第二話:長い顔の少年
あれは忘れもしない小学校6年のとき。
おそらく1学年下の、その顔の長い少年はいつも一人だった。
初めて廊下ですれちがった時、私は思わず、
「長い顔!」
と言った。
内心、しまった、と思ったが後の祭。しかし、その少年は気にする風でもなく、そのまま通りすぎた。
正直、ほっとした。
しかし、数日後またその少年と会った時、あろうことか私はまた、
「長い顔!」
と言ってしまった。そんな自分が少し厭になった。しかし、その少年は少し微笑みすら浮かべるのであった。
調子に乗った私はそれからその少年に会うたびに、いや、姿をみたら追いかけて行ってまで
「長い顔!」
と言った。その頃には次第に
「ながいかお〜〜〜!」
と微妙なアクセントまでつくのであった。
私は何故か得意満面であった。無抵抗な下級生。きっと少年は僕を恐れているだろう。
正直言って私は、いじめる快感というよりむしろ少年に対する愛情すら感じていた。
今度はいつ会うんだろう。そんなことまで感じていた。
そんなある日のこと、少年は珍しく友達と連れ立って歩いていた。
しめたっ。近づいて行った私はいつものように、いや、いつにもまして
「な〜が〜いかお〜〜〜〜!」
と言った。
連れの友人がけげんそうな顔をしている。
たぶん「だれだ、あれは?」と尋ねたのだろう。
それに答える長い顔の少年の声が、丁度すれちがう私の耳にはいった。
「あいつ馬鹿だから、相手にするな」