「砂嵐学園物語」
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第2話「マラソン大会の優勝賞品は?」
 床の上にうっすらと砂が堆積した埃っぽい教室で、生徒たちが机を四角く並べて教室中央を向いて座っている。黒板のある方向には、生徒会長、副会長、書記などのネームプ レートが机の上に並べられていて、制服姿の眼鏡の男女、狸顔の女の子が座っている。黒板の反対側の席には、狐のような目をして顔を真っ赤に紅潮させたロングヘアの女子生 徒が、細い目をますます細くさせて生徒会長を睨みつけている。彼女の机の上では、ぎりぎりと音を立てんばかりに握り締められたこぶしがぶるぶると震えていた。彼女は、言 わずと知れた学園のアイドル香坂美州だ。彼女は2年4組の体育委員として、マラソン大会の打ち合わせに出席しているのだった。「では、公正なる多数決により、今年度のマ ラソン大会の賞品は、表記のとおり決定するものとする。」眼鏡のやせ男は、生徒会長なのだが、そう宣言すると会議を終了せんとした。「それは生徒会の横暴です!」目がく りくりとして瞳が大きく背の低い女子生徒が、立ち上がって発言した。1年の女子テニス部のサル、いや猿渡かえでだ。「全クラスの体育委員の挙手によって決定したもののど こが横暴なのですか。かえで君。」サルは何も言えなくなり、そっと香坂の様子を伺った。ひゃぁ、怒ってるぅ。香坂の怒りは今にも爆発しそうであった。がたん!椅子が倒れ る大きな音が会議室内に響いた。一瞬訪れる静寂。生徒会長は、香坂が仁王立ちしているのを見て息を呑んだ。殺られる!「わかりました。決議に従います。」香坂はガラス窓 がびりびりと響くくらいの声でこたえた。「えー!?」サル、かえでが心配そうに香坂のほうを見た。「ただ、賞品の内容からいって、賞品の準備をするのは私に任せてもらえ ないでしょうか。」「結構です。全てあなたにお任せしますよ。香坂さん。あなたの働き如何によって、今年度のマラソン大会の盛り上がりも、すばらしいものになるに違いあ りません。では、これにて解散!」眼鏡ヤセは、会長としての威厳を保つとそそくさと会議室を出て行ってしまった。「センパァイ、大丈夫なんですかぁ。」各クラスの体育委 員たちが退室した後、サル、猿渡かえでが心配そうに香坂のもとへ近づいてきた。「大丈夫、私にいい考えがあるの。会長のエロザルぅ、今に見てなさいよ!」
 両側を森に挟まれた湿地帯に葦が茂っている。湿地帯は、砂嵐学園の校庭のほうから5,600mくらい細長く続いていて、また森の中へ飲み込まれていた。その湿地帯の脇 に作られた砂利道を、ばたばたと足並みを乱して走ってくる集団がいた。先頭では野生のゴリラのような男が、さわやかな笑顔を浮かべている。その後ろからは、空色の地に赤 いアルファベットのSマークの入ったジャージを着た生徒たちが、列を成してついてきていた。生徒たちの間隔はまちまちで、先頭から最後尾まではすでに50m近く離されて いた。その青い行列の最後尾で、汗をだらだらとかきながら呼吸を乱している生徒が、隣を走る生徒に声をかけた。「さ、さかき、も、少し、ゆっく、り、走って、くれ。」そ う言うと、ずんぐりむっくりの生徒はまた少し列の後ろのほうに下がっていった。「これ以上遅くすると、授業の時間内に帰ってこれないぞ。」短パンに白い体操服の男子生徒 は、じわじわと遅れていく生徒を振り返った。両足にみみず腫れのような傷跡が生々しくジグザグに入り、ひざをテーピングで固めたこの男子生徒は、中学時代に陸上の長距離 ランナーであった榊竜だ。事故で両足を骨折して陸上はやめてしまったが、心肺機能は衰えていない。呼吸も乱れずに、余裕の表情で遅れていく生徒を見ていた。
