状況 :照れて、頭をかきながら
ハジメ:まぁ
リカ :へぇ〜〜
状況 :まじまじとハジメをみつめるリカ。マチコもちょっと照れている
    話がわからず、無視されてムッとするチカ。ハジメの方を向いて
チカ :そういう事じゃないんでしょう、言いたいのは!!
状況 :しばしの沈黙の後、思い出したように、
ハジメ:そういう事じゃないんですよ
    つまり、どうやらあなた方には、そのような.....
状況 :急に口調がおだやかになり、「置いといて」というようなカッコで、
    言い訳するように
ハジメ:あの、そのようなっていうのは、DEVOのコンサートに行くようなって
    意味ではなくて、バスタオルを選ぶのに3週間もかけてしまうようなって
    そういう意味ですよ
状況 :再び、偉そうな態度で
ハジメ:そのような、妻の思いやりが届かないようだ
    結構...それで結構です。マチコ、行くぞ
マチコ:はい
状況 :マチコの肩を抱いて玄関に向かうハジメ。包みをテーブルに置くマチコ
    玄関で靴をはきながら
ハジメ:どうもおじゃまいたしました
リカ :あ...
ハジメ:ご主人によろしく
状況 :突然、声を上げてテーブルの前で泣き崩れるチカ。玄関には背を向けている
    驚いた表情のハジメとマチコ。チカのところに歩いていくリカ
    両膝をついて、チカにむかって
リカ :ちょっとどうしたの、あんた?
状況 :両手で顔を覆って泣き続けるチカ。泣きながら
チカ :ごめん、大丈夫、ごめん。パパのこと思い出して
状況 :けげんそうな顔で
リカ :えぇ?
チカ :ごめん、大丈夫
状況 :両手をちょっと下げて、リカに向かって、ニヤリと笑う。再び泣き出すチカ
    状況を把握したリカ。正座して泣きそうな顔で宙を見つめ
リカ :忘れるの。いい?パパは、チカのことを空の上で、いつまでもいつ
状況 :突然顔を伏せて口元を押さえて、泣き出すリカ
    顔を見合わせるハジメとマチコ、あわてて靴を脱いで
ハジメ:おじゃまします
状況 :といって、上がり込み、テーブルの所へ行く。チカは2人に背を向けている
マチコ:あの、それじゃ、ご主人
状況 :2人同時に
チカ :10年前に
リカ :2週間前に
状況 :しまったという表情で顔を見合わせる2人
リカ :10年前に入院して、2週間前に
状況 :あわてて言い訳するリカ
マチコ:ついこのあいだじゃないの、ごめんなさいねうちの人ほんとにバカで
ハジメ:知らなかったもので
マチコ:知らなくたって、ねぇ
ハジメ:そうでしたか...
状況 :顔だけ2人の方に向けて
チカ :アマゾンを探検中にピラニアに
状況 :言い終わるやいなや、顔を正面に向け(2人に背を向け)
    顔を両手で覆い、肩をふるわせて笑いをこらえている
    顔を見合わせるハジメとマチコ
ハジメ:入院してたんじゃぁ?.....
マチコ:ピラニアにやられて入院を?
リカ :いや、病院を抜け出してアマゾンに
マチコ:はぁ.....
状況 :けげんそうに
ハジメ:アマゾンの病院?
状況 :顔だけ2人の方を向いて
チカ :ええ、あのへんも最近開けてきて
状況 :向き直るチカ
ハジメ:だって、10年前でしょう?
状況 :顔を見合わせるチカとリカ。鼻の下を伸ばした表情でしばらく思案して
    ハジメの方を向いて
チカ :転院してね
状況 :向き直るチカ。あわてて、口裏を合わせるリカ
リカ :うん、転院して、2ヶ月前に。あの、最初、あそこの、通りの
チカ :浜本医院にね
リカ :浜本医院に
マチコ:そうですかぁ...。でも浜本医院って歯医者さんですよね?
状況 :ちょっと考えて。2人の方を向き
チカ :歯の病気だったんですよぉ
状況 :向き直るチカ
ハジメ:歯の病気で、10年間も入院ですか
状況 :ハジメの方を向いて
チカ :珍しい病気でね.....
