ビリー・ザ・キッド映画


『ならず者』(1943年/監督:ハワード・ヒューズ)

盗まれた馬を探しにドク・ホリデイ(ウォルター・ヒューストン)がニューメキシコ州リンカンの町にやって来る。馬はビリー・ザ・キッド(ジャック・ビューテル)が手に入れており、ドクの古い友人である町の保安官パット・ギャレット(トーマス・ミッチェル)と取り返しにゆく。ビリーと会ったドクは、ビリーを気に入るが、パットはビリーに対して敵対心を持つ。パットがビリーを不意射ちした時、ドクはパットと訣別して傷ついたビリーを自分の愛人・リオ(ジェーン・ラッセル)のもとに連れていく。リオはビリーに兄を殺されて憎んでいたが、看病しているうちに愛が芽生え始め……

パットとドクが友人で、ビリーと仲良くなったドクに嫉妬してドクを殺してしまうというトンデモ映画です。ジャック・ビューテルのビリーは若々しくていいのですが、ウォルター・ヒューストンとトーマス・ミッチェルという名優に挟まれて下手くそ演技が目立って損をしていますね。

この作品はビリーの恋人役で出演したジェーン・ラッセルを売出すための映画で、ビリーなんか如何でもいいのですが。「私が話を作って、脚本にも加わった。3〜4週間撮影したところで、ハワード・ヒューズと話していると、彼が監督したいというので、その後をまかせたのさ」とハワード・ホークスは語っていますが、ヒューズがジェーン・ラッセルのセックス・アピールを強調したいがために強引に監督交代したみたいですね。

私はフィルムセンターで開催されたホークス映画祭で完全版を観たのですが、ラッセルの谷間の見える胸開きドレスは当時としてはエロっぽいものだったでしょうね。DVD(戦後公開バージョン)にはそのシーンがなく、大画面で見た時のドッキリ感が味わえませんでした。

 

『左ききの拳銃』(1958年/監督:アーサー・ペン)

ニューメキシコの荒野で馬を失い、熱気と疲労にやられたビリー・ザ・キッドことウィリアム・ボニイ(ポール・ニューマン)は、牛商人のタンストールに助けられる。ビリーはタンストールの人柄の心を和ませるが、タンストールは4人の男に殺される。4人の男は、保安官と結託した家畜商のモートン一味だった。リンカンの町に乗り込んだビリーは、保安官とモートンを殺すが町民に追われ、タンストールの友人だったマクスウィーンの家に逃げ込む。しかし、激しい銃撃戦の果てに家は焼かれ、重傷を負ったビリーはマデロの町で旧知のサバルとセルサ(リタ・ミラン)に匿われる。友人のパット・ギャレット(ジョン・デナー)もビリーに同情的だったが……

アーサー・ペンが史実をもとに、ビリー・ザ・キッドの生涯を描いた作品。残っている写真から、ビリーを左ききにしたことでも、そのこだわりがわかります。ただ、あの写真については裏焼きしたものという説が現在では主流になっていますけどね。

“ビリー・ザ・キッド映画”は、この作品以前にも数多く作られていますが、その殆ど(ボブ・スティールやバスター・クラブが主演したシリーズ物)が、ビリーが悪人に狙われている未亡人の牧場を救うといったようなダイムノベルをもとにした荒唐無稽なB級西部劇でした。実伝に近いとされる『テキサスから来た男』にしてもオーディ・マーフィのビリーが評判よいだけで、資料を見るかぎりでは史実とはかなり違う感じです。

それに比べると、リンカン郡の戦争が描けなかった欠点はあるものの、当時としては最も史実に近い作品といえるでしょうね。ドラマ部分も、恩人を殺されたビリーの心情や、ビリーとパットの友情と破綻が巧く描かれています。ただ、ポール・ニューマンのビリーの演技は創りすぎている感じで今イチです。

 

『ビリー・ザ・キッド』(1989年/監督:ウィリアム・A・グレアム)

不当な差し押さえを抗議するためにリンカンの町に向かったタンストールは途中でブレディ保安官と助手に殺される。タンストール牧場のビリー(ヴァル・キルマー)は二人に復讐するが殺人犯としてお尋ね者になる。ウォレス知事の約束により、ビリーは自首して裁判を受けるが死刑を宣告され、脱走して家畜泥棒となる。友人のパット・ギャレット(ダンカン・リーガー)が保安官になりビリーを逮捕するが看守を殺して脱獄する。そして、恋人セルサ(ジュリー・カーメン)がいるフォート・サムナーへ……

この作品も『左ききの拳銃』の同様にリンカン郡の戦いは省略されていて、似たような展開になっています。だけど、ドラマ部分は厚みがなく、ダラダラ展開するのは監督の力量の差でしょうね。

ゴア・ヴィダルの脚本は、タイム・ライフブックスの「THE GUNFIGHTERS」に掲載されている史実を基にしていますね。ビリーの最期は、そっくりそのまんまです。

主演のヴァル・キルマーは、前歯が少し出ている口もとがビリーの実像に似ているかも。

 

『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/監督:サム・ペキンパー)

ビリー(クリス・クリストファーソン)がファート・サムナーで仲間たちと騒いでいるところへ、昔なじみのパット(ジェームズ・コバーン)がやって来る。シェリフになったので、5日以内に立ち去ることを警告するが、ビリーはそれを拒否する。5日後、パットは追跡隊を率いてビリーを逮捕する。しかし、ビリーは看守を殺して脱獄し、ファート・サムナーに舞い戻る。一度はメキシコへ逃げることも考えたが、友人のメキシコ人(エミリオ・フェルナンデス)がチザム牧場のカウボーイに殺されたことから、今まで通りに家畜泥棒をするためにフォート・サムナーへ帰ってくるが……

リンカン郡の戦いが終り、家畜泥棒をしているビリーと、それを捕えようとするパットの戦いを描いた作品です。原題は、『パット・ギャレットとビリー・ザ・キッド』ですが、劇場公開されたものはビリーに比重をおいて編集されていました。だけど、ペキンパーの意図はパットの方にあったようです。そのため、ポイントが決まらずペキンパーの作品にしては凡作に終わっています。

ところが、ペキンパー自身が編集し直した特別版を観ると、力の正義が失われていく西部の黄昏が見事に描かれています。劇場で観た時は、ビリーの生涯を2時間程度で描くのは困難なので、パットとビリーの戦いに絞ったものと思ったのですが、特別版はパットの死のシ−ンから始まり、パットの死のシ−ンで終わるパット・ギャレットの映画なんです。パットが射殺されるオープニング・シーンの素晴しいこと。それだけで、完全に別の映画といっても過言ではありませ〜ん。

 

 

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