玉野橋(瀬戸市鹿乗町) 瀬戸MENU

舟形高57p 三 面六臂 坐像 持物(錫杖(鉾?)・弓・宝剣・やす?)

     
【左】やさしい顔の馬頭観音          【右】六地蔵と並んで。一番右が馬頭観音

   玉野橋のたもとの墓地に
瀬戸から多治見へ向かう愛岐道路に沿って流れる玉野川。いや,鹿乗町の辺りではもう庄内川でしょうか。この川に架かる道幅一車線の狭い橋が玉野橋です。この橋の東詰,つまり瀬戸市側のすぐ下手に小さな墓地があります。墓石が並ぶところの北東の空き地に,夏草に埋もれるようにして六地蔵が散らばる中に,馬頭観音が一体座っていました。

民間信仰で馬頭観音に安全を祈願する場合,橋のたもとに建立する例は少なくないそうです。瀬戸市でも下半田川の花川橋のたもとに一体ありました。昔はここから川に下りて,水の中を歩いて渡ることもあったのでしょうか。橋から見下ろす庄内川は深くて流れもはやく,とても渡渉を許してくれそうには見えません。

   いいお顔です
三面馬頭観音ですが,優しいお顔をしています。彫り方はやや稚拙ながら,ていねいに彫りこまれ,表情も豊かに読み取れます。正面のお顔は穏やかな笑みをたたえています。やや釣り目の目元のためか,見ようによっては,ひょうきんなようでもありますが…。左右のお顔も憤怒とは言いがたいのですが,引き締まったいい表情をしています。宝冠は大きめで,馬頭はその真ん中に浅い浮き彫りでかすかに表されています。腕の表現などにつたなさを感じさせますが,正面の手は馬頭印を結んでいるようです。脚はよく分かりません。蓮華が一体に彫り出されているため,57cmという大きさになっています。光背の上端がとがり,前へせり出すようになっていますが,ここが欠けていないのは珍しいですね。

  持物は?
光背の腕や持物も立体的に彫られているのですが,これがなかなかユニークです。向かって右上は錫杖と思われますが,中央の突起が長く,三叉の鉾かもしれません。トライデントですね。その下は弓です。東の方の白岩や片草の馬頭観音には見られましたが,西の方で見つけたのは初めてです。左上は刃渡りが短めの宝剣でしょう。しかし一見すると太い独鈷杵のようでもあります。不思議なのは左下。魚を突くヤスを2本束ねて持っているように見えるのですが,仏像の持物にヤスというのは…千手観音でも見たことがありません。もしかして開蓮のつもり?

細かく彫り込まれていること,風化の度合いが少ないことから,明治から大正ごろのものと思われます。馬車による運送が盛んだった時代ですが,その頃なら河床を渡らずとも,すでに橋が架かっていたのでしょうか。郊外の墓地の外れという,ほとんど見る人もなさそうな場所に置かれた馬頭観音。きっと何かいわれがあるに違いありません。

※ この馬頭観音は,瀬戸の山上様から情報を頂きました。