シルフィス恋物語
 
 広場
 
 
セイリオス
その4
 
「ごちそうさま。シルフィス」
「お、おそまつさまでした」
畳の上で足を延ばしてくつろぐセイリオスを見て、シルフィスは顔を真っ赤にしてうつむいた。
こうしていると、まるで新婚夫婦みたいだ、と思ったのだ。
急須から湯飲みに注がれるお茶の、のんびりとした音が、空気をいっそう親密にする。
「良い香りだね」
「私の故郷のお茶なんです。
昼間、お弁当のときにクラブのみんなで飲んだのですが、茶葉が少し余ったので……」
シルフィスは、ふいに、アンヘルの娘が無骨な騎士にこのお茶を飲ませて虜にしたという、
中世時代の昔話を思い出し、口ごもった。
好きな男ができたら飲ませなさい。どんな堅物でもころっと参るから、と祖母が言っていたものだ。
「い、いえ、私はそんなつもりでは……」
シルフィスは焦るあまり、考えを声に出してしまった。
「どうしたんだい? 急に」
「い、いえ。すみません。独り言です。
あ、あの……よかったら、お茶を飲んでみてください」
「ありがとう」
セイリオスはゆっくりと湯飲みを持ち上げ、温度を確かめた。
「熱いのは苦手なんだ」
「私も猫舌なんです」
「気が合うね」 
セイリオスはよく冷ましてから、ゆっくりとお茶を口に含んだ。
「うーん。良いお茶だ。話に聞いた以上だよ」
「このお茶のこと、ご存じなんですか?」
「飲むのは初めてだけどね。昔話に出てくるアンヘルのお茶だろう?」
「……はい」
気恥ずかしさのせいで、シルフィスの返事は小さかった。
セイリオスはいたずらっぽく笑う。
「知っているかい? このお茶で我が先祖の王子も、
アンヘルの娘に夢中になって、自分の妃にしたそうだ。
私たちは遠い親戚かもしれないね」

【小牧】
投票ありがとうございます。
予想をしたよりも、はるかに好評で(今のところ)、
安心したので、伸び伸びと書いています。
(補足)
上で出てきた無骨な騎士とはレオニスのことではありません。


 
 
 
  
 
セイリオス
その5
 
 
「おや? もうこんな時間か」
セイリオスは目覚まし時計のアラーム音を消した。
「話に夢中になると思ったから、アラームをセットしておいたんだ」
シルフィスが腕時計で時間を確認すると、20時を回ったところだった。
かれこれ2時間も、セイリオスと、クラインの昔話について話していたことになる。
それでも、まだ、話したりなかった。
「あの……まだ」
帰らなくても大丈夫です、とシルフィスが言いかけたのを、セイリオスは遮った。
「きみは試合で疲れているだろう。休んだほうがいい」
「はい」
セイリオスが引き止めてくれるものと思っていたシルフィスは、がっかりした。
「それに、きみを家まで送る道中、話ができるし」
「いえ、まだ、そんなに遅くありませんし、一人で帰れます」
「そういうわけにはいかない。
それとも、私に手間を取らせたくないのなら……泊まっていくかい?」
「えっ?」
まさか。
予想もしていなかったセイリオスの言葉に、シルフィスはうろたえた。
ディアーナやメイを含めた4人でゴルフに言ったのは、ほんの1週間前だ。
それまでに2回、彼と会っているが、顔を合わせた程度で、
その後のデートも、今日で2回目だ。
いくらなんでも早すぎる……とシルフィスは思ったが、
セイリオスに釣り合う大人の女性なら、躊躇なく泊まるのかもしれない、
(それはシルフィスの誤解です by小牧)
と考えると不安になり、すぐに断るのはためらわれた。
「あの……」
「なんだい?」
セイリオスはシルフィスに返事を急かす様子もなく、ゆったりと構えている。
「嫌というわけではないんですが……まだ心の準備が……」
「嫌ではないんだね?」
「は、はい。でも……」
このままでは、押しきられてしまう……と、シルフィスが顔を真っ赤にして、両手を頬に当てたとき、
セイリオスは突然ににっこりと笑った。
「冗談だよ」
「は?」
シルフィスはきょとんとした。
「だって、きみとは、まだ5回しか会っていないだろう。
もっと知り合う時間が必要だよ」
当然のことと言わんばかりの口調に、シルフィスはふくれっ面をした。
「私はそういう冗談は嫌いです!」
文句を言いつつも、シルフィスは少し安心していた。
断って、セイリオスと気まずくなるのが嫌だったのだ。
「だいたい、私がイエスと言っていたら、どうするつもりだったんです?」
「うむ。そうだね……。
その答えを知りたかったのなら、嘘でもイエスと言ってみればよかったんじゃないかな?」
セイリオスはからかうように言い、立ち上がって上着をハンガーから外した。
「さぁ、シルフィス。きみも帰る支度をしたまえ」
「言われなくても帰ります。でも、次は絶対にイエスって言いますからね!」
「楽しみにしているよ。次は冗談は抜きだ」
セイリオスの余裕たっぷりといった笑みに、頭にきたシルフィスは、
次の機会には絶対にイエスと言って、セイリオスの鼻を明かそうと決めたのだった。
 
