Paster Keaton Essay「Airs」

EPISODE:16 ソラが落ちる時

◆◆◆◆◆◆◆

 日曜の昼下がり、ボゴタの通りを散歩するキートン。

 商店街やスーパーの居並ぶ交差点にはまばらな人通りと珍しく
静かな交通量だ。
 交差点そばのキオスクでコーラを買い、その場で飲むキートン。
 ぐるりと周囲を見回しながら飲み続ける。
 通りの東側からキャタピラ音を響かせ、1台の兵員輸送装甲車か
軽戦車かであろうか、近づいてくる。
「カウンターテロアタック、か」
 つまりテロリズムに対する対抗攻撃を実施する為の行動。
 現時点では表だったテロ活動はコカインカルテルによる暗殺と爆
破であり、反政府組織(ゲリラ組織)である"M19"はキートン滞
在中は沈静化していた。(後に解散する)
 威圧行動として装甲車や軽戦車で市街地を巡回するのは効果的で
あり国民に対してPR効果も見逃せない。
「やれるものならやってみろ、て事かい?!」
「ロケットランチャーでも打ち込まれたら洒落にならんな、
 この近辺破片が飛散するじゃないかって」
「いっ!?」
 速度を緩め、鉛色の車体がキオスク手前に停車した。
 エンジンを絞り、警戒防御態勢に移行する兵士達。
「なにも、真横に止まらんでもいいのに」
 やれやれと、困惑の表情で軽戦車を見つめるキートンの心境とは
裏腹に、軽戦車上では戦車兵が丈夫に取り付けられたM50機関銃を
構え周囲を監視し始める。
 上空ではA−37ドラゴンフライ・COIN機が通過していく。
 反対側の空も同じだ。
 これらの対テロ活動はアメリカ合衆国より協力申し出以降大統領
選まで続くことになる。

 旧市街(銀座や日比谷とイメージすればいい)に出向き、ホテル
内で合衆国の書籍探しや映画鑑賞、食事や銀行での振り込みを行う
キートン。
 繁華街だけあって週末は人や出店で道路は埋まり、歩行者天国と
化した幹線道はジョガーやサイクリストがこの高地での薄い酸素を
採り入れんと闊歩する。
 公園でバスケットボールを楽しむ者、サッカーに興じる子供達。
 犬の散歩に余念のない老人達。

「兵士、兵士、兵士」
 歩きながらも主要なホテル、施設を警護する武装兵の姿が散見さ
れる。
 キートンが脇を通るヒルトンはハイソサエティや各界首脳や外交
団の会議や催し物が絶えることなく日々行われているため、兵員輸
送のトラックが横付けされ次々と銃を抱え降り立っていく。
「ご苦労なことで」
 と、のほほんと軽口を叩くにしても周囲を状況を気にしないキー
トンではなかった。
「疑い始めるとキリがないもんな」
 事実、ホテル前でライフルを腹に突きつけられ尋問を受けたこと
など一度や二度ではなかったからだ。
「FNL、ベルギー製30口径のアサルトライフル」
 正面と見たまま横目で配置状況を見やる。
「それと、定番のUZIか」

 ババダダッダ、ババダダッダ、ババダダッダ
 ――と、ヘリのローター音が近付いてきている。
 15階のベランダから見回してみると左手側の海岸沿いから軍用
ヘリがほぼ同じ高さで飛来してきている。軍用迷彩に包まれた、幅
広の2枚ローターで空をオールでかき進むように爆音を響かせて。
キートンの目線と同じ高さを通過する際、にこやかに笑みを浮かべ、
軍用ヘリに対し手を振った。
 側面扉を開け放ち対地掃射用の機関銃を構えている兵士の一人が、
粋狂な仕草に苦笑しつつ返礼をする。
「御苦労様」と言いながら、目は笑っていない。
 不敵な表情のままごちる。
「撃ったりは、しないんだよ」

to be continued !!


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