Paster Keaton Essay「Airs」

EPISODE:5 ファイアフォックスダウン

◆◆◆◆◆◆◆

 「いけない、速過ぎる!」
 キートンが叫んだ。

  滑走路がみるみる間に近付いてくる。
ハードランディング:無茶な着陸、スピードを落さずに段差を乗り越えるクルマの映画のように
強硬する着陸をするのかと思った、
――が、機首が持ち上がりぎりぎりの高度でかわしていく。
 沈みこむ機体と揚力とでGが身体にかかりくる。
機速を上げ、滑走路上をローパスして上昇を始めた。

◆◆◆◆◆◆◆

着陸のやり直しだ。

 だが、燃料は?
 高度をとって大きく着陸コースを巡れば燃料の消費は多くなる。
 右周りのコースをとり機はフラップをフルダウン、
 スロットルポジションを着陸モード、
 方位修正、進入角、降下速度、沈下率を調整して進路を滑走路へと向けた。
 エンジンの回転数が高くなり、それに伴い金属音も唸りを上げた。
 やがて機内は少し静かになった。今度はきちんと着陸できるだろうと願っているのだろう。
 だのに、キートンは落ち着いていた。
 いや、この状況を観察していたと表現した方がいい。
 機首を上げ、機速を徐々に殺しながら揚力を均衡させ機体を滑走路へと沈めていく。
 だが、だが、だが、キートンは呟く。
「(降下角はいい、でも、速度は)まだ速過ぎる」
 ドスン、っとメインギアからの衝撃が機体をわななかせる。
 途端に客席から拍手が湧き上がる。
「まだだめだよ」
 ぼそりと呟く。
 機体はノーズギアを接地させることなく姿勢を保ったままだ。
 尾部のエンジン3基が轟音をあげ、蹴り飛ばすように加速を再開する。
 タッチ&ゴーだ。
 着陸速度が速過ぎて、オーバーランエリアを越してしまう。
 まだ、浮かばない。
 一旦失われた揚力が回復するまでには距離が必要だ。
 そして、この機は2度めの離陸を行なった。
 SantaMarta AirPort
 客席は、もう、沈黙するしかなかった。
 十分な高度を確保しないまま機体は右へとバンクし、浚渫工事のクレーンを掠め機首を空に
突き刺すよう上昇していく――と。
 誰もがそう思っただろう。
 が、再度、機首を振り、左へとバンクする。
 そして、Gを増しながら旋回していく。
 着陸コースを再度トレースしていたのでは燃料が持たないからだ。
 急旋回で機体に遠心力がかかり、Gが左斜め上から右下へと抜けていく。
 窓外は海だけしか見えない。
 旋回半径を小さくする為にバンク角を大きくとり滑走路へ機首を向けている。
 これはもう、旅客機の操縦ではない。

◆◆◆◆◆◆◆

 揚力が足りない。
 バンク角が深過ぎ(60度近い)、旋回が急なために、横滑べりしている。
 そして高度も徐々に低下している。長く、長く、長く感じられる時間。
まだ旋回が必要だというのであろうか。
バンク角が和らぐ。
 しかし、機首を僅かに下げて速度を稼ぎ揚力の低下を回復させるつもりらしい。
そして、再度機首を右に振り、バンクを右にとる。
滑走路が見えた。
 速度を上げ、十分な高度をとれないまま、機は滑走路に正対した。
降下角は問題ない、だが、速度が先程よりも更に速過ぎる。着陸するしかない。
 再度、浮かび上がりやり直す燃料もない。
滑走路端を通過し、高度を下げながらも機体は接地しない。滑走路長の半分を切った。
 左手にターミナルビルが見えた。
 滑走路は、もう残り半分もない。
 B727の着陸距離は50 ftから停止するまでスラストリバーサーを使用せずにブレーキ
のみで1327メートル必要である。
 スラストリバーサーを併用しても八百メートル近い距離の滑走を必要とする。
 今回は全てが足りない。
エンジンを絞り速度と揚力を落して、それこそ飛び降りるようにメインギアを接地させ、
スラストリバーサーを全開にした。
 前輪は接地していない。
 前輪接地と共にブレーキをかける。この間、数秒。
機体はシェイカーにかけたように激震しだした。
荷物が飛び、座席が揺れる。

 まだ、まだ終らない。

機体は悲鳴にも感じられる轟音とブレーキ跡を滑走路に残しながら、
 海へ、海へと近付いて行った。

 Mari Carib

to be continued !!


[Back][Next]
PasterKeaton project©