シルフィス恋物語
 
 広場
 
 
恋愛未満
その1
 
 
「雨の日に、傘を貸していただいたんです」
シルフィスは、ディアーナに説明すると、
青年の方を向いた。
「傘をお返ししようと、あなたを捜していました」
「べつにかまわないよ。あげたつもりだったのだから」
「いえ、そんなわけには……」
「だったら、次の日曜日、どこかで会おうか」
「えっ?」
突然の誘いに、シルフィスの心臓は飛び跳ねた。
しかし、すぐに、傘を渡す間の数分のことだと
自分に言い聞かせて、気を落ち着けた。
「すみません。その日は友人と先約があるんです。
……次の休みも練習試合があって……」
「学生は忙しいのだろうね。
それなら、ディアーナに渡しておいてくれればいいよ」
「……そうですね」
傘を返して、気分がすっきりするはずが、
逆に、落ち込んでいくことに、シルフィスはとまどいを覚えていた。

 
 
 
  
 
恋愛未満
その2
 
 
 
「それではシルフィス。ごきげんよう」
「はい。また明日」
シルフィスは小さく手を振って、ディアーナとその兄を見送った。
ディアーナは兄の腕を引っぱって、なにやら楽しそうに話しかけている。
本当に仲の良い兄妹だ。そして、面倒見の良い兄──
そのときになって、シルフィスは彼の名前を聞き忘れたことに気づいた。
「でも、もうお会いすることはないだろうし、かまわないか。
普段は高校生なんか、誘わない人なんだろうな……」
2度しか会ったことのない相手だというのに、
シルフィスは言いようのない寂しさを感じていた。

【小牧】
会えなくていいのよ、シルフィス。
がっかりすることなんてないのよ。
せっかく災難から逃れたんだから、むしろ、喜びましょうよ。
……とはいえ、
この物語は続きます。続いてしまうのです。
だって、ここで終わると、まるでセイリオスがかっこいい人みたいじゃないですか。
ところで「シルフィス恋物語」というタイトル。
どこかで使ったな……と思っていたら、確かに、使ったことがありました。
心当たりのある方、過去は忘れて(汗)。


 
 
 
 
恋愛未満
その3
 
 
「彼女、シルフィス・カストリーズっていいますのよ。
気になります? おにいさま?」
遠慮のない質問に、彼は眉をしかめたが、この世でもっとも可愛い妹の、期待のこもった顔を見ると、苦笑いするしかなかった。
「まあね」
クールな兄から、確かな手応えをもらったディアーナは、気を良くしたようだった。
「シルフィスは野球部のマネージャーなんですけれど、真面目で気が利いていて、思いやりがあって、とってもモテるんですのよ」
「だろうね」
世界で一番愛らしいのは、妹のディアーナだが、シルフィスには、また別の魅力があった。
「次の日曜日は、一緒にゴルフをする約束になっていますの。
お兄さまも行きます?」
「ああ……それで」
「ふふっ。安心しました?」
「この兄をからかうのかい?」
「あら、協力してるんですのよ。シルフィスだったら、おすすめですわ。
お兄さまにシルフィスはもったいないですけど」
「こらこら」
こうして、彼はシルフィスと再び会うことになるのである。

【小牧】
こうして、シルフィスは悪い道にはまりこんでいくのです。
しくしく。
(もったいないと思うのなら、紹介しないように<ディアーナ)
この先、しばらく、砂糖の蜂蜜がけ練乳風味が続きます。
苦手な方はご遠慮ください。
とはいえ、私にとっても、拷問です。しくしく。


 
 
 
 
 
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