EPISODE:5 ファイアフォックスダウン
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「いけない、速過ぎる!」
滑走路がみるみる間に近付いてくる。
ハードランディング:無茶な着陸、スピードを落さずに段差を乗り越えるクルマの映画のように
強硬する着陸をするのかと思った、
――が、機首が持ち上がりぎりぎりの高度でかわしていく。
沈みこむ機体と揚力とでGが身体にかかりくる。
機速を上げ、滑走路上をローパスして上昇を始めた。
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着陸のやり直しだ。
だが、燃料は?
高度をとって大きく着陸コースを巡れば燃料の消費は多くなる。
右周りのコースをとり機はフラップをフルダウン、
スロットルポジションを着陸モード、
方位修正、進入角、降下速度、沈下率を調整して進路を滑走路へと向けた。
エンジンの回転数が高くなり、それに伴い金属音も唸りを上げた。
やがて機内は少し静かになった。今度はきちんと着陸できるだろうと願っているのだろう。
だのに、キートンは落ち着いていた。
いや、この状況を観察していたと表現した方がいい。
機首を上げ、機速を徐々に殺しながら揚力を均衡させ機体を滑走路へと沈めていく。
だが、だが、だが、キートンは呟く。
「(降下角はいい、でも、速度は)まだ速過ぎる」
ドスン、っとメインギアからの衝撃が機体をわななかせる。
途端に客席から拍手が湧き上がる。
「まだだめだよ」
ぼそりと呟く。
機体はノーズギアを接地させることなく姿勢を保ったままだ。
尾部のエンジン3基が轟音をあげ、蹴り飛ばすように加速を再開する。
タッチ&ゴーだ。
着陸速度が速過ぎて、オーバーランエリアを越してしまう。
まだ、浮かばない。
一旦失われた揚力が回復するまでには距離が必要だ。
そして、この機は2度めの離陸を行なった。

客席は、もう、沈黙するしかなかった。
十分な高度を確保しないまま機体は右へとバンクし、浚渫工事のクレーンを掠め機首を空に
突き刺すよう上昇していく――と。
誰もがそう思っただろう。
が、再度、機首を振り、左へとバンクする。
そして、Gを増しながら旋回していく。
着陸コースを再度トレースしていたのでは燃料が持たないからだ。
急旋回で機体に遠心力がかかり、Gが左斜め上から右下へと抜けていく。
窓外は海だけしか見えない。
旋回半径を小さくする為にバンク角を大きくとり滑走路へ機首を向けている。
これはもう、旅客機の操縦ではない。
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揚力が足りない。まだ、まだ終らない。
機体は悲鳴にも感じられる轟音とブレーキ跡を滑走路に残しながら、
海へ、海へと近付いて行った。