必殺!光速剣降臨突き

 目的地に着いた4WDから飛び降りた4人は近くにある砂丘に駆け寄ると、砂漠の風景にとけ込むように作られたカモフラージュシートをまくり上げて中に潜り込んだ。間もなく起動音と共に4機のMSが立ち上がる。
「現在の戦況はどうなっているのかしら。」
「さあ、どうかしらね。まだ始まってすらいないかも知れなくてよ。」
まるで今日の天気を話題にして居るかのような詩織と魅羅の通信に沙希が割り込む。
「何か心配だわ。ね、通信入れてみようか?」
「いや、止めておいた方がいいだろう。」
「そうかな。でももしかしたら苦戦しているかも知れないよ。」
提案をにべもなく却下されたこと自体は気にしていない様子だったが、沙希の口振りからは不安がありありとにじみ出していた。
「確かに僕達が居ない分戦力的に苦しいのは間違いない。しかし逆に敵に察知されていないMS一個小隊の存在が戦況を左右する可能性は多分にある。ここは味方が持ちこたえてくれるのに期待して奇襲を狙った方が得策だと思うよ。」
「それもそうだね・・・。うん、分かった。じゃあ急ぎましょう。」
レイの説明に納得した沙希はそう言うが早いか少しでも早く味方と合流したい様子で機体を進め始めた。
「間違ってもジャンプしたり目立つような動きを見せないように。村に残った守備隊に発見されたら元も子もないからね。まあこの距離なら気をつけてさえいれば見つかる心配はない。では行こうか。」

 「ええい、この役立たず共が。あの程度の敵に何を手こずっているか。さっさと片付けてしまえ!」
カロッゾは怒気をみなぎらせて部下達に怒鳴り散らしていた。敵部隊を補足した時は戦力差から楽勝だと思われていたが、戦闘が始まるとその質の差を嫌と言うほど見せつけられることになった。
「ごめんなさい、やるしかないんです。」
愛の攻撃が的確に動力部を直撃し、リーオーがまた一機撃破された。見た目とは裏腹に高性能な機体と短期間で豊富な実戦経験を積んだパイロットを擁するキラメキ隊に対して、後方任務専門の為二線級の量産機とお世辞にも実戦向きと言えないパイロットばかりのカロッゾ隊では歯が立たなかった。部隊が全滅するまでにカロッゾだけで敵部隊に壊滅的打撃を与える自信はあったが、相討ちでは意味がない。
「よし、あれを使うとするか。全機最終防衛ラインまで後退、急げ!」
現時点では圧倒的に不利だったが、この先起こるであろう大逆転の状況を想像するカロッゾの口元にはゆがんだ笑みが浮かんでいた。

 「あれは・・・?」
本隊と合流するため先を急いでいた四人は前方上空に巨大な飛行物体を発見した。
「どうやらモビルアーマーらしいがアッザムではなさそうだな。」
そう言って機種識別を始めたレイはすぐに回答を導き出した。
「あったぞ。大気圏内戦闘用モビルアーマー・アプサラス。設計思想は飛行型ビグザムといったところだな。大型メガビーム砲には要注意。」
「でもなんだかこっちに向かって来てるみたいだけど。」
一方カロッゾも進行方向にいる四機のMSを確認した。
「何だと?ちいっ、そういうことか!」
カロッゾにしてみれば、敵本隊が戦闘している隙に別働隊が村を占拠、更に自軍を挟撃、殲滅する作戦としか思えなかった。それを防ぎ、更に自分の策を実行に移すためには本隊を足止めしている内に自らの手で別働隊を葬り去るのが最善と思われた。
「貴様等はこれから敵本隊に総攻撃をかけろ。」
「は?しかし我々では力不足で・・・」
異議を申し立てようとした部下の機体に機銃が掃射される。大したダメージは出ないが、精神的な衝撃は大きい。
「ぐっ、な、何を・・・」
「曲がりなりにも戦力だからな。ここで潰す訳にはいかん。しかし次は殺す。」
カロッゾの言葉を聞いておびえたように後ずさりを始めたMS隊は向きを変えるとキラメキ隊に向かって突撃を開始した。
「うわああああっ!」
「死ね、死ねえーっ!」
死に物狂いで猛攻をかけてくるカロッゾ隊のMSに気圧されるキラメキ隊。
「わっ、な、何これ?」
「こいつら、さっきより数段手強い!」
「これは・・・一種の背水の陣ですね。」
未緒は冷静に現状を分析する。
「後退不可能な状況に兵を追い込み、極限まで追い詰める事によって戦力を引き上げている。しかし何の目的で?」
「そんな事考えるよりこいつら何とかする方が先決じゃないか。」
未緒に突っ込みを入れる好雄というのは非常に珍しい状況だが、誰もそんなことを気にかける余裕はなかった。
「要するに川を無くしちまえばいいんだろ?」
そう言ってアプサラスに狙いを付けた諭だったが、既に標的は射程外に移動していた。
「何だ?あの野郎、自分だけ助かろうってのか?」
「それは違うわ。」
いまいましそうな諭の悪態に結奈が応答する。
「敵指揮官の目的は主力を足止めして別働隊を叩き、包囲状態に陥るのを避けること。たった今伊集院レイ以下4名のMSを確認したわ。」

