卑劣!鉄仮面カロッゾの罠
家の扉をチェックすると鍵が掛けられていた。
「さすがに最低限の用心はしているわね。」
詩織はそう言ってヘアバンドに仕込まれた針金を抜き取ると解除を試み始めた。
「おそらく人質は二階の一室に集められ、室内に監視が一人いるはずだ。問題は三人目の居場所だが・・」
詩織が鍵を開けるのを待っている間に話し始めたレイを遮るように沙希が口を挟んだ。
「え?ちょっと待って。確か見張りは全部で二人だって言ってなかった?」
「その通りだよ。しかしまさか一睡もしないで見張りを続けるわけには行かないだろう?当然三人が交代で休みを取っているはずだ。」
「なるほどね。ところでもう一人の見張りは放って置いていいの?全然気にしていないみたいだけど。」
魅羅がレイの説明に感心しつつも疑問点を指摘する。
「そうよね。もし中に入ってすぐの所にいたりしたら・・・あ!」
そこまで言って沙希は慌てて口を押さえる。
「心配しなくても大丈夫だよ。僕達の話が聞こえる所にいたりはしない。二人目の場所は大体分かっている。さっきの一件でね。」
「でも、子供を捕まえたのがそうだとは限らないでしょ?」
反論する魅羅を軽く手を挙げて制してレイは話を続けた。
「僕は別にあれがそうだとは言っていないよ。肝心なのは子供が二階の窓から逃げ出そうとしたと言うことだ。普通なら一階から逃げ出した方が楽だからそうするはずだ。」
「だから一階に見張りが・・・」
「あ、ひょっとしたら一階から逃げてきたのかも・・・」
競うように自説を展開させ始めた魅羅と沙希を押しとどめるレイ。
「あいにくだがそれは考えられない。一階では人質に脱出される危険性が高いし、もし一階に見張りがいたのなら子供はそれに気付くのが遅れるから引き返してあの窓にたどり着く前に最初の見張りに捕まってしまうはずだ。」
そう言いながらレイは地面に外観から予想できる二階の見取り図を書いた。
「部屋を出た瞬間に子供がその存在に気付き、更に少なくとも子供がもう一つの部屋に入って窓にたどり着き、開けるだけの時間的余裕が得られる場所・・・ここだ。」
そう言ってレイは階段につながる廊下の端を示した。
「僕の勘もそう言っている。ここなら全てのつじつまが合う。」
「割と理にかなっていそうだし、その前提で行きましょうか。」
「じゃあ、後は三人目の居場所だね。」
「それはもう分かっているわ。」
声の方を見ると扉を開けた詩織が中をのぞき込んでいる。
「ブービートラップの類は無し。まあ今回の場合当たり前だけど。それから三人目が簡易ベッドで眠っているのがここからよく見えるわ。」
家の一階は単純な作りで一つの広い部屋があるだけだった。村の集会場なのかも知れない。奥に二階への階段があり、その手前に置かれたベッドの上でDC兵が眠っていた。
「思った通り下は無警戒か。好都合だな。よし、行こう。」
あっさり一階を制圧した後、階段の下から二階の様子をうかがう四人。
「ここからじゃ確認できないわね。」
「逆に言えば向こうからも僕達が見えないと言うことだ。サブマシンガンと拳銃を手に入れたがまだ使うわけには行かないからその方がいい。」
「そうね、ここで気付かれては作戦失敗だもの。」
敵に感付かれないように、なおかつ迅速な進行を要求される今回の作戦は相手が油断しているから辛うじて実行可能だとも言えた。
「ここは一人で行った方がいいわね。私に任せて。」
「そうだね、それが賢明なようだ。頼むよ。」
詩織は一方の壁に身をすり寄せるようにして低い体勢で階段を上り、上り切る少し手前で一端動きを止めた次の瞬間音も立てずに跳躍して階段の向こうへ姿を消した。程なく顔をのぞかせた詩織が手招きする。
「確かにすぐそばにいたわ。部屋の方を見張っているからこちらに背を向ける形になって割と楽だったわね。」
軽くそう言ってのける詩織の足下には気を失った兵士が転がっていた。