状況 :ちょっと震える声で
チカ :両まぶたに、ずらりと歯が生えて
状況 :向き直るチカ。自分の目の所で手を使って、歯が生えてるのを
    表現しながら、声を出さずに体を震わせて大笑いしている
リカ :そうなんですよ
状況 :と、ハジメの方を向いて言ったあとすぐうつむいてボソッと
リカ :だめだ、完全にばれた
ハジメ:ほぉ〜
マチコ:恐いわぁ
状況 :座ったままハジメの方に上半身を向け、両手を床につけて
チカ :目医者か歯医者か迷ったんですけどね。歯さえ抜ければ視力は
    いいほうだからって、歯医者に
状況 :向き直るチカ。あきれたような声で
ハジメ:なるほどねぇ
マチコ:でも、またどうしてアマゾンに転院を?
状況 :再び、上半身を向けて
チカ :アマゾンの病院にね、いい先生がいるって紹介で
状況 :向き直るチカ。2人の方を向いて
リカ :ええ
状況 :うつむいてボソッっと
リカ :だめだ引っ張りすぎていまさら冗談だとも言えない
ハジメ:それはいったいどなたの紹介で?
リカ :だから...
状況 :後ろを指さしながら
リカ :アマゾン人
マチコ:あぁ
状況 :納得するマチコ。バカにするように
ハジメ:あ、アマゾン人ね。アマゾン人の紹介のいい歯医者さん
リカ :いい先生でしたよ
状況 :2人の方を向いて
チカ :半魚人なんですけどね
状況 :向き直るチカ、あきれるリカ
ハジメ:...マチコ、聞いたか
マチコ:はい
ハジメ:両まぶたに歯が生えて入院した浜本医院から、アマゾン人の紹介で
    半魚人のいい先生のいる病院へ転院したのもつかの間、病院を抜け出して
    まあ、ピラニアに
マチコ:はい
状況 :2人の方を向いて
チカ :ウソみたいな話で
状況 :立ち上がりながら、淡々と
チカ :おかあさま、あたしそろそろ部屋で勉強を
状況 :舞台上手の方に歩いていくチカ
マチコ:えらいのねぇ
状況 :立ち止まって
チカ :いえ、学生の本分ですから
マチコ:がんばるのよ、気を落とさずにね
状況 :気持ちを全く込めずに
チカ :はい
状況 :再び歩き出すチカ。うらめしそうな表情で、呼び止めて
リカ :チカさん
チカ :はい、おかあさま?
リカ :今夜はDeepな夜になるわよ
状況 :胸の前で腕を交差させ、ちょっとひざを曲げ、左手でピースするチカ
    それを見て、チカにピースするマチコ。無言でその手をつかんで
    下におろすハジメ。チカは舞台上手に消える
ハジメ:まったくウソみたいな話だ
リカ :ほんとにウソみたいな話で
状況 :あわてるリカ
マチコ:あるのねぇ
ハジメ:あるんだよぉ。マチコ
マチコ:はい
状況 :床に正座する2人
ハジメ:すみませんでした
マチコ:すみませんでした
状況 :両手をついて、リカに向かって深々とおじぎをする。リカ、あわてて
リカ :あ、いや、そんな、わかって下さればねぇ
ハジメ:どうも、失礼いたしました
リカ :はい
状況 :立ち上がって玄関に向かう2人。リカは正座したまま向きを変える
マチコ:あのぉ、さしでがましいようですけれども、私たちにできるようなことが
    ありましたら、遠慮なさらずにおっしゃって下さいね
リカ :はい、はい
状況 :両手をついてぺこぺことおじぎをするリカ
    ハジメは玄関を出て、歩いていく。マチコは玄関で
マチコ:シー ユー ネクスタイム
状況 :と言いながら、上半身を軽く右に曲げ、右手を横に出し、右足を
    左足の後ろに交差させる。振り返って、
ハジメ:よしなさい!
状況 :2人は舞台奥へ去っていく