柳生武芸帳シリーズ


立回りの巧いチャンバラスターとして、チャンバラファンの間で必ず名前があがるのが近衛十四郎です。私が近衛十四郎のチャンバラを素晴らしいと思ったのは、テレビの『柳生武芸帳』(1965年放送)からで、映画の方はリアルタイムでは殆ど観ていないんですよ。私が利用していた三番館では近衛十四郎の作品がかからなかったんです。

永田哲朗氏が『殺陣 チャンバラ映画史』(教養文庫)の中で近衛十四郎の立回りについて詳しく説明されていますが、私がテレビの『柳生武芸帳』を観て、最初に気がついたのが、氏も指摘していた刀の長さでした。

「ふつう侍の刀は、腕を真直ぐに下げて、その先端が地面につかない長さのものを選んでいる。大体75〜80センチになるが、85センチもの長い刀を注文して好んで使っているのが近衛で、ふつうの人では使いきれないような長さだが、近衛はその方が使いやすいのだという」(『殺陣 チャンバラ映画史』より転載)

見映えのする長い刀での近衛十四郎の立回りは、当時のTVチャンバラの中では一際目立っていましたよ。

近衛十四郎は、松竹時代にも柳生十兵衛を演じていますが、1961年〜64年にかけて東映で制作した“柳生武芸帳シリーズ”全9作が、最も脂ののりきった頃の作品で、いずれも見応えのある内容となっています。特に9作目の『十兵衛暗殺剣』は、その立回りにおいてチャンバラ映画屈指の傑作といえます。

(『十兵衛暗殺剣』についてはココへ⇒

“柳生武芸帳シリーズ”と便宜上呼んでいますが、3作目の『柳生一番勝負・無頼の谷』と、9作目の『十兵衛暗殺剣』は、柳生家の秘密が記された武芸帳を巡っての物語となっておらず、全くのオリジナル作品です。

また、6作目の『片目水月の剣』と8作目の『片目の忍者』は、武芸帳は出てきても、五味康祐の原作に登場するお馴染みのキャラクター(山田浮月斎、霞の多三郎、霞の千四郎等)が登場せず、限りなくオリジナルに近い内容となっています。

 

『柳生武芸帳』(1961年・第二東映/監督:井沢雅彦)

徳川幕府が行った外様大名取り潰しの秘密がわかるという柳生武芸帳二巻のうち“浮舟の巻”を所持していた竜造寺家の夕姫(伊吹友木子)が、疋田陰流の山田浮月斎(原健策)一味に襲われる。夕姫は巻物の秘密を条件にお家再興を考えていたのだ。浮月斎の背後には、柳生一門の失脚を狙う土井大炊守(阿部九州男)がいた。二巻の巻物を巡って、柳生十兵衛は浮月斎と対決する……

この作品では、まだ近衛十四郎の刀は普通サイズですね。それでも立回りは群を抜いています。ラストで、柳生一門と浮月斎一味が戦う集団チャンバラがあるのですが見事なものですよ。里見浩太郎の立ち回りが貧弱にみえました。

 

柳生武芸帳・夜ざくら秘剣』(1961年・第二東映/監督:井沢雅彦)

土井大炊守は柳生十兵衛を宿敵とする霞の多三郎(品川隆二)を使って“柳生武芸帳・浮舟の巻”を盗み取ることに成功する。柳生但馬守は、将軍・家光(山城新伍)から5日以内に柳生武芸帳二巻を差し出すように命じられ、十兵衛が捜索を開始するが……

前作『柳生武芸帳』と同じキャスティングよる続編。違うのは、前作では夕姫の家臣だった山城新伍が将軍・家光になっていたこと。

ラストの大立ち回りで、近衛十四郎の逆手二刀流をタップリ見ることができて満足です。あんな立ち回りができるのは近衛十四郎しかいませんね。残念だったのが、十兵衛のライバルというべき剣士・弓削三太夫役の俳優(阿波地大輔)があまりにも格下だったこと。悪党面で悪役として期待されて抜擢されたのだろうが、演技がヒドすぎました。

それはそうと、第2作までは何故か十兵衛は片目じゃないんだよなァ。

 

柳生一番勝負・無頼の谷』(1961年・東映/監督:松村昌治)

十兵衛は旅の途中で、弟子の秋月隼人正を訪ねる。秋月一族は狼谷に住む大田黒一族と抗争中だった。隼人正の弟・又七郎(里見浩太郎)は平和的解決を望んでいたが、大田黒の背後には郷士の所領を直轄にしようとする藩の陰謀があった……

原作から離れたオリジナル作品。タイトルバックに流れる音楽はウエスタン調で、馬をふんだんに使った立回りは西部劇を意識している感じですね。この作品でも、ラストの立回りで近衛十四郎の逆手二刀流が堪能できます。

この作品から十兵衛は片目で登場しますが、革のアイパッチで刀の鍔ではありません。刀の鍔のアイパッチでなくとも、十兵衛はやっぱり片目の方がピンときますね。

日劇ダンシング時代の春川ますみがヴォリュームたっぷりの踊りを見せてくれて満足、満足。

 

柳生武芸帳・独眼一刀流』(1962年・東映/監督:松村昌治)

松平伊豆守(安井昌治)と柳生一門の失脚を図る酒井雅楽守(佐藤慶)は、柳生に代って将軍家剣法指南役の座を狙う山田浮月斎(山形勲)を使って、柳生武芸帳二巻を手に入れようとする。“水月の巻”は江戸の柳生家に、“浮舟の巻”は京の五条中納言家にあったが、危険を察知した五条家の清姫(宮薗純子)は巻物を持って江戸へ向かう。途中で浮月斎一味に襲われるが、霞の千四郎(松方弘樹)に救われる。千四郎も十兵衛に挑戦するために江戸に向かうところだったが……
 第1作〜2作と物語の基本構造は同じ。ストーリーを楽しむより、俳優とチャンバラを楽しむ作品です。

それにしても、松方弘樹がカッコつけすぎです。鼻につきま〜す。

 

柳生武芸帳・片目の十兵衛』(1963年・東映/監督:内出好吉)

徳川家に対する謀反の連判状である柳生武芸帳が盗まれ、将軍に差し出される。十兵衛は柳生家が謀反人でないことを証明するため、武芸帳に記載されている血判だけで署名のない大物大名を捜し求める。旅を続ける十兵衛の前に、謎の武芸者や山田浮月斎が現われて……

前作に続いて松方弘樹が霞の千四郎役で出演していますが、カッコつけすぎ。鼻につきま〜す。

十兵衛と夢想権之助の決闘シーンはチャンバラの魅力に溢れており、見応えがあります。

 

 

 

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