| ティータイム |
![]() |
|
|
純喫茶KRE(ケーアールイー)は、クライン市でもっともホットなデートスポットの一つである。 その店の奥まった席に、2週間ぶりに甘いひとときを楽しむカップルがいた。 「時間がとれなくて、すまなかったね」 シルフィスと会ってからというもの、セイリオスは仕事熱心とはほど遠く、 残業すべきところを定時で帰ったり、休日出勤を無視したりして、 部下たちを困惑させていた。 いかに仕事ができても、定時にしか仕事をしないのでは、急成長注の会社社長はつとまらない。 さらに、シルフィスの夏休みに合わせて、長期休暇をとろうとしたところ、 ついに、彼のスケジュール帳は予定の詰まりすぎでパンクし、 第一秘書のアイシュにも泣きつかれ、仕方なく、 休暇の代償として、彼が組んだ過密スケジュールに応じたのだった。 アイシュはセイリオスも認める優秀な社員で、彼の作ったスケジュールにはまったく隙がなく、 さすがのセイリオスも、仕事を抜けることはできなかった。 しかも、シルフィスの下宿屋で、あやうく理性をなくしかけて以来、 人気のない場所にシルフィスを誘うのをやめ、セイリオスの部屋も使わないことにしている。 もちろん、毎日電話をしているが、実際に会って、シルフィスの顔を見て、 彼女に触れなければ、恋人になった意味がない。 とくに、セイリオスにとって。 「会えなくて、さみしかったかい」 シルフィスは頬を染めて、うなずいた。 「でも、こうして、時間を作っていただけただけでも嬉しいです」 久しぶりに見るシルフィスは、記憶にあるよりもさらに美しく、 毎夜、睡眠時間を削って仕事をし、こつこつと時間を貯めた甲斐があった、とセイリオスは思った。 そして、テーブルの上に置かれた彼女の白い手に、 おもむろに触れようとしたとき、注文の品が運ばれてきた。 【小牧】 時間的には7月始め、夏休み直前の話です。 夏休み……危険な匂いがしますね。 クラインの騎士団にも夏休みがあるのでしょうか? |
| ティータイム
その2 |
「お待たせしました。KRE特製ジャンボパフェです」
セイリオスたちのテーブルに、5人前はあろうかという特大のパフェが、どすんと置かれた。 運んできたのは、この店のオーナーの妻であり、シルフィスの幼なじみのクレベール夫人だ。 「お店のおごりです」 嬉しそうに目を輝かせてパフェに見入る親友に、クレベール夫人も自分の成果に満足しているようにだった。 当然のことながら、喫茶専門店であるKREのメニューには載っていない、シルフィスのために作られた特注品である。 あっけにとられているセイリオスとは正反対に、シルフィスは喜びの声をあげている。 洗面器ほどもある大きなフルーツボウルに、アイスクリームと生クリームが豪快に盛られ、その上を、パイナップル、りんご、アイスクリームコーン、プチシュークリーム、ポッキーで丁寧に飾り付けてある。ひときわ異色を放っているのは、小さな傘を逆さまにして立てたような形の線香花火だ。 「花火に火をつけますか?」 「うん」 シルフィスが頷くと、クレベール夫人は真っ白なエプロンからライターを取り出して、花火の先端に火を近づけた。 ほどなく、線香花火はぱちぱちという音をたてはじめた。 「すごーい。豪華」 シルフィスは緑の瞳をうっとりとさせて、パフェに見とれている。 しかし、セイリオスはシルフィスほど素直に喜ぶことはできなかった。 「きちんと代金を請求するよう、レオニスに言ってくれないか?」 眉をしかめて困惑していることを伝えると、クレベール夫人は申し訳なさそうに肩をすくめた。 「すみません。レオは不在です。 空中庭園のお店で販売している骨董品が品薄になって、仕入れに行っているんです」 クレベール夫人の言葉に、花火を見ていたシルフィスが顔をあげた。 「2号店って、空中庭園にあるの? すごーい」 「ええ。ビルの施工主でいらっしゃるサークリッドさんが口添えしてくださって、お店を開くことができたんです。 しかも、開店したとたんに大盛況で、観光客が多いので、骨董品も飛ぶように売れて……。 ですから、これはサークリッドさんへのお礼です」 「セイルが?」 今度はセイリオスが肩をすくめる番だった。 「KREは話題性のある店だからね。双方にとって都合が良かったんだよ」 さりげなく言ったが、シルフィスに尊敬のまなざしで見つめられて、気分がぐんと良くなった。 上機嫌になったセイリオスの前に、柄の長いスプーンが2本並べられた。 「取り皿もいる?」 クレベール夫人は一瞬、思わせぶりな視線をセイリオスに向けてから、シルフィスに訊いた。 「せっかくだから、このままがいいな。セイルも気にしませんよね?」 ここにいたって、ようやく、セイリオスはひとつのパフェをシルフィスと一緒につつくのだということに気が付いた。 なるほど、クレベール夫人がお礼と言ったわけである。 「ああ、もちろん」 公衆の面前でバカップルの真似をするのは気が引けたが、断るのは無粋に思えた。 「では、アイスクリームが溶けないうちに食べましょ」 「ああ」 「あれ? ポッキーが3本」 シルフィスが少し顔を赤らめて、チョコレートに包まれた細長いクッキーを数えている。 