第一話:珠のような赤ちゃんの話
ある日、生まれたばかりの珠のようなあかちゃんを抱いたお母さんが皮膚科を受診しました。
「どうされましたか?」まるちゃん先生は、いつもの寝ぼけたような声で尋ねました。
「あのうこの子なんですけど・・・」お母さんは真剣です。「生まれたときから頭のてっぺんにハゲがあるん です。」
「どれどれ」と頭を見たまるちゃん先生は答えました。
「はいはい、これは脂腺母斑(しせんぼはん)といいましてね・・・」わりとありふれた皮膚病なので自信 満々です。
「良性のアザの一種です。放置しても差し支えありませんが、ごく稀にですね、この子が年をとっておじいさ んになる頃に、この部分に癌ができる可能性があるといわれています。滅多にないことですが、一応念のため 成人するまでに手術して除去すれば安心です。」
「・・・・・」お母さんは何も言いません。
ありゃ?「癌」なんて言葉がきつかったかな?と思ったまるちゃんは
「いやいや、お母さん、心配ありませんよ。癌になるったって滅多にないことだし、ましてやこの子がおじい さんになってからです。ね、おじいさん。だから・・・」一生懸命説明するまるちゃんの声をさえぎるよう に、お母さんは言いました。
「あのう、この子、女の子なんですけど・・・」申し訳なさそうに言うお母さん。自分の大失敗に気付いた まるちゃんは慌てて大声で訂正しました。
「すみません。間違えました。おばあさんでした!」
と言った瞬間です。生まれたばかりの子をおばあさんといわれたお母さんは、珠のようなあかちゃんをぎゅう っと抱きしめたのでした。