 彼らが走っているのは、砂嵐学園の特設クロスカントリーコースであった。1周おおむね20分程度で走りきるこのコースは、毎年行われるマラソン大会に向けてのトレーニ ングコースとなっているのだった。このコースでの練習メニューは、砂嵐学園の冬の体育授業の名物といってよかった。「どんじゅうろう、おいていくぞ。」「ま、まて。おま え、最後に、全員、走りきるのを、確認するん、だろう?」どんじゅうろうと呼ばれた生徒は、はひはひと呼吸を乱しながら歩くほどの速度で後をついてきた。やれやれ、また 今日も次の授業に遅れてしまいそうだな、と榊は思った。
 誰もいなくなった更衣室の入り口の扉が開くと、真っ暗な室内に外の光が入り込み、ずんぐりむっくりしたのと細長い人の影が現れた。ずんぐりむっくりはふらふらと、細長 いのはきびきびと動いて室内に入るとさっさと着替えをし始めた。「次、現代社会のマダムヤンの授業だぞ。あいつ結構うるさいからな。急ごうぜ。」細長いのが、ずんぐりむ っくりに声をかけた。「榊、オレ、ちょっと気分悪いから保健室行ってくるわ。」オレという言葉の発音がおかしい彼は、まだはひはひと呼吸を乱しながら言った。彼は、オレ のオの部分にアクセントをつける言い方をするのだ。それは、マラソンの苦手などんじゅうろう君だ。「大丈夫か?」そう言った細長いの、榊は、シャツのボタンをじれったそ うにつけていた。そして、最後に一段ずれていることに気づいて舌打ちをした。「あぁ、もう!」彼はちょっとおっちょこちょいなところがあって、手先も不器用なのであった 。もたもたしている間に始業のチャイムが鳴ってしまった。榊は、マダムヤンことインテリ眼鏡の女教師、剣先生の待つ教室に、自分一人遅れて入っていくところを想像すると 、いっその事どんじゅうろうと一緒に保健室に行こうかとも思ったが、保健室の主、母性本能120%のビヤ樽もあまり好きになれないタイプであったことを思い出すと、うな だれながら更衣室を出ていった。
 「よろしいですか。」インテリ眼鏡こと女教師剣は、教壇に三つ指ついてお辞儀をすると授業を始めた。このインテリ眼鏡、授業中はよそ見をするなとか、ノートは横罫のT YPE−Bを使用しろだの、鉛筆はHBのみ使用可だとか、もういろいろ口うるさく言うタイプなのだが、時間に関しては特に厳しかった。なにしろ、始業のチャイムが鳴る1 分前には教室の前の廊下で待機しているのだ。そして、左手首の腕時計を確認し、始業チャイムが鳴ると同時に教室内に入ってくる。そして、いつもどおり教壇に三つ指をつい てお辞儀をすると授業を開始するのであった。
 がらがら。しんと静まり返った教室に、10分ほど遅れて入室してきたのは、スポーツバッグを抱えた榊であった。「すいません、遅れました。」インテリ眼鏡は右手で鼻眼 鏡の配置を直すと、鼻の穴を膨らませて榊を睨んだ。「あなたは、いつも私の授業にだけ遅れていらっしゃるようですが、私の授業がつまらないとでも言いたいのかしら。」「 あ、いえ、マラソン大会のトレーニングさえなければ早く戻ってこれるんです。」「言い訳はよろしい!さっさと着席なさい!!それにしても・・・」インテリ眼鏡はもう一度 鼻眼鏡の配置を直すと、ぽつりと独り言を言った。「今年のマラソン大会の賞品は、おかしなものが選ばれていましたねぇ。」そして、一番前の席に座っている香坂を見た。香 坂は、どこを見ているか分からない細い目で榊を見ると、にこっと微笑んだ。
