第九話:食事中の人は読まないでください
これは、私の元同僚のY先生の話。
大学病院勤務中のこと。大学病院は勤務交代が多く、そのたびに歓迎会、送別会等と忙しい。
大酒飲みの看護婦Bさんは、その日も飲みまくっていた。一次会が終わり、二次会、三次会と進み、さすがのBさんも限界を越していた。四次会にいたり、げろげろ吐き始め、Y先生らが介抱するものの、ついに正体不明。一緒に飲んでいた人達も、さすがにこれはヤバイ、救急車を呼ぼう、ということになった。
到着した救急車にBさんを押し込んだY先生は「大学病院。皮膚科へ!」と叫んだ。
「こんな人を、大学病院の、しかも皮膚科に運んでどうするんですか?」
と、あきれる救急隊員。何故か救急隊員の目が冷たい。
「構いません。なぜなら私はそこの医師、この人は看護婦です!」
確信に満ちた声に頷いた救急隊は一路大学病院へ。
皮膚科病棟に到着したY先生は、Bさんを寝かせると、夜勤の看護婦に
「点滴セット。酔っ払いバージョン!」と指示をした。
余談であるが、この点滴は、酔っ払いに効果てきめんで、医局旅行等に際しては下っ端医局員がいつも持たされるものである。
さて、自信満々で指示したものの、実は、当のY先生もかなり酔っ払っていた。
点滴を刺そうと試みたが、ちっとも入らない。いくら不器用なY先生にしてもおかしい。最初は酔っているためかと思ったが、それにしても目の焦点が合わない感じだ。
さらに何回も挑戦したが、全然入らない。遠近感が全然わからない。
おかしい・・・冷や汗をかき、ふと眼鏡をはずしてみると、なんと!
その眼鏡にはべったりとわかめが張り付いていたのであった。