Paster Keaton Essay「Airs」

EPISODE:13 Mar Caribe

◆◆◆◆◆◆◆

 カリブの風に集いし燭は魚介のたぎるエネルギーを
全身に採り入れんとする。

 交通機関をタクシーとバスに頼るキートンにとって遅くて
ちゃちなスクーターでもコーナーを曲がり、坂を登り、下る
際の風の心地よさを思い出した。
 それは初めてオートバイに乗った感じを思い出させる(ヘル
メットは着用義務にはなっていないんです、この国では)。
 コバルトの海、エメラルドの波頭、原色の絵の具を描きな
ぐったような大空、身体の底まで響いていくビートと艶めか
しい風の匂い、人々の情熱。
 小さな乗り物を駆りながらも無意識の奥底から沸き上がる
リズムがキートンを突き動かす。
 4年後、同じくツーリングをするキートンは、この眠って
いた躍動を思い出す。

◆◆◆◆◆◆◆

「食事だ、晩飯だ」
「エビにしません、キートン」
「そうですね、でっかいやつにしましょう」
 コロンビア北部海岸はカリブ沿岸部なので魚介類に恵まれ
豊富な量と多様な種類を食卓に提供する。
 海老にしても、スペイン語では大きさにより単語は異なり、
料理法にしても多種多様である。
 今回、キートン達が食したのは伊勢エビと呼んでも差し支
えない種である。しかし、普段、日本で目にする大きさとは
異なり、脹ら脛から太股程の大きさの海老が水揚げされるの
である。
 テーブルに料理されたその海老が来た。
 直接、キートン達が水槽から選んだものだ。
 伊勢エビのグリル焼き。
 背中から両断された身から香しい匂い。
 それをガツガツッと食しワインで押し込む。
 それで十分。
 ガツガツッと食しワインで押し込む。
(日本円で当時、約2000円程。1桁違う)

◆◆◆◆◆◆◆

 サンタマルタの朝の海岸は漁を終えた小船から市場へと水
揚げを運ぶ漁師の姿が見られ、日中は観光客と貨物岸壁に横
付けされた貨物船が波間を揺らす。
 夕方は出航。それらを廃棄された駅舎と朽ちた貨車、錆び
付いた鉄路がずっと見続ける。
 咲き乱れる花々。朝夕の僅かな海風に靡く枝葉。
 波の音。肩まで浸かりながら爪先さえ覗ける透んだ水。
 海の彼方から茜色が融け出す夕陽。

 ロダデロ(サンタマルタ州サンタマルタ市の一地域)
 中心部の行政・公共サービスと異なり、ここは観光のみの
場所。ワイキキビーチと同様と考えればいい。
 海辺に建つビル群。ホテルとレジデンシア(リゾートマン
ションと思えばいい)が所狭しと並んでいる。
 その中の一つ、15Fの自宅のベランダで海辺を見下ろす
キートン。
 ドラッグストアで買い物をするキートン。
 海で泳ぐキートン。
 レストランテで外食するキートン。
 散歩をするキートン。

◆◆◆◆◆◆◆

 眠るキートン。
 停電の闇の中、ラジオを聴きながら星空を眺めるキートン。
 出勤するキートン。
 帰宅するキートン。
 写真を撮るキートン。
 掃除をするキートン。
 選択をするキートン。
 嵐の来ないカリブは今日も波音を絶やすことなく運んでいる。

◆◆◆◆◆◆◆

 1991年5月 ニュージーランド北島

 90mileーBeachへと向かうバス内。
 窓外の景色をぼんやり眺めているキートン。
“海、北へと向かう中で鉛色に変わる空”
“風、穏やかな顔の裏には冬に向けた厳しさ”
“山、島国の顔、堅い顔、和やかな顔、そのどちらでもない顔”
 カメラを両手に抱え心の中で独白する。
「サンタマルタとは大違いだ、な」
 やがて、雨柱をバスはくぐりだした。

 バスツアーでの帰途、シーフードショップに立ち寄り軽い
食事をとる。NZ近海の海産物は日本に類似しているが一味
違う。近年、結婚式の食事の鯛の半数近くはNZからの輸入
物であるという。嗜好が似通っているのか?

 夕食前、37℃あった気温がスコールの後、25℃まで冷え込
んだ。ほんの10分ほどの出来事。
 カリブの夜は気まぐれだ。

to be continued !!


[Back] [Next]
PasterKeaton project©