 榊は、3つもある特大弁当箱を次から次へと片付けていた。「おまえ、よく食うなぁ。」ずんぐりむっくりが言った。「ん?」榊は、購買で買った四角いパックのジュースを 吸い込み、ご飯と一緒に飲み込むと言った。「育ち盛りは食べ盛り、何でも腹八分にしなければいけないんだぞ。」そして、またわき目も振らずわしわしとご飯をかっこんでい った。ずんぐりむっくりのどんじゅうろうは、こいつは本当に言葉の意味が分かって言っているのだろうか?と疑問に思ったが、また例の妄想が始まったのかもしれないと思う と、それ以上詮索はせずに小さな弁当箱をついばみ始めた。「ところでサカキ。お前知ってるか?」「何?」榊は口の中をもごもごさせながら返事をした。「今年のマラソン大 会の賞品だよ。」「知らね。」榊は、一瞬視線をどんじゅうろうの方に向けると、まったく興味なしといった雰囲気で弁当箱と戦い続けた。「おまえはいいよな。」どんじゅう ろうが言った。「いや、俺はもう陸上から足を洗ったんだ。マラソンなんかどうでもいいんだ。それに、俺だって事故の後遺症のせいで、長時間走るのはつらいんだぜ。」榊は 、口の周りにご飯粒を付けながらどんじゅうろうの方を見ると、腕組みをして考え込むしぐさをした。「そうじゃないよ。お前には、新村さんがいるからいいよな、ってことだ よ。」「どゆこと?」榊はどんじゅうろうの言うことが理解できないでいた。「おまえ何にも知らないのな。いいか、今年のマラソン大会の賞品は・・・」どんじゅうろうはこ こで一息つくと言った。「学園のアイドル香坂さんとアツアツの仲になれる、っていうんだぞ。」「にゃ、にゃに!?」
 「そうよ、知らなかったの?」相変わらずこの男はだめだ、と香坂は思った。自己中心的というかマイペース型というか、とにかく周囲の出来事に無頓着すぎるのだ。「大丈 夫なのかよ?」だめ男認定の榊は言った。「あんたは新村さんの事だけ心配していればいいの。」香坂は、榊が新村と付き合い始めたことを風の便りに知っていた。香坂の彼氏 、眠がもう少し自分を気遣ってくれればいいなと思っていたが、彼も榊と同じかそれ以上にマイペース型の人間だったので、香坂は彼にあまり多くを望まないようにしていた。 本当にあたしたち付き合っているといえるんだろうか?香坂の頭の中には、デート中いつも居眠りしている眠の姿が浮かんでいた。「最近やけにみんなマラソンの授業を張り切 っていると思ったら、そういうことだったんだな。」「そ、よ。君も頑張ってみるかね?」おどけた調子で香坂は言った。「やめとくよ。新村さんに誤解されると困るし、マラ ソンって俺あんまり好きじゃないんだ。」「元陸上部の長距離ランナーなのに?彼女も、あんたが頑張って輝いてるとこ見たら惚れ直す・・・かも?少なくとも、高校生のくせ に人生投げたみたいなこと言ったら、・・・パンチだよ!」香坂は、例の猫じゃらし的ファイティングポーズをとると、ジャブを2,3発榊の胸に打ち込んだ。「わ、わかった 。まじめに走ってみるよ。いや、走ります。でも、実力から言ってもトップは無理だから、アツアツにはならなくてすみそうだけどね。ところで、その、アツアツっての、本当 に大丈夫なのか?」それを聞くと香坂はニヤリと笑って言った。「へへ、お気遣い無用。あたしに考えがあるんだ。賞品の準備をするのは私なの。だから心配しないでせいぜい トップになってちょうだい。楽しみに待ってるからね。」
 6畳くらいのせまい部屋、本棚とテーブル、ホワイトボードに書類棚を置くとあとは何も置くスペースが無いくらい狭い生徒会室。その部屋の中に、がりがりにやせた眼鏡の 男子生徒がいた。彼は、テーブルに向かってノートに何か書き物をしているように見えた。しかし、先ほどから彼の手の動きは止まったままである。視線はノートの上の方に固 定されたまま動かない。そして時折唇がひくひくと動き、ぽそぽそと何か独り言を言っているようであった。今年のマラソン大会はなんとしても優勝しなければならない。その ために各クラスの体育委員たちには協力してもらいたかったのだが、協力できないという人間のなんと多かった事か!