人生最初の挫折 〜芋掘りの謎〜
あれは今をさかのぼること半世紀も前の出来事。私が幼稚園の時のことである。
芋掘り遠足に出かけた。畑に到着し、先生(あきこおばさん※)が
「みんな!頑張って芋をいっぱい掘って、お土産に持って帰ってね!!」
友達はみな
「わ〜〜〜い」「わ〜〜い」とはしゃぎながら畑に突進。芋を掘り始めている。
私は茫然とした。
「一体どこを掘ったら芋が出てくるんだろう?何か目印でもあるのかな?何でみんなそれを知っているんだろう?僕は知らない。何も聞いてないし・・・・・。僕に見つけられるはずがない。だってどこにあるのかわからないし、どのくらい掘ればいいんだろう?何もわからない。何もできない・・・・・・・・」
周りでは次々と
「あった〜〜!」
「見つけた!」
「僕が先だぞ!」
等と声が聞こえてくる・・・・・・。
私はへなへなと座り込んだ。
「もう駄目だ。僕には何もわからない」
人生最初の挫折。この時のことは、今でも鮮明に覚えている。
するといつの間にか、傍らには先生が。
「あらあら、友ちゃん、どうしたのかな?じゃ、先生が一緒に見つけてあげようか」
というと、近くを掘り始めた。ほどなく芋が現れ
「はい。あげる。見つかって良かったね!」
なんだか魔法を見ているようだった。
どうしてそこにあるってわかったんだろう?何でそんな簡単に出てくるんだろう?
いずれにせよ絶望の淵から救われた私は、安堵のため息を漏らし、芋を携え畑を後にした。
以来、このことは人に言えず、ずっと黙っていた。
結婚してから、妻にこの話をすると
「芋掘りで挫折する人なんて珍しいね」
と笑われた。
それからさらに数十年。あの、絶望の日から半世紀の時が流れたある日、私はひょんなことでとんでもないことを耳にしてしまった。
芋掘りは八百長らしい!!
雑誌だったか、テレビだったか忘れたが、ある人いわく
「いやぁ、子供の芋掘りというのは、あれは人生最初に与えられるインチキでしょうね。子供に本当に芋が掘れるはずありません。あれは大人が適当なところに置いて砂をかけているだけなんです」と
「え”!!まさか!?」
私は息を飲んだ。
でも確かにそんな気もする。だとしたら、挫折した私は。実はインチキでしか芋を掘りえないことを見抜いていたのだろうか?
私は馬鹿なのか?天才なのか?ドンキホーテなのか?
おまけ1
事の真偽は、幼稚園の先生や、芋堀をさせてくれる畑の人などに聞けば簡単にわかるだろう。
しかし、このことは死ぬまで知らずにいた方が幸せでいれる気がする。私に残った最後の聖域?
もし、この八百長説が本当なら、決して私には教えないでください。
永遠に謎のまま、人を信じてあの世へ行きたいです。
おまけ2
結婚してほどなく、偶然にも畑に座り込んでいるあの日の私の写真が出てきた。
虚空を見つめ悲しげな顔をしている。妻にはこの写真を見ながら話をしたような気がする。
あの写真はいずこに?また発見したらこのページに出します。人生最初の挫折の瞬間を捉えた写真なんて珍しい。
おまけ3
高速道路=陸の大動脈は「動脈」なんだから一方通行だと思ったり、私はかなりイカレている。
「謎に悩む人生」
※ 新潟市の二葉幼稚園は、格式の高いカトリックの幼稚園で、皆「家族」であるという考えのもとに、先生のことを「おじさま・おばさま」または「おじさん・おばさん」と呼んでいました。
最近久しぶりに、その「あきこおばさん」に会ってきました。とてもお元気そうで嬉しかったです。
「久しぶりに幼稚園の頃の写真を見つけて眺めていました」と言ったら
「それぞれ写真を見て思うことがあることでしょう。友ちゃんは友ちゃんの思うことが、私には私の思うことがありますよ」
と、さすが神様、お見通しの発言。さらに追い討ちをかけるように
「私が思うことは言えませんけど・・・」と意味深な一言。
後で母親に聞いたら
「きっとおしっこでも垂れたんじゃないの?」
だそうです。
ああ情けない・・・・とほほ。