 互いに相手が村を目指しているとみなしたレイ達とカロッゾは、少しでも相手より村に近付こうと先を急ぎ、結局レイ達が先に村の手前に来たところで戦闘開始となった。
「やらせないんだから!」
沙希の攻撃がアプサラスを捉える。続いて残る三人も次々と攻撃を開始し、じわじわとアプサラスにダメージを与えていく。
「ぐううっ、おのれえ!しかしこの程度ならまだまだ墜ちぬ!」
カロッゾはそう言うと沙希の機体に照準を合わせた。
「クズが。消し飛べえ!」
「そんな攻撃・・・!」
攻撃を回避しようとした沙希だったが、避ければ背後の村に攻撃が直撃する事に気付く。
「くっ!」
回避を中止し咄嗟にシールドを構えたパワードジムがビームの洗礼を受ける。
「きゃあああーっ!」
激しい衝撃に襲われ悲鳴を上げる沙希。何とか体勢を立て直し攻撃を続ける。再びアプサラスの攻撃が来た時、沙希は初めから防御態勢でこれに備えた。

 村長は村の近くで行われている戦闘をいぶかしげに見つめていた。DCのMAと連邦のMSが戦闘中なのだが、MSの内一機の動きがおかしい。敵の攻撃を避けようとせずひたすら防御に徹している。村長はふと思い立って無線機のスイッチを入れ、連邦軍が一般に使用している周波数帯に合わせてみた。
「虹野さん、どうしたの?さっきから防御してばかりだけど。」
「だって、避けたら村が被害を受けるから。」
ちょうど沙希が詩織の問いに答えているところだった。
「本気か?このままでは機体が持たないぞ。」
「でもやるしかないの。だって、きっと守ってみせるってあの子達と約束したから。」
実際には沙希の声は子供達には届かなかったのだが、沙希にとってこの誓いは絶対守られなくてはならないものだった。その時魅羅のゲルググマリーネがパワードジムを後方に押しのけた。
「な・・・、何するの?」
「大事な事を忘れているわね。この中で修理装置を装備しているのはあなたの機体だけ。真っ先に潰れてもらう訳にはいかなくてよ。」
「そう言うことだな。君は敵の射程外で待機していてくれたまえ。」
「修理の方、よろしくね。」
そして三機で村と沙希を守る形で戦闘が続けられた。無線でやりとりを聞いていた村長は複雑な表情で考え込む。その時袖を引っ張られて振り向くと子供達が何かを訴えかけるような瞳でこちらを見つめていた。どうやら彼らも今のを聞いていたらしい。その視線に後押しされる形で村長は決断を下した。

 「はい、できたわ。がんばって!」
沙希はフル回転で損害を受けた味方を修理していた。しかし単位時間で修理可能な分を上回る損害を与えられているため、前衛の三機は徐々にダメージが蓄積していった。
「さすがにきついな。しかし味方が来てくれれば形勢は一気に逆転可能だ。それまで持ちこたえなくてはな。」
レイが自分自身も含めて言い聞かせるようにつぶやいた時、通信が入った。
「もういい。あんたらはよくやってくれた。村を代表して感謝するよ。」
「村長さん?それって一体どういう事?」
沙希は村長が今まで通りDCの支配を受け入れるつもりかと思ったが、村長の返答は沙希にとってあまりにも予想外で衝撃的だった。
「実はこの村にはDCの連中が爆薬を仕掛けてある。ここは一つこれを使って現状に終止符を打つ事にするよ。」
「そんな、あきらめちゃ駄目だよ。私たちが何とかするから・・・」
「いや、この後どうなるにせよ結局奴らと私のどちらが起爆させるかの違いしかない。ならば自らの手で決着を付けさせてもらう。後は思う存分戦ってくれ。以上。」
通信終了後さすがに心残りがあったのかしばらく間が空いたが、立て続けに村の各所から巨大な火柱が上がった。
「村が・・・消える・・・」
「そんな・・・こんなのってないよ・・・」
呆然と村の最期を見届ける四人。一方カロッゾも意外な展開に戦闘どころではなくなっていた。
「馬鹿者、何をやっている?今吹き飛ばしては何の意味も無いだろうが!」
「いえ、私ではありません。おそらく村人の仕業ではないかと思われます。」
部下の返答を聞いて思わず歯噛みするカロッゾ。
「くそ、折角の作戦がぶち壊しだ。こうなったらこいつらだけでも叩きのめさんと気がすまん。」
そう言うが早いかアプサラスのビーム砲が発射されたが、既にそこには誰もいなかった。そして四機のMSによる猛攻がアプサラスに降り注いだが、特に沙希と魅羅の攻撃が凄まじく、仮面越しにもありありと分かるほどカロッゾの顔に焦りの色が浮かび始めた。
「ぬうう、まずい。そろそろ撤退せねば。」
後退を始めようとしたアプサラスだが、軽いショックと共にその動きを止めた。ボディに張り付いたマグネットアンカーから延びたワイヤーケーブルがゲルググマリーネの右腕に繋がっている。
「逃げられると思って?甘いわね!」
魅羅の言葉に続いて110mm機関砲の代わりに装備されたヒートロッドから流れ出る高圧電流がアプサラスを襲う。どんな機体も落雷に対するシールド位は標準でなされているが、その程度では防ぎきれない強烈な衝撃が機体とパイロットにダメージを与える。
「ぐわっ・・・が・・・!」
全身の筋肉を硬直させ、ほとんど動かない声帯から切れ切れにうめき声をあげるカロッゾ。制御を失った機体が小刻みに振動しつつ空中に静止する。
「いっけええええ!」
沙希の絶叫と共にジャンプするパワードジム。このクラスの機体としては有数を誇るバーニアの大出力に物を言わせて、まるで炎を背負ったかのように見えるその機体はアプサラスの遙か上空まで跳び上がる。
「はあああああっ!」
リミッターを解除して逆手に構え、頭上に振りかぶったビームサーベルから巨大な光の刃が伸びる。沙希はそのまま敵機の上に降り立ち深々とビームサーベルを突き立てた。
「ぬおおおっ!ば、馬鹿なあっ!」
カロッゾの驚愕の叫びと共にアプサラスはゆっくり降下を始め、それと同時に機体は激しく振動し、あちこちで小規模な爆発を繰り返した。爆発の頻度と規模は次第に拡大し、やがて降下の途中でその機体は大爆発を起こし完全に原型を失った。