そういう人間にはお休みを取ってもらい、代理の委員を私 の息のかかった部から選抜して、90%以上の絶対的過半数でもって例の賞品を決定させた。むふふ、ここまでは計画通りだ。あとは大会当日に邪魔になる人間をどうにかすれ ば、あこがれの香坂さんとアツアツの仲に!ぐふふふ。足の速い人間の目星はついているし、いつもどおり部活動関連の人間には予算で取り込み、それ以外には・・・クラッシ ャーを雇えばよいのだ。こんなときのために風紀委員会があるのではないか、と彼は思った。彼は、ノートにリストアップしてある人物の一覧をもう一度確認した。そのリスト の一番下には、榊竜の名前が追加されていた。
 ぴか、ぴかぴか、青空で何かが光って小さな煙が出現した。そして、少し遅れてぱん、ぱんぱんという乾いた火薬の音が聞こえてきた。今日は砂嵐学園のマラソン大会当日、 学園の近くにある軍隊の教練施設には、ジャージや体操服姿の高校生が続々と集まってきていた。マラソンのコースは、軍事施設の周囲を1周するというもので、おおよそ9. 6キロの距離がある。そこを男子は1周、女子は0.5周することになっている。榊の2学年のレースは午前11時スタートだった。
 「おまえ、よく寒くないなぁ。」ずんぐりむっくりのどんじゅうろうが、短パンに体操服姿の榊に言った。どんじゅうろうは、上下空色のジャージ着用であった。「走ってい ると熱くなるよ。」榊はアキレス腱や太もものストレッチをしながら返事をした。「2年生集合!!」ゴリラのような男が、さわやかな笑みを浮かべながら両手を挙げて合図し た。あれで胸をどかどかと叩き出したら、もうそのまんまであるのにと榊は思った。ごっほ、ごほごほ、ゴリラが咳き込んだ。どうやっても絵になる男ではある、と榊は思った 。
 パァン!号砲の合図とともに300名近い2年生男子生徒がスタートした。榊は無理せず一番最後からスタートした。追い越されるよりは、追い越すほうが気持ちが楽という こともあったからだ。榊はスタートするとき、応援している人ごみの中に目の細いロングヘアとネームプレートを交換したショートヘアの女子生徒の姿を確認した。彼は、目の 細いほうの女子生徒、香坂がムスっとした表情をして左手のひらに右こぶしを叩きつけているのを確認、ショートヘアの新村さんがこちらに向かって手を振っているのも見えて やる気120%となり、ローからいきなりトップギアに入れると、先頭集団めざしてすっ飛んでいった。
 ははーは、すーすー、ははーは、すーすー。榊の呼吸は、呼3に対して吸2という比率であった。これに音楽のリズムを載せていつも走っているのだ。曲名はなぜか「おお牧 場は黄色」である。この曲が榊の走っている間中、頭の中をエンドレスで流れているのだ。榊はアップダウンの激しいコースを全速で走り抜けていた。すでに先頭集団は遥か彼 方の小さな米粒と化して、これに追いつくのは容易なことではないなと思った。
 密集隊形を組んで走っていた生徒たちも、いつのまにかまばらになりだした。榊の周囲には、彼のペースをトレースして走る生徒が数名、つかず離れず走っていた。坂を下っ て切りとおしの右カーブを通過する際にそれは起きた。ざくっ!何かが榊の左足をえぐった。バランスを崩した彼は地面に転倒し、スライディングをするかのごとく砂利道を滑 った。坂道の慣性力が容赦なく榊のひざを砂利にこすり付けていた。「いてぇ!」すばやく両手をついたつもりだったが、そのときはすでに榊の両足は血まみれになっていた。 「すまん!」榊の左側を走っていたランナーが彼を助け起こした。「ひどい傷だ。レースは棄権したほうがいい。」ぶつかったランナーはそう言うと、榊に肩を貸してコースの 外へ連れ出そうとした。「いや、大丈夫だ。まだ走れる。」「出血がひどいぞ。」榊は、ぶつかってきたこの生徒をぶん殴ってやりたい衝動に駆られたが、それこそレースを失 格にさせられそうだったのでやめておいた。榊はぶつかってきた生徒を払いのけると、また走り出した。今年は完走すると約束していたし、中学時代の怪我の後遺症を振り払う ためにも走りたかったからだ。榊が走り去った背後のコース上では、ぶつかった生徒がゆるゆると歩き始めていた。そして、ぽつりとつぶやいた。「ま、あれならベストタイム を叩き出すこともあるまい。」
