Paster Keaton Essay「Airs」

EPISODE:15 誰が為に鐘は鳴る

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「涼しいな」
 発熱により体温が高いため35度を越える外気温すら心地よい。

ロダデロの海辺
 夕食後、徐々に体調を崩し、夜中に倦怠感と嘔吐と頭痛が
キートンを襲った。
脱水症状を防ぐ為に大量の水を摂取し胃腸薬を服用し精神
的に落ち着かせた。
 気安めながらもベッドに横になればすぐに眠りに落ちた。

 救急車(Anblancia)は呼ばなかった。
 生き死にに関わるには、急病とはいえ歩ける程度ならタク
シーで十分だからだ。
しかし、タクシーではない。
 病欠の旨を連絡するとサンタマルタ局の技師の一人リコが
ジープで病院へ向ってくれると申し出てくれたからだ。
身体が軽い、キートンは不思議な感覚に因われた。
 熱で感覚が麻痺してるからだ。
 対応した医師との問診で昨晩の夕食の牡蛎による食中毒ら
しい。
 体力の消耗を回復する為に点滴投与になったのだが、
「ちょっと、ベッドが狭い」
「点滴が、あ、あっ、早い、早い」
 等とスペイン語で文句を並べるキートンだが(うなされて
いるのでスペイン語に変換するのは不可能)周囲には意味不
明の上言としか聞こえないし、体温は40度を越えている。
 事実、救急用のベッドなので幅は肩幅分しかないし、1本
目の点滴もぽつりぽつりと落ちるのではなく、どぼどぼで
ある。2時間が目安の点滴を約30分で終え2本目に替える。
 心臓のビートは高まり、脈打つ血流が全身を震わす。
「…」
 物静かな医療室、薬品の匂い。
 まどろみにおちていくキートン。

 今までもボゴタとサンタマルタの気温差から風邪になりか
けたことは幾度もあるが、これ程の症状になるのは初めてで
ある。ましてや食中毒は。
 ここでは近海物の海産物が豊富なので鮮度は高い筈だが、
それは料理する側の論理。食べる側には保存状態など判ろう
筈がない。
 以後、キートンは生牡蠣を現地でも日本でも食することは
無くなった。

註:むしろ日本で食する方が危ない。

◆◆◆◆◆◆◆

海の前の様子

 当日の夕食。
肉料理をやすやすと平らげるキートン。
体力の回復にはこれが一番。
 第一、粥の発想はアジアだけだ。ホテルのレストランも体
力が落ちたときは肉料理に限ると勧めてくる。胃薬付きでだ。
翌日も精力的に沢山の料理を食べる。
食べて、食べて、食べて。
寝て、寝て、寝て。
「おっ、もう良くなったか」
「そりゃあ、2日も休めば回復しますよ」

陣中見舞にボゴタより駐在のH氏が来ているのだ。
「しかし、気づかんか、食べる時に」
「いやあ、何か変だな変だなと思いながらも食べちゃいました」
「このばかもん」
窓外を見やるH氏。
「いいとこだなあ、俺もここで仕事したいよ」
「そうでしょう」
昼下りの風が部屋を通り抜け、潮の薫が立ちこめる。
「昼飯にしません!?」
「あ、これ、ボゴタに雑誌の郵便物が届いてたから」
「おー、やっときたか、すみません、わざわざ」
「じゃ、行くか」

 ロダデロで一人暮らしを始めた以降は料理に当たったことは
無くなった。
後日談だが、キートンの仕事が早く終了したことより、残契
約期間を星野氏が務めることになり滞在することになる。
 数ヶ月後、同じ料理店"Mar Caribe"で再度キートンは食事
することになるのだが、その際には生牡蠣のオーダーは丁重に
断わるのである。

 水あたり、これが海外で暮らすなり、旅行するなりである程
度の方々が経験する病気だ。
 これは水道の衛生状態が悪い場合もあるのだが、水質が合わ
なくて下痢をおこす場合もあるのだ。
 つまり、軟水と硬水との違いもあるのだ。
 一人暮らし以降、自炊時には購入した1ガロンのミネラルウ
ォーターボトルを週1本消費するのだが、この味にすら好みが
分かれる。原産地の味である。
 インスタント珈琲も充分、レギュラー珈琲に負けないくらい
旨くなるのである。

to be continued !!


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