第11章:星界への紋章
 

(Aパート開始)
 弾道弾迎撃用の弾幕が吹き付けるように地表からせり上がってくる。
 ATフィールドを展開し、降下する強襲揚陸ポッドを保護する。
「どうやら大人しく投降してくれそうにないな」
「こりゃあ、骨が折れるね」
 弾幕の破片を回避しながら、激しく揺れるポッド。
 照準を基地後方3箇所にロックし、46p七〇口径EVA用ライフルを斉射。
 ATP−P弾が地表を深く食い込み、爆発する。
「無用な流血は望みません、速やかな武装解除をして下さい」
 レイの威嚇攻撃が開始された。
「地上戦でEVAに対抗できる現用兵器なんて無いのに、返事をしないのは
 持久戦に持ち込むつもりかねえ」
「さあな、ガンバスターの1つや2つぐらいは用意しとるやろう。
 そりゃあ、着陸やあ、サムソン、しっかり掴まっとけ」
 豪快な土煙を上げながら赤道基地正面へ強硬着陸していく。
「そいやあ、行くでえ」
 正面エアロックを突き破り橋頭堡を確保する。
 数瞬の沈黙の後、夕立のように銃撃が降り注ぐ。
「外も始まったようや」
 ライフルの轟音が連続し、基地を揺るがしていく。
 ガンバスターが応戦してくるが、所詮は戦車に手足が生えたようなもの。
あっさりと零号機に擱座されていくが、きちんと操縦席を外している。
 プラグ内のモニターに基地内の突破状況と軌道衛星の状況が映し出されている。
 順調なようだ。
 叛乱部隊は頑強な抵抗を示しているが、一歩進むと二歩後退するようにその
意志とは関わらず奥へ、奥へと下がっていく。
 そして、2時間が経過した。
「のこり2フロア占拠したら、ハンソンさん達は隣の電源室を確保して下さい」
「OK、隊長さん」
「おらおらおらー」
「無茶な撃ち方するなあ」
 弾幕の中を突っ切り電源室の方へ飛び出していく。
「ヴァルンハートよりグランディス大隊長へ。
 赤道基地の80%制圧に成功。地上からのエルギー供給停止出来そうです」
「こちらはガンバスターがいない分だけ外郭部進入ネは早かったけれど、機関部の
停止には時間が掛かりそうだ。今、ジャン達を集約ミラーと伝達部の機能停止に
振り分けた。ここからは下界が良く見えるよ。赤い土ばっかりだけどね、え?
何、これ?」
 赤道基地を中心として何かの紋章が地表にみるみる描かれていく。
「ちょっと、下はどうなってんだい」
 地表の変化に気付き警戒体制を強化するレイ。
 上?!
 カッと目を見開き真上を見上げる。
 バンッ、と衝撃波が広がると同じに黒点が上空に形成され、空を侵食していく。
 月面基地内。
「火星対流圏内に特異点を観測。
 磁界強度が急激に高まっていきます、それと同じに、に、空間の位相反転現象が
計測されています。そんな、まさか??」
「この固有波形パターン、EVAじゃない?!」(ミサト)
(Aパート終了、アイキャッチ)

(Bパート開始)
西暦2039年3月30日

 午後1時過ぎ。

 まるで暗黒から背徳の衣を纏うかのように、形成された空間から舞い降りてくる
漆黒の機体。紅いパーティングラインが入れられ、異様に広い肩幅、ゴートを思わ
せる二本の大きな角を持つEVA-13号機。
 それは、虚数空間の彼方へと消えた渚カヲルの機体である。
 取り巻くように4体のEVAシリーズも降下してくる。
 閃光一閃、まず1体のEVAシリーズを屠る。
 残りの3体が落下速度を速め、零号機を捕縛しようと一斉に襲い掛かる。
 ライフルのゼロ距離射撃で右側の一体を両断し、返す勢いで後背位の一体も屠る。
続けざまに最期の一体の頭部を銃底で砕き、胸元へ二連射する。
「哀しい運命に生まれた者達を未だ守ろうとするのかい」
 傲慢なまでの姿勢で零号機を見下ろす13号機。
 片手を振り下ろし、無数の光の槍が零号機めがけて襲い掛かる。
 幾重にも展開したATフィールドだが、減衰しきれずに細く鋭い針のようになり
次々と機体表面を穿っていく。4枚の翼からホーミングフェザーを撃出していくが
13号機を打ち負かすには力が違いすぎ、直前で防がれてしまう。
 吹き降ろす大気のように13号機のATフィールドの鉄槌が大地を揺るがす。
 撥で叩かれる太鼓のように全身を振るわせる。
 吐き気を催し、口元を押さえる。プラグ内は血の色に包まれ、悲鳴にも赤ん坊の
泣き声にも似た声が響き渡る。
「もう駄目なの?!」
 挙動が止まった隙をみて降下し、零号機に猛烈な打撃と蹴りを叩き込む。
 為す術も無く翻弄され転がされていく。
 咄嗟のシンクロカットで身体へのフィードバックは防げた。
「消えちゃええ」
 カヲルの口元から幼い声が漏れる。
 背中に背負ったル・ゴディエ・ジュノーを掲げ、天空の雷撃とも許容できる位
烈震と轟音のプラズマを地表へと振り下ろす。
「何でこんな事、知っているの」
 リミッターを解除しシンクロ率を最大限にするレイ。
 決意に満ちた表情だ。
 立ち上がる巨大な爆炎。
「ぜ、零号機は」
「シンジ君、零号機があ、零号機ぐぁあ、レイがあっ!!」(ミサト)
 踵を返し、亜光速へ迫るほどに加速し、火星に向かう初号機。
 不敵に見下ろす13号機。
 立ち去ろうと6枚の黒い翼を広げた刹那、噴火する光の奔流に叩きあげられる。
「なんだ、ありゃあ」
「あれが、エヴァンゲリオンの本当の姿!?」
 驚愕するサムソン、ハンソン。
 零号機は装甲板(拘束具)を全て破壊され(吹き飛ばし?)た状態で右手を
掲げたまま仁王立ちしている。まるで白く輝く巨大な人間のような姿。
 無骨なEVAの体躯ではない。
 美しく彫刻された女神の如く凛々しくそそり立っている。髪さえある。
 背中と脹脛から翼が展張していく、12枚の翼となっていく。
 飛び上がり、逆に13号機を追い詰めていく元零号機。
 12枚の翼が自在に伸びて13号機を貫いていく。
 翼も角も折れ、砕け、腕を失っていく。
 両機体とも上昇を続け、周回軌道へと達していく。
「レイちゃん、何をする気なの」
 腕に付けたモニターでいぶかしむグランディス。
「駄目です、このままでは。
 S2機関が解放されています。ゼロ・フィールドとの共鳴作用で暴走して
しまいます。機体が、機体が持ちません」
 泣き叫ぶオペレータ。
「レイ、逃げて」(ミサト)
「あなた、誰?」
 優しく問いかけるレイ。
 元零号機は13号機を胸元に抱き締めるまでに巨大化している。
 暗転する視界。
 途切れる時間。
 火星を白い闇が包んでいく。
 まっしろになる月面基地モニター。
「!?」
 宙を舞うレイのイメージがシンジの脳裏を掠める。

つづく


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