 アプサラスが撃破された途端に他の機体は我先に退却し、戦闘はキラメキ隊の圧勝に終わった。しかし失った物はあまりにも大きく、四人はまるで敗残兵のような顔でかつて村だった瓦礫の山を眺めていた。そこへ村人達がやってくる。
「あんた達が連邦軍だったのか。驚いたな。」
「よくあいつらを追い払ってくれたな。すっきりしたよ。」
村人達はとりあえずDCの支配から解放されたことを喜んでいたが、四人の気は晴れなかった。村人の集団中に子供達の姿を認めた沙希はその前に駆け寄ってしゃがみ込んだ。
「ごめんね、結局守ってあげられなかった。」
心底申し訳なさそうに謝る沙希に対してどう答えたらいいのか分からずとまどう子供達。
「何か勘違いをしているようだな。」
村長がそう言いながら歩み寄ってくる。
「あんた達は立派に村を守り切った。それは間違えようのない事実だ。」
「でも、村は、村は、跡形もなく吹き飛んで・・・!」
感情の爆発に突き動かされるようにまくし立てる沙希を制する村長。
「いいや、それは違うぞ。吹き飛んだのは建物だけだ。村はちゃんと残っている。」
「でも・・・」
「人が住んでいればそこが村だ。逆にいくら立派な建物があっても誰も住んでいなければただの廃墟でしかない。分かるな?」
「・・・うん。でも、これから大丈夫?」
なおも心配顔の沙希と対照的に村長の表情に深刻さは微塵も見られない。
「まあ当分はシェルターで生活することになるが、備蓄は十分にあるし、たまには穴蔵暮らしも悪くはない。そんなことよりあんた達の方がこの先大変だろう?」
「え?えーと、その・・・」
返答に窮する沙希に意外なところから助け船が入る。
「心配ないよ。だってこのお姉ちゃん達すごく強いもん。」
「そうだよ。さっきだってあんなに大きいのをあっという間にやっつけちゃったんだから。」
まるで自慢話でもするかのように嬉しそうに話す子供達の目に沙希達は光り輝いて見えたに違いない。
「次も絶対勝つよね。ね?」
その無邪気な問いにどう答えたらいいか迷う沙希。安請け合いして子供の夢を壊すことになりはしないか?そんな考えが頭に浮かぶ。
「当たり前でしょ。ま、ここは私たちに任せてもらおうかしら。」
沙希の苦悩を知ってか知らずか頼もしげに振る舞って見せる魅羅。それを受けて場の雰囲気が一気に盛り上がる。それを見て今一番大切な事に気付いた沙希は村人達に向かって力強く宣言した。
「私たち、必ず勝ちます。勝って見せます!だから皆さんも前より立派な村にするために頑張って下さい。」
その言葉を別れの挨拶にして四人はMSに乗り込むと出発準備を整えて待機中のアルビオンに向かった。

次回予告
 トゥブルクに近付くにつれて続々現れるDCアフリカ軍団の精鋭達。ますます激しさを増す戦いの最中に未緒が倒れる。果たしてキラメキ隊はこの危機を乗り切ることができるのか?次回ときめきロボット対戦「キラメキ隊のとっても長い一日」に、ターゲット・ロック=オン!