Paster Keaton Essay「Airs」

EPISODE:3 Golden Eyes

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キートンは、首都のBogota(現Santafe de Bogota)にて
大統領府前、議会棟前の広場に来ていた。

国会議事堂市庁舎
          ≪国会議事堂≫                 ≪市庁舎≫
 日曜日とあって、人出は多く、石畳の広場の周りには出店が居並び、賑やかな場を作りだし、
すぐ横の静寂を漂わせる南米最古のカテドラルにも礼拝者が訪れていた。
 今、ここからの景観で変わったものがあるとしたら、それは先月にTNT500Kg爆弾テロで跡形
もなく吹き飛ばされた検事局の建物が撤去中であることだった。

国会議事堂市庁舎
        ≪ボリバール広場内≫                 ≪カテドラル前、遠くにモンセラーテを望む≫

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 ひとしきり広場を眺めた後、キートンがゴシック様式の大統領官邸をカメラで撮影していると
「Hi, Senior ?! (ちょっと、いいかな)」
 市警察の2人組が斜め後ろから声を掛けてきた。
 ゆっくりと振り向くと、挙動不審な動きを見せたら、即撃つようにと一人はショットガンを
腰に構えて、もう一人はUZIサブマシンガンを同じく腰溜めに構えていた。
 どうやら、内部を撮影しているので挙動不審者と勘違いされたようだ。
 にこやかな表情でキートンはパスポートのビザが労働であること、勤務先がテレコムである
ことを告げて、他意が無いと二人に説明した。
 こんな時には、悪いことをしているのではないので、同僚に話すようにするのがいい。
 それで駄目なら、駄目な時である。
 それに尋問を受けるのは今日に始まった事でもない。
 説明に納得したのか、二人は快く別れを告げ、また犯罪に気を付けるよう言い残して別の警
備に移動していった。
 標高2600mのこの場所では空気が澄みきりカメラ写りがいいのだとキートンが考えても被写
体を辺り構わず撮影し、且つ政府の建築内部を覗いていればテロ多発の社会で怪しまれない
のも変だが。

★★★★★
 コロンビアの都市部(サン・アンドレス島を除く)の治安は、最近の失業率上昇に
比例して悪化の一途をたどっている。零細農民や都市の失業者が不法占拠している
「Invasion(インバシオン)地区」の住民が犯罪の主役となることが多い。犯罪の
多くは、スリ、かっぱらい、誘拐、詐欺、脅迫、偽造、空き巣狙いなどであり、警察
も特定調査はしない。しかし、時には殺人事件も発生しており、その多くは犯罪者同
士の利害衝突、警官、裁判官などへの復讐が発端であり、無動機殺人はきわめて少な
い。
 銃器の入手・所持が比較的容易なため、流れ弾などを受ける危険性があり、十分な
注意が必要である。また、日本人はこのような環境に慣れていないため犯罪に巻き込
まれやすい。

 ボゴタ市内では、高級車や四輪駆動車を狙った武装強盗事件が現在、多発している
犯行手口として自動小銃や機関銃等で武装した数人が乗車した犯人の車が狙った車の
前に無理やり割り込み、車を停車させた後、犯人がそれに乗り込んで被害者を犯人の
車に乗せて2〜3時間市内を連れ回し、クレジット・カードやキャッシュ・カードの
暗証番号を聞き出した揚げ句、自動現金引出し機から現金を引出しその後、被害者の
自宅近くで解放する。
 事件は深夜はもとより夜間の比較的早い時間(午後9時前後)や夜間でも比較的人
通りの多い交差点(Transversal 15 Calle 127の交差点等)でも発生しているおり、
日常から相当の注意を払うとともに、以下の対策を講じるように指導されている。
1) 夜間は防弾車を使い、車列を組んで走行するようにする。
2) 尾行してくる不審な車両がないか常に注意深く確認する。
 もし、自宅手前の最後の交差点まで追尾してくるようなら、すぐに自宅に入らず
 周囲を一周する等して犯人側を巻く。また、その間に携帯電話で警察に通報する。
3) 不幸にも強盗に遭遇したら、抵抗せずに求められた金品を渡す。

 公園脇のキオスクでジュースを買い、飲みながら広場を見やる。週末故に人出は多い。
 テロリズムや反政府ゲリラ、コカインマフィア、スラム等諸処の問題があっても人々は明るくて
懸命に生きている。多くはない失業率、高くはないインフレと文教の高い国民性が和ませてく
れる。

 暫く周囲を巡った後、夕方になるのでホテルへと戻っていった。

◆◆◆◆◆◆◆

 翌、月曜の朝、ホテルをチェックアウトすると空港へと向かった。
 赴任地のサンタマルタ州へ戻るためだ。
 首都にあるこの空港は、国際線ビルと国内線ビルとが隣接して設けられている。
 El Dorado空港、エル・ドラド、黄金空港。
 国内航空のAviancaが最大手であり、他に数社が運航している。
 ついでながらAvianca航空はこの国のNational Flag Carri-erでもある。
 (※国際線の航空会社は1992年以降増えるが、割愛)
 カウンターで手続きをすますと椅子に腰かけて珈琲を飲みながら、周囲を見渡した。

 観光地でもあるサンタマルタへは、早朝でも搭乗者が多い。いつものことだ。
 ゲート近くのモニタで出発便の状況を確認する。
 時間が来たので、出発ゲートへと向かう。
 恒例の爆発物検査とボディチェックが待っている。
「鳴ると困るんだよなあ」
 キートンの表情は言葉とは裏腹にのほほんとしたものだ。
 国内線でもX線検査後も、チェックを怠らない。
 ゲートを潜った後のチェックは空港職員ではない、陸軍が行なっている。
 今朝の気温は7°C。セーターが心地よい。目的地は30℃を越えている筈だ。
 珈琲を飲み干し、
「じゃ、行きますか」
キートンはゲートを出て搭乗機を見据えた。

Avianca-727

 数日後、大統領選挙期間中の遊説のために空港に来た副大統領候補が、
 キートンが座った付近で暗殺されるのである。

to be continued !!

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