Paster Keaton Essay「Airs」

EPISODE:7 ジャングルジム

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 ルフトハンザ機の747はボゴタを飛び立ってから30分猶予を経過した。

 エクアドルの首都である"QUITO"までは約1時間半の行程で、コロンビア
南東部域のアマゾン川支流の熱帯性雨林とアンデス山脈嶺との中間を飛行する。

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 近年この地に両国を結ぶ高速道路網の計画が浮上し、貴重な動植物生態系への影響が
懸念され、開発当事者と自然保護団体との攻防が続いている。
 高度は3万5千フィート前後であり、眼下に広がる雲海に島嶼のごとく点在する火山は
標高5千から6千数百mに達するものばかりである。その中に80年代半ば頃に噴火した
ネバド・デル・ルイス山もある。
 だが、頂は無垢なように白く燦然と波の中、輝いていた。
 今回のキト来訪は2回目である。
 前回は米軍のパナマ侵攻によるビザ更新のための出国先変更であり、今回も政情の安定
しないパナマを回避したに他ならない。
 今、季節は乾期である。3月であることもこの国での昼の長さ、夜の長さをほぼ同じに
していく。春分の日には太陽は真東から天頂を通り真西に動くのである。陰は夜明けより
棒となり正午には点へ、点から伸び棒となり、夜の帳とともに棒から消えていく。
 首都の新市街区は3000m近い高地であり、周囲をアンデスの高峰が取り囲む盆地の
ごとく地形にある。3千数百mに達する連峰により水平線の彼方へと去りゆく夕日を見る
事は叶わぬ。ぽっかりと抜いた天井が広がるだけでしかない。
 日本に於いてはいかなる地、いかなる山々へ赴こうともこの天井を知ることは出来ない。
 この先、訪れることすら夢想だに適わないボリビアの首都ラパスは標高5000mを超
過し慣れぬものが山歩きをすれば極度の低酸素症状により幻想へとトリップするとのこと。

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 話はまた遡り、1990年1月1日となる。

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 宿泊ホテルをここエクアドルに滞在経験者により高級ホテルから住宅街の小さなホテルに
変更したのは昨日。昨夜は地元の中華食材店にて夕食を楽しむとともにラーメンの麺より、
年越しそばを急拵えであつらえた。味は材料が材料だけに如何ともし難いが、意外や意外、
別天地で食すればその地に溶け込む風合いとなるではないか。もちろん、これには高地故に
味覚が少々低酸素向けにシフトしているかもしれない。

 昨日予約した首都観光および赤道記念碑巡りのツアーに間に合わせるために各ピックアップ
地点へ急ぐキートン。国一つ違うだけで、雰囲気が異なるものを肌で感じ取れるのか、つい破
顔してしまう。その国、その国の地理、気候、歴史により暮らす人々の文化、風習、意識が形
作られていくのが、またここでも実感できる。
 ツアーのワゴン内で解説がスペイン語で行うのか、それプラス英語で行うのかをガイド役の
初老の恰幅のいい男が訪ねてきた。
 キートンが日本人であること、又スペイン語が流暢でないことを聞くと解説はまずスペイン語、
続いて英語で行うことを言い終えるとワゴンは出発し、一路旧市街を目指す。

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 ここで、説明しよう。

 各国首都に於いて旧市街と新市街が両立しているのは自明の理である。
 なにより日本ですら新旧市街は東京に於いて発生しており、丸の内・霞ヶ関など政府公官庁は
旧市街に属し、新宿以西が新市街に相当するのは世界各国の現状からすれば当然であり、南米各
国においても首都の人口増加により拡大した市街区域が手狭な中心部から広がって新市街(山の手?)を
形成していくのである。(スラム、とは別である)よって旧市街に各名所旧跡が林立するのはこの
帰結であり、その中に旧大陸からの搾取いや侵略の牙城である教会が威風堂々と割拠するのも当然
なのである。

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 旧市街の市場を抜け、一段と登り切る開けた場所にサン・フランシスコ教会が見えてくる。
 日本では見ることのない、群青の絵の具を白いキャンバスに塗りたくったような空。
 それと対比する教会の白壁、広場の黒ずんだ畳石。帽子を被る男達。買い物をする女達。
新年の祝いとお祭りがごったかえす喧騒の中、絵にしても、写真にしても聞こえそうだ。
 広場を抜け、通りを曲がり、キートン一行はこの国で最も古い教会の中へ案内された。
 カテドラル
 ≪キト旧市街中心部のカテドラル≫
 礼拝する人々で長椅子の殆どは埋まっている。
 この中をカメラに撮ることをキートンは躊躇った。
 いや辞退した、と表現すべきかもしれない。
「信仰というのは、個々人の心のものじゃないかな、見せ物じゃない気がするんだ」

 天井を見上げたとき、キートンの表情が柔和なものから険しくなった。
 黄金色で埋め尽くされていたからだった。

 赤道を跨ぐキートンとツアー一行
 ≪赤道記念碑前にて≫
 ツアー一行と共に赤道を望む
 ≪赤道記念碑を南半球側から望むキートン達ツアー一行≫

to be continued !!


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