| シルフィス
その1 |
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「お待たせして、すみません。わっ! 席、ここなんですか?」 開演少し前に駆け込んだシルフィスを待っていたのは、セイリオスと2階最前列のボックス席だった。 「そうだよ、シルフィス。かけたまえ」 シルフィスはセイリオスの隣に座ると、差し出されたパンフレットを受け取った。 「ありがとうございます」 「ここはすぐにわかったかい?」 「ええ、名前を言うだけで、本当に、係りの人が席まで案内してくれました」 大好きな音楽を特等席で鑑賞できることに興奮するあまり、シルフィスは初デートの緊張が吹っ飛んでいた。クラインホールに着くまで、服装や髪型を気にしていたのが、嘘のようだった。 「ここは会社が年間契約している席なんだ。いざというときは、あれこれと便宜を図ってくれる」 「……高いんでしょうね?」 「ははは、気にしなくていいよ」 シルフィスはチケット代を用意していたが、こういう特等席の相場が自分の生活費の2ヶ月分くらいに値することを知っていたので、あきらめて厚意に甘えるしかなかった。 「せめて夕食をごちそうせてください」 「ええっ? 本当に気にしなくていいんだよ」 「いいえ。傘を貸していだたいたお礼もまだですし、是非。 もっとも、たいしたものはおごれませんけど……」 シルフィスはほおを赤らめた。 |
| シルフィス
その2 |
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「本当にこのお店でいいんですか?」 「もちろんだよ、シルフィス」 夕食をおごると言い張るシルフィスに、ならば店は自分で決めるとセイリオスは言い、やってきたのはハンバーガーショップだった。 すでに夜も10時をまわっているが、店内は若者たちでにぎわっている。 「もう少し静かなお店がよろしかったのではありませんか? 普段なら……レストランに行くのでしょう」 「私がハンバーガーを食べたくなってはおかしいかな? 私だって、学生時代はよくこういう店に世話になっていたんだよ」 【小牧】
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| シルフィス
その3 |
「シルフィス、きみは、女神伝説で有名な古都アンヘルからの留学生だそうだね」 「はい。でも、古都というのは大げさで、実際は普通の村なんですよ」 「単一の民族が限られた狭い地域で暮らしている、世界的にも珍しいケースと聞くけど?」 「世間ではそう言われていますが、実際には、血族結婚を維持しているわけではなく、むしろ、アンヘル以外の人と結婚するように奨励されています。 けれど、不思議なことに、アンヘルで生まれる子供はみんな、金髪で緑の目なんですよ」 「アンヘルの血が半分であっても、君のような美しい子供が生まれるわけだ」 美しいと言われて、シルフィスは頬を赤らめ、やがて、小さな声で返事をした。 「……はい」 「きみも、夫を探すために留学してきたのかい?」 「いいえ。留学制度にはそういう狙いもあるようですが…私はこの国でいろんな事を学んで、将来はアンヘルのために働きたいんです」 「では卒業したら、すぐに故郷に帰ってしまうのかい?」 「それもいいえです。留学制度で補助金が出ていますけど、半分は学費ローンですから返さないといけないんです。アンヘルの貨幣価値は外に比べて、極端に低くて、だから、しばらくはこちらで働くつもりです」 「しっかりしてるんだね」 「そんな。とんでもありません!」 シルフィスの可愛い慌てぶりに、セイリオスはくすりと笑った。 |