「お見事。」
レイの言葉は素っ気ない中にも感心したような響きが含まれていた。
「さて、残るは後一人か。なんとか上手くいきそうだな。」
「人質がいるから強攻策はとれないし、さすがに気付かれずに部屋に入るのは無理だと思うけど。どうするつもりかしら?」
「向こうに出てきて貰うのさ。そうそう、せっかくだから最後くらい派手に行こうか。」
DC兵の注意は室内に集中して向けられていた。つい先程子供の一人に逃げられそうになり、一方村人達が危険を冒して子供達を救出に来るとはまず考えられない状況でそれは当然とも言えた。そのため階下で銃声と爆発音が響いた時、予期せぬ事態にとまどいを見せていたが、すぐに気を取り直すと銃を構えて出口へ向かった。戦闘は一階で行われているが二階からの侵入者が居ないとも限らない。足音を忍ばせてドアの側まで行き、ドアの正面に立たないようにしてゆっくりノブを回し、勢いよく開けると同時に何者かが居たらすかさず弾を叩き込めるように銃を構える。続いて廊下に敵が居ないことを確認し、部屋から完全に出たところで首筋に激しい衝撃を受けたその兵士は意識を失った。
「まだまだね。頭上に対する警戒が不十分よ。」
「でも、普通侵入者が天井から襲いかかってくるなんて考えないと思うんだけど。」
気絶した兵士にからかうように話しかける詩織。作戦成功の知らせを受けて駆け付けた残りのメンバーを代表して沙希が正直な感想を口にする。しかし人質を救出して村を脱出するまではゆっくりしているわけには行かないため早速部屋に入る。
「みんな、大丈夫?助けに来たわ。」
部屋の中にいたのは10人。DCにとっても「大事な人質」であり、扱いは割といい。初めの内は状況が把握できなかったようだが、外に出られると分かって大はしゃぎで我先に駆けだしていった。
「さあ、僕達も行こう。あまりぐずぐずしている訳にはいかない。」
一階に下りると最後の見張りをおびき出すために銃や手榴弾を使用したための損傷が見受けられた。
「家少し壊しちゃったね。」
「時間が無かったからな。修理費用は伊集院家の方に請求して貰うとしよう。」
家の外では子供達が家族と対面を果たしていた。出てきた四人を見て村長が近寄ってくる。
「信じられん、本当にやってのけるとは。一体あんたらは・・・」
「そんな事より一旦ここから避難を・・・」
今後の指示を出そうとしたレイの声が途切れる。かすかに遠くから爆音が聞こえ、次第に大きくなってくる。
「そんな、せっかくここまできたのに。なんとかならないの?」
「無理ね。村人全員の出発準備整えるだけで時間切れになるわ。」
そこで村長がやれやれと言った感じて口を挟む。
「運が無かったと思ってあきらめよう。あんたらはさっさと出ていった方がいい。」
それを聞いて肩をすくめて見せる詩織。
「そうもいかないのよ。今からじゃ逃げ切れるとも思えないし、第一計画が上手くいかなかった以上騒ぎを起こした張本人としては自分達だけ逃げ出すというのはちょっと、ね。」
カロッゾ・ロナはコクピットの中でほくそ笑んでいた。
「連邦のクズ共は壊滅したと聞いたが、残存兵力をかき集めて突っ込んで来おったか。せいぜい楽しませて貰うとするか。」
トゥブルクに呼び出されている内に連邦軍との戦闘があり、自軍の圧勝に終わったと知ったときは不機嫌極まりなかったカロッゾだったが、警戒装置に反応があったと知った途端に上機嫌になった。
「しかし反応から言って戦艦は一隻のみ。中身もあまり期待できないのではないかと。」
「かまわん。こんな辺境の守備隊暮らしもいい加減うんざりしてきたところだからな。暇つぶしになればそれでいい。」
カロッゾ隊もかつては第一線に配備されていたのだが、民間施設の破壊や味方も巻き込んだ無差別攻撃などの問題行為が多発したため規模を縮小されたあげく後方任務に回されることになった。とはいってもそれらの行為は隊長であるカロッゾの指示、あるいはカロッゾ自身によるものであったため、おもだった人材は他の一線級部隊に配属されている。