 レースの先頭集団でも同様の事故、が起きていた。今大会最高タイムを出すであろうと予想していた生徒が突然転倒、その上に次のランナーが通過したためアキレス腱を損傷 して棄権してしまったのだ。また、先頭を走っていたペースメーカーが余りにオーバーペースで走ったため、追従してきたランナーの何人かは気分が悪くなって倒れ、やはり棄 権していた。したがって2年男子のトップは、現在文字通りダークホースの生徒会長になっていた。彼は、この日のために減量してトレーニングしたかいがあったものだと思っ ていた。ほんのちょっぴりお薬の力も借りてはいますが、こんな大会で薬物検査も無いですし、楽勝ですね。そのとき、にやりといやらしく笑う生徒会長の耳にキンキン声が響 いてきた。補聴器のような形状をしたそれは、小型の通信機なのであった。「何だ、何があった。」彼は下唇の下に貼り付けた絆創膏型マイクに聞こえる程度の声で言った。「 ウソ?なによそれ、それ本当?」補聴器から聞こえてくるキンキン声はますます大きくなった。生徒会長は、だんだんと顔面蒼白になっていく。「ん、もう!香坂のやつ!全学 年トップのタイムでゴールしたら、アツアツ・・・本当に、文字通りアツアツになってしまうじゃないのよ。もーいや!」生徒会長は突然女言葉になると、自分の体操服のすそ をくわえて叫んだ。「きー!!くやしー!!」そして白目をむいてその場に昏倒した。
 榊は、自分が今何位になっているのかまったく見当もつかなかった。今はただ全力で走るだけだと思っていた。心配していた足の故障もたいしたことは無かったし、これなら また記録を出すために走り始めてもいいかもしれないと思いはじめていた。目の前に9.5キロを示す看板が現れた。コースはそこでT字路になっていて、右カーブすると10 0m先に白いテープが張られたゴールが見えた。榊は最後の力を振り絞りダッシュすると白いテープを切ってゴールした。
 「おめでとう!2年生のトップよ!やるじゃない。サカキィ!やるときはやる砂嵐生ね!」興奮した香坂がやってきた。「どうしたの?その足。大丈夫?」新村さんは心配そ うに榊の足をながめている。「コケちゃいました。」榊はどこかのマラソンランナーのように、頭をぽりぽりとかきながらにこやかに返答した。「さぁ、これから表彰があるわ よ。そして、その後はお楽しみの賞品が待っているからね。」香坂はにやりと笑うと、くるりと回れ右をして生徒会のテントの方へ走っていった。
 「賞品は、学年のアイドル香坂さんとアツアツの仲でーす。」スァルゥ、いつに無く楽しそうに読み上げおってからにぃ。榊はじろりとサル、猿渡かえでを睨んだ。榊の目の 前には、もうもうと湯気を上げる巨大などんぶりが準備されていた。「さ、熱いうちにどんどん食べてね。」ばかもの!走ったばかりでこんなものがばくばく食えるか!と榊が 思って躊躇していると、「よし、じゃぁ、あたしが食べさせてあげよう。」と言うなり香坂は、どんぶりを片手で持ち上げ、榊の口にうどんを流し込み始めた。それは、もちろ ん一気食いできるほどに冷ましてはあったけれど、・・・「あががぁ、がぼがぼ、や、やめ、あ、あつーい!」香坂の背後には、まだ数人前のうどんがもうもうと湯気を上げて 、出番を待っているのであった。
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