第9章:天国への階段

(Aパート開始)
 乱部隊の関係者を知り、憤慨するミサト。
「二人にあんな酷い事して引き裂いて、今度はささやかな幸せすら奪って
 利用しようとするの!?
 許さない、世界中が許したって私は許さない」
 思い出すだけでも怒りで拳に力が入り、爪が皮膚を裂き血が流れ出す。
 急襲した施設内で見たもの。

 西暦2033年10月初旬

 空ろな眼差しだけで力もなく、ただ後ろから弱々しく倒れているレイを抱き、
座り込んでいるシンジ。
奪われまいとする痕跡すら痛ましく、血液すら流れてないのではないかと思わせる
ほどに痩せていた。計測機器と投薬装置が二人から無数に這い回っている。
 レイの瞳の焦点は合っていない。
 だが、記録はこの光景がまるで平易な出来事でもあるような事を残していた。
 解剖されなかっただけでも望外でもあるかのように。
 保護を終えた後に爆破と放火が何者かに行なわれ、事実を隠蔽しようとしていた。
 二人を奪回する中、檄昂したミサトは無抵抗の人間を只の肉片へと変えていた。
「姐さん、もうこいつら死んでいます」
「これ以上やったって無駄ですよ」
 ハンソン、サムソン二人がかりでも猛り立つミサトを抑え付けるのが困難だ。
「こいつらは屠殺されるだけのことをしたのよ。
 どうせ闇から闇に葬られるのよ。
 せめて罪の報いを犯した場所で償わせるのが情けってもんよ」
   :
「生きていやがったのか、こいつら、
 誰が許すもんか、誰が赦すもんか」
 怒気を全身で発しながらも、激発を押さえる。
「特大の花火、用意しましょうね」
 耳元で囁くノリコ参謀。
 ミサトの胸の内を察しながらも眉一つ動かす言い切る。
 相次ぐMEATIAの組織縮小と施設の閉鎖。
 綾波レイと碇シンジに対する刑事訴追、民事訴訟。
 賠償要求、行動制限、裁判所を通さない尋問と拘留。
 数々の保証の打切り、恣意の報道。
 国際裁判として、戦争犯罪として控訴される二人。
 翌年2月に下された、碇シンジの国籍剥奪と国外追放(日本への入国の禁止)。
 綾波レイの永久保護観察処分及び国外への渡航禁止。
 同年5月、就任したばかりの合衆国大統領の国連総会演説後、同会での両名への
処分が苛烈過ぎると異例の減刑案が採択されるに至り、5年間の無国籍処分と終生
国連活動に奉仕する義務で撤回された。
(綾波レイは工学博士取得後、国連勤務へ。
 碇シンジは国連開発計画に従事後、帰国し国連勤務へ)
 シンジの国外追放の不当性を訴え、処分取り消しに尽力したノリコ達も、ようやく
仇敵を追い詰められる気概なのだろう。
 だが、
 影ながら協力してくれた大統領はもうこの世にいない。

 地球各国の状況は戒厳令のままだった。
 いや、人々はただ祈るしかなかった。
 降臨戦争以上の事が起きているのだ。
 たとえ報道官制されていても天空が幻灯に映し出されていく中、祈るしかない。
 そして、
 階段を昇ったその先には、スベテヲ懸けて闘うEVAが有る事を知ることに為る。
 子供達には怯えは無かった。
 止まらない未来と、
 広がる願いがソラを駆けて行くことを感じていたからだろうか。
 かつて月光に照らされた少女と青空を手に掴んだ少年が世界を救わんとしていたことを
そして、今も居ることを知っているからなのだろうか。
(Aパート終了、アイキャッチ)

(Bパート開始)

西暦2039年3月28日

 月面基地内に警報が響き渡る。
「リングが分離を始めました」
「何ですって」
 次々と結合部がパージされていく。
「これじゃあ未だ設置されている工事用施設が地球に落ちていくわ」
「シンジ君、レイ、緊急発進よ」
 また一時潜伏していたEVAシリーズも再度リング周辺に遊弋しているのが観測された。
「まったく、出て行けば逃げ、引き上げれば出てくる、きりがないわね」
 ノリコ参謀が一歩乗り出し、
「二人とも、この機会を利用して残存するEVAシリーズ全機殲滅、いいわね」
「努力します」
「零号機、了解」

「この間に、予測される宇宙樹の出現の対策を検討しましょう」
「ゼロ・フィールドへのエネルギー基幹供給源、発見、急いで」
「初号機か零号機を廻しましょう」
「関門を開けられたダムは閉めるに限るわ」
「一気にぶち壊して洗い流す方法もあるけれどね」
「二人の状況は」

 火星のオービタルシャフト、リング共に分離し、地球方面へ移動を開始しだした。
 これほどの質量の運動を停止させるには星の自転や重力、潮汐力を利用しなければ
ならない。地球のものより小さいのだが、スペースコロニーより遥かに巨大である。

 シャフトの上昇は続いていた。
 リングとの接合点より1000Kmほど牽き抜かれていた。
 月面のシャフト、リングとも自動的に分離してしまい、奪還部隊は撤退を始めていた。
 揚陸艇に乗り込みながら、見送るしかない状態に唇を噛むグランディス。
 埋没していた宇宙船も機関に火が入り、今にも発進しそうな具合だった。
 プラズマが周囲の列島を揺るがし、低気圧を発生させていく。
 局地的気象異常が誘発され、海水のイオン化が進んでいく。

 ホーミングフェザーを拠り合わせながらスピアとしてEVAシリーズを次々と打ち抜いて
いく初号機。槍を揮い、LCRへと還元していく零号機。
「レイ!」
「はいっ」
 地上からはその様子が捲る捲る流星雨のように見えているのだろうか。

 窓から夜空を見上げれば両半球とも南北回帰線近くまでオーロラが出現していた。

「N2魚雷もさすがにATフィールドが中和されていないと決定打にはならんな」
 撤収していく叛乱部隊の掃討と立ち憚るEVAシリーズに手間取らされている。
「提督、3時方向、4体の量産機が月南半球方面へ後退していきます」
「残弾数は?」
「あと6発です」
「ようし、第2戦速で一撃、HIT&WAYで行くぞ」

 ユイの傍らに立ち、戦況を眺めている冬月教授。
 阻止案を採決し、行動計画を練っていくユイを見やり、
「皮肉だな。
 EVAシリーズを殲滅する行為そのものが天国への階段を構築する介助となりゆく。
 だが、手は拱いている訳にもいかない。
 たとえどんな結末であろうと、人として生きていく道を選ぶ、か」

つづく


BACK
NEXT