第10章:星への掛け橋

「ご免、解って。
 これだけの宙域を零号機ではカバーできないの」
 相当数のEVAシリーズを殲滅したとはいえ、地球圏の周囲、オービタルリングを
奪取しようとするEVAシリーズは未だ相当数残存する。
 初号機でならばホーミングフェザーで追撃できるが、零号機で遠隔攻撃は無理。
 オービタルシャフトからのミサイル攻撃を光の翼で防ぎながら体制を立て直す。
「レイ」
「シンジ君」
「月面基地で、母さんに挨拶していくかい?」
「……」
「後から行く。
 ランチの準備をしておいてくれないか」
 瞼を閉じ、軽くうつむく。
 左手を右手で包み、一瞬泣きそうな顔をするが作り笑いをして目を開ける。
「行ってくるわ」
 シンジはこの時、レイの左手に何があるかに気付かなかった。
「モニター消して」
 ミサトがオペレータに指示をするが、オペレータは意味がわからない。
「いいシーンは二人っきりにさせてあげなさい」
 横からノリコ参謀が釘をさす。

西暦2039年3月29日
 午後8時20分過ぎ。
 月面マスドライバー射出部に着座する零号機。
 ジャンとハンソン、サムソン、強襲部隊が乗るポッドを両手で胸元に抱えている。
「ハンソン、サムソン。
 レイを守ってね。任務、必ず成功させるのよ」
「姐さん、云いっこ無しですよ」
「俺達を信頼してくださいな」
「任せときな。後方で支援するだけでいいぐらいに落すよ」
 実際、EVAは史上最強でありEVAの中に居る限り最も安全なのだ。
 だが、火星赤道基地と衛星機動上のフォヴォスからの動力供給のみを停止
させるには白兵戦闘が予想される。
 どちらにも一個大隊規模の叛乱部隊が占拠している筈だ。
 投降に応じない場合には強制排除する必要がある。
 破壊工作手順の打ち合わせに入るジャン達。
 基地を占拠する叛乱部隊の排除はグランディス率いる装甲擲弾兵団が行う。
 後方支援としてレイを残し、基地内の活動は3人が行う予定なのだ。
 シャワーを終え着替えようとするが右手を下腹部に当てて何かを囁く。
 扉を開けたミサトはレイの不可解な行動に怪訝な表情を浮かべる。
「ミサトさん!?」
 慌てて着替え出すと、左手で何かが光る。
「何?レイ、それ」
 急いで確認し、驚きの余り言葉が中々出てこない。
「あんた、まさか」
 返事をせず、プラグスーツの電源を入れる。
 肢体を光が包み、身体のラインにフィットしていく。
「時間よ」
 堅い意志を横顔に見せながら言い放つレイ。
 レイが名前でミサトを初めて呼んだことにミサトは気付かなかった。
(Bパート開始)
 月から一條の光が火星へと伸びていく。
「レイ…」
「シンジ君、現時点で確認できたデータを転送するわ。
 叛乱部隊からの通告によると、あと5分程でパージ、地表へ突入させると
あったわ。全て破壊、大気圏突入時に燃え尽きるぐらいまで粉々にして」
「はい」
 次々とシャフトとリングの工事用艀の位置データがイメージとして転送さ
れてくる。
 阻止部隊の突入により叛乱部隊の掌握個所が次々と突破されていくため、
撤退要求として艀をパージ、地表へと落下させるという恫喝である。
「あと3分」
「…」
 目を閉じたまま静止機動全周囲のイメージを細かく細かく浮かべていく。
「そこ!」
 目を見開くと同じに初号機の12枚の翼が数十キロの幅に展開し、数万の
軌跡を描きながらホーミングフェザーが静止衛星軌道を包み込んでいく。
 シャフトとリングの外壁ギリギリを掠めて、パージされた艀をあっという
間に打ち砕き、粉砕し、粉々にし、塵へと変えていく。
「そ、そんな!?」
 想像を遥かに超えた阻止方法に言質を失う叛乱将校。
 対抗する数千のミサイルも激流に注いだミルクのように消え去っていく。
「時間を掛ける訳にはいかないんだ」
 過度のイメージフィードバックに自律神経が悲鳴を上げだすが全てを消滅
させるにはほんの数秒で済む。

「あと2時間で火星圏内に突入し、赤道基地と周回軌道基地を奪取する。
 野郎共、抜かるんじゃねえぞ」
「時計を合わせましょう」
「ジャン、軌道基地では頼んだよ」
「はい、グランディスさん」
「あっしらはヴァルンハート小隊に同行します」
 ハンソン、サムソンも戦闘用宇宙服の最終点検が終わった合図をする。
 エアロックへと入り、零号機に向かおうとするレイに背中から呼びかける。
「レイちゃん、基地を陥落させたら残務処理で結婚式には行けそうにもないの。
 だから、シンジ君と幸せになってね」
「ありがとう、グランディスさん」
 手を振り見送る小隊の各員達。

 火星のオービタルシャフトとリングは既に分離していた。
 地球方向へと移動していくが停止させるだけの推力を持つものは無い。
「動き出したら止まらんちゅう訳やな。
 ふん、これで最後や」
 シャフトに同行している叛乱部隊の守備兵力、最後のガンバスターを撃破。
 残敵の掃討を開始するトウジとEVA参号機。
「ん?震動波? なんや? シャフトとリング内に高エネルギー反応やて?
 どっから供給されとるんや!?」

つづく


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