シルフィス恋物語
 
 広場
 
 
ティータイム
その10
 
「故郷を出るとき、都会は誘惑が多く、住んでいる人も良い人ばかりではないから、用心するように、と言われました。
私たちの外見は人目を引き、誤解も受けやすいから、つねに気を引き締めているようにと。
でも、実際に、こちらに住んでみると、都会暮らしは話に聞いていたほど魅力的ではなくて、誘惑を避けるのも、難しくありませんでした」

シルフィスは肩をすくめた。
「アンヘルはとても住みやすいところなんです。
ここでの学校生活は楽しいですし、友達もたくさんできて、
便利で快適な都会生活にもすっかり慣れましたが、
やはり故郷の方が、ありのままの自分でいられます。
ですから、最初の予定どおり、カリキュラムを終えたら村に戻って、2度とこちらに来ることはないだろう、と考えていました。
実際、アンヘルの民は、外の世界に行くのを好みません。
私が留学するのを決めたのも、長老の孫としての義務を感じていたからで……、
本当は村から出たくなかったんです」

「わかるよ」
セイリオスが相づちを打つと、シルフィスの瞳が意外そうに見開かれた。
「私は自活をしていたといっても、すぐに帰れる場所に家があった。
ところが、きみの場合は、家族が病気になっても見にいける距離ではない」
アンヘルの生活水準では、帰省のための旅費がとてつもなく高額であることを、セイリオスは知っていた。
「以前、きみは自ら選択して、ここに来たと言っていたが、
志があっても、家族と離れて暮らす決断をするのは、つらかっただろう」
「セイル」
当時のことを思い出したのか、シルフィスの目に涙がひかっていた。
「でも、思いきって、ここに来てよかったです」
シルフィスは泣きそうな顔をして、笑った。
「セイルに会えましたから」

 
 
 
 
  
 
ティータイム
その11
 
 
 
「シルフィス、きみに申し訳ないことを言ってしまった」
「え?」
シルフィスは不安そうに、眉を寄せた。
「私はこう言うべきだったんだ。絶対に後悔はさせない、とね」
「セイル」
喫茶店ではなく、二人きりの空間であれば、
セイリオスはシルフィスを抱きしめていたに違いなかった。
代わりに、彼はほほえみかけた。
「きみの勇気は尊敬に値する。
しかし、これからは、きみはひとりじゃない。
いつでも、私に頼ってくれていいんだよ。
私を信用してくれるね?」
「はい」
シルフィスは一生の誓いを立てるかのように、真面目に頷いた。
「ただ……ひとつだけ心配なことがあります」
「何かな? 私たちに解決できないことなど、何もないと思うが」
「ディアーナになんて話しましょう?」
「え?」
自信にあふれていたセイリオスの顔が、急に引きつった。
「学校で会いますし、私の部屋にもたびたび遊びに来てたんですから、
隠し通すなんて、無理ですよ」
「う……ああー、それは私にまかせてもらおう。
今夜、実家に戻って、直に話す」
「ええ。よろしくお願いしますね」
シルフィスはにっこりと笑った。
そして、晴れ晴れとした表情で、アイスクリームを幸せそうになめる。
セイリオスも、彼女に負けないくらい上機嫌だったが、妹への説明を控えて、
こめかみのあたりが、かすかにうずくのだった。
 
【小牧】
誰にも止められることなく、このまま同棲に突入しそう。
止められない小牧さんを許してください。
 
次は、セイシルとレオシルのダブルデートです。
かなりふざけた内容ですので、暇で暇で、時間を無駄に使ってもいい方だけ
ご覧くださいね。
 
 
 
 
 
 
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