「今は休養中と言ったところか。ふん、今の内に最後の休憩を楽しんでおくんだな。」
「しかし隊長、もし敵が動き出した場合、先行した補給部隊では持ちこたえられる訳がありません。拠点を占拠される恐れがありますが。」
確かに現在の位置関係ではその可能性は十分考えられた。カロッゾはしばらく考え込んでいたが、何か良い考えが浮かんだらしく仮面の奥の目を細めて口の端をつり上げた。
「いい手がある。そうなればなったで奴らに地獄を見せてやろう。」
キラメキ隊の四人は子供達と一緒に先程の部屋に閉じこめられていた。さすがにこうなっては自力で脱出出来そうにない。
「アルビオンが来てくれて村の開放を交換条件に安全な撤退を認めれば敵も従わざるを得ないと思うんだが。連絡手段が無いのは痛いな。」
レイが悔しそうに呟く一方で沙希は子供達に申し訳なさそうに話しかけていた。
「ごめんね。もうちょっとで助けてあげられそうだったんだけど。」
実際一度は助かったと思っただけに子供達の落胆は大きく、沙希の言葉にもうつむいたままで答えようとはしなかった。その様子を見て言葉を続けられなくなった沙希の背後で声が響いた。
「もう、そんなに落ち込んでも何もいいことなんか無いわよ。もっといい方に考えなくちゃ。ひょっとしたら連邦軍が助けに来てくれるかも知れないでしょ?」
沙希が振り返ると魅羅が腰に手を当てて立っていた。
「そんなの無理だよ。連邦軍ってすごく弱いもん。」
子供の内の一人が口をとがらせて反論する。
「ま、それもそうね。」
あっさり肯定する魅羅。その場にいた全員が思わず脱力する。
「確かにそうだけど、そんな身も蓋もない・・・」
詩織のぼやきを気にしないで魅羅の話は続く。
「でもね、弱くてどうしようもない連邦軍にだって強い部隊はあるわよ。たとえばロンド・ベルは知ってるでしょ?」
その名を聞いた途端に子供達の目が輝きを取り戻し、一斉にうなずく。
「さすがにあそこまで強い所は他に無いと思うけど、そこそこ強い部隊はいると思うわ。この村を助けるのに十分な力を持った部隊がね。」
魅羅はそう言って力こぶを作るまねをして片目を瞑って見せた。
「ここに来てくれるかな?」
その一言に今度は沙希が力を込めて答えた。
「来るよ、きっと来る。信じていれば絶対来てくれる!だから頑張ろう。ね?」
今までの様子を眺めていたレイが感心したように呟く。
「へえ、鏡君、なかなかやるじゃないか。」
「そう言えば鏡さん弟が大勢居るそうよ。あの子達のこと弟みたいに思ってるんじゃないかな。」
詩織がそう言ったとき部屋の扉が開いてDC兵が入ってきた。
「全員外へ出ろ。」
村の広場に全員集まるのを待って部隊の指揮官が口を開いた。
「敵部隊を発見し、本隊が迎撃に向かっているがこの村が戦場になる恐れも出てきた。そこで全住民に避難命令を発令する。」
意外な展開に呆気にとられているレイ達に声が掛けられる。
「お前達も英雄ごっこにうつつを抜かすのは止めてさっさと出て行くんだな。」
村のことも気になったがキラメキ隊が攻撃を受けるとなればぐずぐずしているわけには行かない。4WDがMSを隠している地点へ走り出す。広場では指揮官と村長が話し始めていた。
「きっと助けに来るわ。だから待って・・・」
「出ていく気はない?馬鹿な、敵に占領されるようなことがあったら村ごと吹き飛ばせと言われているんだぞ!」
それぞれの声はエンジン音と距離に遮られて互いに届くことはなかった。
次回予告
なんとか戦線復帰して村を守る戦いに臨む私達。敵モビルアーマーの猛攻を耐えしのいで味方の到着を待つ内に機体の損害は大きくなる。お願い、もう少しだけ持ちこたえて!その時謎の通信が・・・。次回ときめきロボット大戦「必殺!光速剣降臨突き」に、イ・ナ・ズ・マキィーック!