Paster Keaton Essay「Airs」

EPISODE:10 遡航

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 チェックアウトを済ませ、玄関ロビーを出るとホテルが
手配したタクシーが回されてきた

「さて、この荷物、トランクに入るかな」
 とキートンが思うよりも早く、運転手はトランクを開けて中へ
入れようと試みている。
だが、大きすぎてトランクを閉めることすら出来そうにもない。
カローラやサニークラスの車体の小型車故に高さがまるで足りない。
トランクに格納することを諦めた運転手は後部座席にぎりぎり積み
込むことを試み、それは成功した。
「De done, Sir ? (どこまでですか、旦那)」
「Lodadero de Santa-Marta.(サンタマルタ州ロダデロ迄)」
 唖然とした表情を運転手は浮かべたが、
「Si,estoy bine (わかりやした)」
 見た目以上に軽い段ボール箱を勢い余って持ち上げてバランスを
崩す運転手に
「Paron,Pardon(すまん、すまん)」
 片腹を押さえて笑うキートン。
 こんな脳天気な客に運転手は何を思うのか。
 ホテルに手を振りながら、キートン達は出発した。

 市街地を抜け、バランキージャ〜サンタマウタ間を結ぶ国道へと
TAXIは入り、マグダレナ川河口に架橋された橋上を渡河し出した。
 コロンビアにて最も流域面積、河川距離共に大きいこの河川の終
端近くのデルタに架かるため橋の総延長は3千mを凌駕する。
 渡り終えると200km近く低湿地帯の海岸線道路を走るのだ。
この海岸線は海岸線浸食と地盤自然沈降により海水に浸されたので
2車線しかない道路の両脇には塩害により枯れてしまい乾涸らびた
木々が延々と続いている。生物が殆ど姿を見せない、樹木の墓場が
100km以上続く、虚無の世界。波音すら"もと"木の幹の群落にかき
消されてしまう。
 寂しく、荒んだ、無音の世界。
「夜には通りたくないな」
 外灯すらも点在しない(日本の外灯は、例外的に多い)
 ここを夜間ヘッドライトのみを頼りに走り抜ける等冒険に等しい。
 カーラジオから流れる陽気な音楽が不要な緊張から逃れる唯一の
方法だったが、キートンは会話できる範囲で運転手と話そうと努め
ていた。だのに、カリブの大空は、地上の半死の様子など素知らぬ如く
ひたすら群青色で塗られていた。

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「そういや、初めてエクアドルに行った帰路も遠回りだったなあ」
 樹木の白んだ幹を晒す半死の世界の中、唯一のガススタンドに給油で
立ち寄った中、二口飲んだコーラを下げ、独白した。

◆◆◆◆◆◆◆

「ABCで探した時は今日の日付でキト発ボゴタ行きのフライトは
無かったんですよ」
 空港に向かうタクシー中でキートンは同行した工事関係者2名に
懸念事項を話していた。
「でもこのチケットにはちゃんと"Desde Quit, Asta la Bogota"
(キト発ボゴタ着)って書いてあるよ」

「そうなんですよ、だから、あれえ、と思うんです」
「まあ、乗れば分かるんじゃないかな」

 キト国際空港、チェックインカウンター前。
 フライトスケジュールを凝視する3人。
 正面上のミートボールには本日のフライトが3便だけ表示されている。
(成田等にある、出発案内のボードのこと)

 時刻は午前7時を少しばかり過ぎたあたり。
「チケットに記載されているフライトNo.ですけど、
 これ、(ペルーの)リマ行きですよ」
「ない、ない、無いぞ」
 ほらみたことじゃない、と呆れた調子でごちるキートン。
 仕方ないと諦め半分の同行者の2名。
 チェックインカウンターに問い合わせてみると、リマから次にボゴタに
向かうとのこと。
「乗らないと帰れないからさ、とにかく、乗ろう」
 年長の同行者に促され、手続を開始するキートン達。
 キートンが調べていたというABCとは全世界の民間定期航空の全ての
フライトスケジュールを網羅した、いわば空の時刻表一覧。
 各国別の空港毎にフリート名,便名,出発/到着時刻、クラスが記載され
ているものである。この2冊組(国別なので)があれば旅行代理店もしくは
各フリートの代理店で地球の裏側の片田舎の空港へも予約する事とチケット
の購入が可能になる。但し、実際の運・不運は現地に行くまでは分からず、
着いてみたら、もうその便は無くなっていたという事も珍しくはない…。

「いつ帰れるんだ〜!?」
「乗っている限り、ボゴタには行きますよ」
「そうだね」
 半分座席が埋まった機内に横3列で居並ぶ。
 なるようになれと思うキートン達を乗せて、機は飛び立った。
 コロンビアとは反対のペルーに向けて。

to be continued !!


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