シルフィス恋物語
 
 広場
 
 
怪我
 
それまでのセイリオスの人生は、仕事一色に埋め尽くされていた。
幼い頃から、父の仕事を見て育ち、
14歳で大学に入学したときには、父の会社を手伝うだけでは物足りなくなっていた。
一人暮らしをしながら生活費を切りつめ貯金し、それを投資して増やし、
18歳になると同時に、貯めた金を元手にして、自分で会社を設立した。
会社は順調に成長し、セイリオスが25歳になった今では、
ガダローラ大陸で十指に入る優良企業になっている。
いずれは父の会社を引き継がねばならないが、
彼の父はまだまだ現役で、社長として辣腕をふるっているため、
セイリオスは自分の会社に専念できた。
彼にとって、仕事は息をするのと同じくらい当たり前のことで、
それ以外に興味を引かれることはなかった。
今までは……。
セイリオスは、その朝も、書類を5種類ずつ同時に目を通し、手際よくさばいていた。
直属の部下や秘書に出す指示も的確で、その仕事ぶりはいつものように安定していて
自信にあふれているように見えた。
しかし、実際には、彼は心の内で、愚も付かないことを考えていた。
恋人ができたのに、どうして仕事をしなければならないのだ、と。
セイリオスは生まれてはじめて、仕事を投げだしたいという衝動にかられていた。
昨日は1秒ごとに気分が舞いあがっていったのに、
今日は1回電話するごとに、イライラが増してくる。
シルフィスの声を聞けば、やる気がでてくるかと期待したが、
男子生徒の声が入って、彼女は説明もなく、電話を切ってしまった。
そして、妹に電話すると、あきらかに面白がっている口調で、
質問をはぐらかされた。
無論、シルフィスのことは100%信用している。
昨日の今日で気持ちが変わるようなことはないだろう。
しかし、恋とはそんな理屈が通用するものではないらしい。
自分がシルフィスを見ていないときに、他の男が彼女を見ている、
というだけでも、今のセイリオスには腹立たしかった。
ついには、書類を机の上に投げだし、紅茶を注文した。
少し休憩して、頭を切り換えるつもりだった。
しかし、まもなく携帯電話が鳴り、休憩は中断することになった。
個人用の携帯電話で、電話番号は家族と親しい友人にしか教えていない。
シルフィスが説明する必要に気づいて電話してきたのだ、とセイリオスは喜んだ。
しかし、電話はディアーナからだった。あわてた声で、緊急事態を伝えてきた。
「お兄さま、大変ですの!
シルフィスが階段から落ちましたの!」
「なんだって?」
セイリオスは携帯電話を持ったまま、事務所から飛び出した。
 
【小牧】
怪我というお題では、怪我をするのは絶対にセイリオスにしよう。
しかも、軽傷ではなく、命にかかわるような重傷にしよう。
(セイリオスは不死身ですし、翌日には全回復するキャラですし)
と決めていたのですが、
私としたことが、シルフィスを階段から落としてしまいました。
申し訳ありません。
でも、シルフィスは大丈夫です。命はもちろん、体に傷が残ることもありません。
むしろ、この後、苦労するのはセイリオスです。
そのために、シルフィスを犠牲にしてしまったことを、先にお詫びしておきます。
ごめんなさい。
しくしく。(私も悲しいです。ものすごく)
 
ところで、この物語では現代医学が発達しているため、
セイリオスの父親は病気を克服して、健康です。
マリーレインも生きています。
そして、ネタバレになりますので反転してご覧いただきたいのですが、
セイリオスは2人の実子です。ディアーナの血の繋がった兄です。
そして、姉のセレーネは結婚せずに、キャリアウーマンになっています(笑)。 

 
 

 
  
 
怪我
 
 
「お兄さま、違いますの」
電話の向こうでは、彼女の兄が「今日の予定はすべてキャンセルする」と宣言し、
彼の部下たちがパニックを起こして、大騒ぎになっている。
ディアーナは携帯電話に向かって、懸命に叫んだ。
「シルフィスは捻挫をしただけですの」
「本当かい? ディアーナ」
心配をかけまいとして、嘘をついているのではないか、と疑っているような口調だった。
「本当ですの。シルフィスはほんの数段、足を踏み外しただけですの。
ただ、今日は安静にしていた方がいいので、わたくしの車で送ろうと思って、
お兄さまに電話しましたの」
セイリオスの安堵したようなため息が聞こえた。
「ならば、私も仕事が終わったら、見舞いに行こう。
シルフィスに伝えてくれるかい」
「わかりましたわ」
ディアーナは携帯電話をしまうと、兄との会話の内容をシルフィスに伝えた。
「お兄さまはかなり心配していましたわ。
ただの捻挫だと言っても、
自分の目でシルフィスを見るまでは、安心できないというような口振りでしたの」
「それはいいのですが……」
シルフィスは困った顔をして、ディアーナを見た。
「私の部屋……セイルは入れませんよ」
「まぁ、大変。忘れていましたわ」
ディアーナは再び、セイリオスの個人用の番号に電話したが通じず、
会社にかけても、秘書にやんわりと「会議中で出られません」と電話をつなぐのを断られた。
さきほどの騒ぎで、携帯電話を取りあげられ、会議室に缶詰にされたものと想像できた。
一応、伝言は残したものの、「シルフィスの部屋に来るな」では、
伝えてもらえるのは就業後になるだろう。
「お兄さまのことだから、伝言を聞いても、シルフィスの部屋に行きますわ」
「仕方ありません。仕事が終わる時間を見計らって、電話しますよ」
「それしかありませんわね」
ディアーナは肩をすくめて、兄の恋人に、あわてん坊の兄でごめんなさい、
というように、笑いかけた。
 
【小牧】
更新が遅くなってすみません。
その代わり、じっくりと構想を練ることができました。
次回は、またまたセイリオスに試練がきます!

 
 

 

 

■ 戻る ■  ■ 目次へ ■  ■ 次へ ■