パイナップルもアイスクリームコーンも2ずつあるのに、ポッキーだけが何故か奇数だ。 「きみが2本食べるといい」 とたんに、セイリオスは2人の少女から冷たい視線を浴びることになった。 なにかまずいことを言ってしまったらしいと、セイリオスは慌てて言い直した。 「ええと、私はいいから、きみが3本とも……」 ところが、その言葉のせいで、さらに冷えた目で見られる結果となり、セイリオスは最後まで言うことができなかった。 クレベール夫人は肩をがっくりと落とした。 「気を利かせたつもりだったのですが、ご存じなかったようですね」 「いえ、ご存じだったとしても、ここではちょっと……」 目隠しがあるとはいえ、他の席からまったく隔離されているわけではなく、 特大パフェのせいで、すでにかなりの注目を集めていた。 わざわざ身をのりだして、こちらを見ている客もいる。 セイリオスがポッキーキスを知っていたとしても、そして、やりたいと言ったとしても、 シルフィスが応じたかどうかは疑問だ。 「でも、羨ましいな」クレベール夫人はため息をついて言った。 「レオは甘いものが苦手なので、こういうことができないんです」 「そうでしたね」 シルフィスは大まじめで相づちを打って、同情した。 その向かいの席で、セイリオスは、果たして嗜好だけの問題だろうか。と首をかしげていた。 恋人と2人で、楽しそうにパフェをつつくレオニスの姿が想像できなかったのである。 【小牧】 また文章部分が長くなってしまいました。 私の書くものは、余計なエピソードが満載なので、 いっそ文をなくして、絵だけにして、 物語の方は、みなさまの想像にお任せした方がいいかも。 |
| ティータイム
その3 |
![]() |
|
| 「シルフィス、おいしいかい?」
「はい。とっても」 シルフィスは、見たこともないほど幸せそうな顔をして、 生クリームがついたアイスクリームを食べている。 セイリオスは菓子に詳しくないが、どこか有名なメーカーの高級なアイスクリームらしい。 いくらおいしいとはいえ、冷たいものの食べ過ぎは体に良くない、 と言おうとしたところ、アイスクリームの下から、 シリアルやカステラ、缶詰のフルーツなどが出てきて、ほっとした。 「ひょっとして、セイルはパフェ、お嫌いなんですか?」 シルフィスは、セイリオスの手が止まっていることに気づいて、首を傾げていた。 「いや、好きだよ。ただ、どこから手をつけようか考えていたんだ シュークリームをもらってもいいかな」 「もちろんです。それに、これはセイルへのお礼なんですから、 そんなふうに遠慮なさると、食べにくくなってしまいます」 「お礼なら、すでに受け取っているよ。 パフェをおいしそうに食べるきみを見て、堪能している」 「セイルったら、趣味が悪いです」 シルフィスは顔を赤らめて、すねたように言った。 彼女のスプーンが止まったので、セイリオスはシュークリームを1個つまんで、彼女の前に差しだした。 「ほら、機嫌を直して、これを食べて」 「え? ですが……」 シルフィスは驚いて目を見開いたが、周囲を伺い、誰も見ていないのを確認すると、 思いきったように、すばやく身をのりだし、セイリオスの手にあるシュークリームをひとくちで食べた。 口に手を当て、恥ずかしそうに上目遣いで、セイリオスを見る。 セイリオスが、シルフィスの唇の触れた指を思わせぶりになめると、彼女はますます顔を赤くした。 「これっきりですよ」 「さぁ、それはどうかな?」 「ああやって食べるものなのかと思いましたけど、自分で食べる方がいいです」 照れ隠しなのか、シルフィスはものすごい勢いで、スプーンを動かしはじめた。 「そうだね。味わって食べているように見えなかったし」 セイリオスはシルフィスをからかいながらも、今の出来事に感動していた。 まるで学生時代に戻ったような気分だった。 若くして社会に出た彼は、こうした思い出が少ないのだ。 「シルフィス」 「はい?」 さきほどの動揺がおさまっていないのか、シルフィスは顔をあげようとしない。 そんな彼女に、セイリオスは極上の笑みを浮かべて、容赦なく爆弾を落とした。 「夏休みに泊まりがけでどこかに行こう。1週間ほど空けられるかい?」 シルフィスの手からスプーンがすべり落ちた。 【小牧】 バカップルめ。 いや、馬鹿なのはセイリオスだけ。 シルフィスは被害者だもの。そうよ、うちのシルフィスに限って。 ま、それはともかく。 セイリオスの服を考えるのに1日時間を使いました。 今までジャージばかりだったので、衣装が少ないのです。 うちのセイリオスは。 それから、お知らせです。 なりいきで、夏コミ合わせでセイシルの新刊を作ることになりました。 たぶん、アンヘルラルス3です。 AN殿下を招集しないと。ごめん、別○シルフィス(AN殿下の同棲中の彼女)。 とはいえ、AN殿下の性格が、当時と変わっているので、彼で間に合うのか。 でも、間に合わせないと、保護区にまたセイリオスを一人増やさなきゃならなくなります。 いや、そんなことより、ネット更新が滞ってしまう方が問題ですね。 描き貯めして、なんとか対応するつもりです。 |