赤穂義士銘々伝


赤垣源蔵 討入前夜』(1938年・日活/監督:池田富保)

赤穂の浪人・赤垣源蔵(阪東妻三郎)は兄の塩山伊左衛門(香川良介)の家に居候をしていたが、1日中酒を呑んでゴロゴロ寝ている有様。義姉(中野かほる)をはじめとして、奉公人からも疎ましく思われていた。隣家の千鶴江(花柳小菊)は、源蔵に恋心を抱いていたが、彼はそしらぬふり。やがて、源蔵は家を出て長屋住まいするが、生活は昔のままだった。12月14日、雪の降る中を源蔵は久しぶりに兄の家を訪ねるが、兄は不在だった。義姉は持病の癪で寝ているとのこと。源蔵は兄の羽織を借りて、羽織を相手に酒を呑み始める……

講談で有名な“赤垣源蔵、徳利の別れ”です。戦前までは赤垣(あかがき)として流布していましたが、正しくは赤埴(あかばね)なんですね。埴の崩し字を読み違えたようです。

実説では、源蔵に兄はいません。ただ、妹がいるんですね。討入り前日に妹の嫁ぎ先、田村家を訪れ別れの挨拶をしているんですよ。講談と違って源蔵は酒を呑まない堅物でしたが、この時は珍しくニ、三杯飲んで帰ったそうです。

講談ネタだけでは話がもたないので、恋物語を絡めていますが、中途半端で成功しているとはいえません。説教くさいセリフも多く、現代感覚では少しついていけないかも。

吉良の付け人に追われる神崎与五郎と前原伊助を助けるシーンと、ラストの討入りで、バンツマはチャンバラを見せてくれますが、立回り時間が短く、物足らなかったですねェ。

 

『韋駄天数右衛門』(1933年・宝塚キネマ/監督:後藤岱山)

羅門光三郎

赤穂藩士・不破数右衛門(羅門光三郎)は、豪勇であったが粗忽なところが玉に瑕。敵討ちの助太刀をしたのはよいが、誤って次席家老・大野九郎兵衛の息子を傷つけてしまう。本来なら切腹のところを、藩主・浅野内匠頭の厚情によって追放だけで罪を許される。浪人となった数右衛門は妻(原駒子)と寺子屋をしていたが、内匠頭が刃傷の上、切腹と聞き……

内容は講談ネタで如何ってことはありませんが、サイレントのチャバラの面白さを羅門光三郎が見せてくれます。立回りがワンパターンでなく、動きがリズミカルなんですよ。チャンバラだけを楽しむ作品です。

実 説でも数右衛門は武辺者特有の一徹な所があり、要領よく立ち回る処世術に欠けたところがあったようです。討入りにおいては、最も目覚しい働きをしたことが義士側の記録に残っています。

ところで、羅門光三郎と原駒子は、実生活でも夫婦だったんですね。

 

『元禄水滸伝』(1952年・東宝/監督:犬塚稔)

“忠臣蔵”映画なのですが、「何だコレは!」と思わず口に出したくなる作品です。

主人公は、寺坂吉右衛門(月形龍之介)、毛利小平太(坂東好太郎)、小山田庄左衛門(徳大寺伸)の三人で、寺坂は、足軽という軽輩の身分のため討入り参加が中々認めてもらえない。討入りには参加するものの、大石内蔵助(三津田健)から命の大事さを諭され、途中から逃げ出したものとして報告の使者に立てられます。瑤泉院からも温かい言葉でねぎらわれ、生きることの有難さを感じるんですね。

毛利は討入りのことで同士と諍いをして相手を殺し、悔悟の念で酒を煽り、討入り当日に自決して果てます。

小山田は友人の毛利を捜していて討入りの刻限に遅れ、想いを寄せる女と生きていこうと決意します。

大石は、「武士としてのシガラミで仇討をするのであって、ほんとは仇討なんてしたくない」なんて言うし、瑤泉院も「殿さまの短慮が原因なので、仇討なんてどうでもいい」という始末。仇討より命が大事という、仇討否定の忠臣蔵なんですよ。戦後の社会的背景が影響しているんですかね。

 

『浪曲忠臣蔵・元禄あばれ笠(1943年・東宝/監督:石田民三)

“浅野内匠頭の勘気をこうむって浪人となった不破数右衛門(坂東好太郎)が、大石内蔵助(月形龍之介)に許しを受けて、義士の仲間に加わる話”、“苦労をかけている妹(山根寿子)のために吉良に士官しようとする俵星玄蕃(黒川弥太郎)が、内蔵助の男気に惚れて士官をやめる話”、“瑤泉院(花井蘭子)との南部坂の別れ”が、広沢虎造の浪曲の語りによって始り、話のつなぎつなぎに浪曲が流れる浪曲時代劇。

今では珍しい浪曲も戦前は大衆に人気があり、浪曲を入れることは娯楽映画作りにおいては演出スタイルとして確立していたようです。

ところで、クレジットで市川崑(助監督)と円谷英二(特撮担当)の名を見つけました。特撮シーンなんてなかったんだがなァ。

 

『赤穂義士』(1954年・大映/監督:荒井良平)

元禄14年3月14日、浅野内匠頭(黒川弥太郎)は、殿中松の廊下で吉良上野介(瀬川路三郎)へ刃傷におよび、切腹・御家断絶となる。浪人中の不破数右衛門(杉山昌三九)は、内匠頭の訃報を知るや、病症の妻(三条美紀)を連れ、大石内蔵助(進藤英太郎)を訪ね、仇討の仲間に加わる。岡野金右衛門(南条新太郎)は、大工の棟梁の娘・おつや(伏見和子)と恋仲になり、吉良邸の図面を手に入れる。討入り前夜、赤垣源蔵(坂東好太郎)は兄の屋敷を訪問するが、兄は不在で……

寿々木米若、梅中軒鶯童、藤月子、玉川勝太郎の4人の浪曲師が、忠臣蔵の4つのエピソードを語る浪曲時代劇。

進藤英太郎は東映では吉良上野介を演じていたので、少し違和感を持ちました。この映画では主役ではないのですが、大石はやはりスケールの大きい役者でないとね。

 

 

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