シルフィス恋物語
 
 広場
 
 
嫉妬
 
 
「セイル!」
表に長身の青年が立っているのを見て、シルフィスは下宿屋の玄関から飛び出した。
アンヘル族特有の緑色の瞳を輝かせて、挨拶をする。
「おはようございます。
来ていらっしゃったのでしたら、呼んでくださればよろしかったのに」
「おはよう、シルフィス。車が思ったよりも早く着いてね……。だが、
女性を迎えに行くときは、約束の時間よりも早く呼び鈴を押してはいけないと、
教育係に躾られたんだよ」
その冗談に、シルフィスはくすっと笑った。
「私は例外です。とっくに準備ができていました」
「きみも、10分も早いね」
「待ちきれなくて……玄関でお出迎えしようと思っていたんです」
「なら、ちょうどよかった」
セイリオスはシルフィスの手をとった。
「どこか行きたいところはあるかい?」
「……どこでもいいです」
「では、午前中は美術館をまわろうか」
「はい」
手をつないで、二人は歩きだした。
まる1日二人きりで過ごすのは、この日が初めてなので、シルフィスはドキドキしていた。
 
【小牧】
シルフィスがしょーもない冗談に笑うようになったら危険です。
……というか、かなり手遅れです。
このような症状が出る前に、初期の段階で発見しましょう。

 
 
 
  
 
嫉妬
その2
 
   
午前中、美術館を見学した二人は、駅前にやってきた。
昼食時とあって、飲食の立ち並ぶ通りはかなり混雑している。
人混みから、シルフィスを守るため(?)、セイリオスは彼女の肩に腕をまわしていた。
ある一件の喫茶店の前を通ったとき、シルフィスは驚いたような声を挙げて立ち止まった。
「あっ、この店は!」
「どうかしたのかい?」
「はい。野球部のコーチだった人のお店なんです」
「レオニスの店じゃないか」
今度はセイリオスが驚く番だった。
「きみと知り合いだったとはね。入ってみるかい?」
よもやデート中に教師に会いたいなどとは言うまい、と思って提案したのだが、
セイリオスの憶測は、ものの見事に外れた。
「はい。……いいですか?
レオニスコーチに、少し伺いたいことがあるんです」
「かまわないよ。ちょうど休憩しようと思っていたところだしね」
セイリオスは嫌な予感を感じつつ、ガラスの自動ドアに向かった。
 
【小牧】
さて、次回はいよいよレオニスの登場です。
レオニスがセイリオスの恋敵とはなりませんし、このテーマが長引くこともありません。
コメディタッチで進めていきますので、たぶん不快にはならないはずです。
ただし、ものすごーい違和感を感じるかも……。
ま、一度、ご賞味くださいませ。

 
 
 
 
嫉妬
その3
 
 
純喫茶KRE(ケーアールイー)。
2年前に開店して以来、さまざまな雑誌の読者アンケートで1位に輝いている、話題沸騰の人気店である。
サンドイッチ以外は喫茶しか出していないが、
12時前にもかかわらず、店内はほぼ満席だった。
シルフィスは、幸運にも、レオニスの前のカウンターに空席を見つけ、まっすぐにそちらに向かった。
そして、レオニスがカップにコーヒーを注ぎ終えたところで、元気よく挨拶をする。
「お久しぶりです、レオニスコーチ」
 
【小牧】
修羅場、修羅場……じゃなくて、セイリオスがひとりで勝手に不幸になっていきます(笑)。
お楽しみに。

 
 
 
 
 
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