【小牧】
鮫のいる海で泳いでいた水着の美女が、ボートの上の仲間に引き上げられて、
九死に一生を得た、といった感じです。
でも、まだ、シルフィスは同じ海で泳ぐ気でいる様子……。
ピンチピンチの連続で、みなさんも、ハラハラしていることでしょうねー。
セイリオスの術中にはまってしまったシルフィスは、
この危機から抜け出すことができるのでしょうか?
でも……投票所の雰囲気からすると、むしろ、それを期待されているような気もします。
第三者の意見を聞くって、大事ですね。
意外なことがわかります。
いや、ホント、意外でした。
私の今までのシルフィス保護活動はいったい……。

 
 
 
 
セイリオス
その6
 
 
シルフィスはタクシーの後部座席から、夜の町並みを眺めていた。
ラッシュアワーが過ぎているにもかかわらず、道路はいまだに渋滞している。
セイリオスとともにいる時間が長引いたのは嬉しいが、
さきほどまでとは違い、会話はまったく弾んでいなかった。
沈黙を破ったのは、セイリオスだった。
「どうしたんだい? 心配事でも思い出したような顔をしているね」
シルフィスが考えていたのは、セイリオスの部屋を出る間際に交わした会話だった。
子供っぽいことを言ってしまった、と悔やんでいた。
セイリオスは大人なので、表情に出していないが、本心ではうんざりしているかもしれない。
「べつに……なんでもありません」
言い訳したいのはやまやまだが、タクシーの中で話せるような話題ではなかった。
「きみくらいの年頃だったら、悩みがない方がおかしいのだろうね。
しかし、私といるときくらいは、笑っていてくれないかい?」
「……セイル」

「あの雨の日。
初めて見たときも、きみは浮かない顔をしていた」
「焦っていたんです。
こちらに留学しているアンヘルの仲間と同窓会を計画中で、
その大事な打ち合わせに遅れそうなのに、雨が降っていて……」
「そうだね。今にも雨の中に、走り出していきそうだった。
だから、とっさに、傘を差しだしたんだ。
そうしたら、きみの喜ぶ顔が見られるかもしれないと思って」
「え?」
シルフィスは胸の鼓動が早くなるのを感じた。
「それでは、見ず知らずの私に、傘を貸してくださったのは……」
「きみの笑った顔が見たかったんだ。
残念ながら、あてが外れて、きみは驚いただけだった」
セイリオスは照れをごまかすかのように、肩をすくめた。
「それはそうですよ。突然でしたから
それに、ちゃんとお礼を言う前に、あなたはどこかに行ってしまって……」
「再会できる見込みはあったんだよ。
きみは、妹と同じ制服を着ていた」
「あっ…」
「私もきみを探したんだよ。
きみと同じく、たった一つの手がかりを頼りにね」
「セイル……」
 
【小牧】
きざなセイリオス……。
でも、純粋無垢なシルフィスには、効果抜群のようで、とても心配です。
ところで……、
投票所にある、たった一つのコメント。
もっと大きな爆弾とは何なのか、気になっています。
私の考える大きい爆弾は……
1、セイリオスの一人暮らしの部屋にエロ本やエロDVDが散乱。
→いや、この物語でも、散乱はしていませんが、家宅捜索すれば見つかるでしょう。
2、セイリオスの一人暮らしの部屋に女性ものの服や化粧品が散乱。
→妹のものだ、と言えば、シルフィスは女装癖なんて疑いもしないでしょう。
3、セイリオスの一人暮らしの部屋にアニメグッズ、同人グッズが散乱。
→セイリオスの外見からは想像できませんが、別に普通。
さて、1〜3に正解はあるのでしょうか?
それとも、もっとすごい答えかも……。

 
 
 
 
 
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