| 社会人と学生
その4 |
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「すみません。お待たせしてしまって」 人混みから抜け出した、金髪のポニーテイルを見つけ、セイリオスはにっこりと笑った。 「急がなくていいよ。私も、ちょうど今、来たばかりだ」 近くの喫茶店からね、と心の中で付け足す。 シルフィスは駆け足で駅の構内を横切り、セイリオスの前で止まった。 いったいどこから走ってきたのか。 すっかり息があがって話もできない様子のシルフィスを見れば、何時間待たされようと、許せるというものだ。 ましてや、急に呼び出したのはセイリオス自身なのだから。 「どこか行きたいところはあるかい? それとも、喫茶店にでも入って、すこし休むかい?」 「い……いえ。急がないと」 「……?」 「……とりあえず、人目のつかない場所に行きたいです」 「なんだって!?」 今度はセイリオスが、呼吸を整えなければならなかった。 |
| 社会人と学生
その5 |
「人目につかない場所に……?」 数秒間固まってから、セイリオスはやっとのことで、シルフィスの言葉を繰り返した。 「はい」 彼女は真剣な顔つきで、こくりこくりとうなずく。 「ここにもうすぐ野球部の仲間がやってくるんです。 バーゲンに行くと言って、先に抜け出してきたので、見られると困るんです」 「そういうことか」 シルフィスが色気で迫ってくるような性格ではないと知りつつも、ちょっぴり期待してしまったセイリオスである。 一方、無邪気なシルフィスは、セイリオスの狼狽に気づくどころか、目前に迫った危機で頭がいっぱいのようだった。 「解散する前に、このあたりで食事をすると思うんです」 「とすると、駅周辺の飲食店は全滅だな。 試合を見に来ていた生徒や顔見知りにも、見られたくないわけだろう?」 「そうですね」 シルフィスは困ったようにうつむいた。 「だったら……」 セイリオスはあごに手を当てて、さりげなく切りだした。 「私の部屋に来るかい?」 二人きりになるのは早すぎる、とシルフィスが考えるのなら、冗談で済ませようとセイリオスは思っていた。 しかし、シルフィスはまたもや他のことに気を取られていた。 「ディアーナの……あの博物館みたいな豪邸にですか?」 サークリッド家の所有する邸宅は、クライン市がひとつの国だった頃、王宮として使われていた建物である。 「気が進まないみたいだね」 「ご、豪華すぎて、落ち着かないんです。ですが、他にありませんよね」 「いや、私が言っているのは実家のことではないんだ」 「えっ? では、どこなのです?」 「ディアーナから聞いていないのかい? 私は、いま、一人暮らしをしているんだよ。実家とはくらべものにならないほど質素な所だけどね」 「ああ、それなら。ぜひ、お邪魔したいです!」 「本当かい? では、急ごう」 シルフィスの気が変わらぬうちに、とセイリオスは早足で歩きだした。 【小牧】
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