「邂逅、そして潜入」
「じゃあ行って来るからね、留守番頼んだよ。」
ミハル・ラトキエは幼い弟と妹に声を掛け、出かけようとした。家を出て
すぐ、ミハルは連邦軍の戦艦が接近してくるのに気付いた。形状的に
ペガサス級の発展型らしいが今まで見かけたことがない艦で、なにか
特別な事情でこのベルファストに来たらしい。
「ま、一応報告しといた方がいいかな。」
ミハルはそう呟くと愛用のカメラを取り出し、戦艦を撮影すると家に戻り、
一見平凡な内容のメールと共に画像データを送信した。
ブレストに到着して、シュタイナーは兵達に休養するよう指示を出すと
自分は港へ向かった。迎えのシーランス連絡艇に乗り込み沖へ向かう。
そこでは潜水母艦マッドアングラーが浮上して到着を待っていた。シュ
タイナーはタラップを上ってハッチに潜り込み、ブリッジに向かう。
「よう、どうした、サイクロプス。やけにもたついてるじゃないか。」
シュタイナーが入った途端にブリッジに張りのある声が響きわたる。声の
主のマッドアングラー隊隊長は大股で客に歩み寄った。
「言ってくれるな、ブーン。今回の獲物は活きが良すぎてなかなか捕まえ
られんのだ。」
軽口の応酬の後、二人は本題に入った。
「艦もモビルスーツも見た目は古いが中身は大違いだ。基本性能は・・・
そうだな、ほぼZガンダムクラスと見て間違いない。」
「ほう、士官学校の機体とは思えないな。」
「俺達はまだ見ていないが、あしゅらの報告ではゲッターロボにテキサス
マック、それにグランゾンによく似た機体がいるらしい。」
「ますますもって怪しいな。」
「ああ。例の情報は本当かもしれん。だが腑に落ちん点もある。」
ブーンが無言で先を促すのを受けてシュタイナーは話を続けた。
「あっさりバニング隊が抜けて、残ったパイロットはどうやら士官候補生の連中ばかりらしい。今は機体性能のお陰で何とか戦っていると言った感じだ。」
「しかしお前等ならその程度の敵、どうと言うことはないだろう?」
「二機ばかりやっかいな奴が居る。」
シュタイナーはブーンのリアクションを待たずに先を続けた。
「ガルバルディとガンダムはかなり手強い。あるいはニュータイプかもしれんな。」
「なるほど。で、これからどうする?」
「向こう次第だ、冗談抜きでな。奴等がレイキャビクから宇宙へ行ったのなら我々の任務もここまでになる。そうなったらしばらく骨休みでもさせてもらうか。」
その時マッドアングラーのオペレーターがブーンを呼んだ。
「どうした。ふむ、”クーゲルブリッツ”から連絡か。よし、見せてくれ。」
ミハルの報告に目を通していたブーンの視線が最後の映像のところで動きを止めた。
「シュタイナー、残念だがフランスでのバカンスはお預けだ。木馬がベルファストに到着した。”クーゲルブリッツ”には木馬に張り付くよう指示を出しておく。」
レイキャビクを出てからこれと言った妨害もなく、アルビオンはベルファスト基地に到着した。艦がドック入りして整備と補給を済ませる間にメンバーは交代で休息することになった。
「じゃ、行って来るから。留守は頼んだぜ。」
先に休める好雄はにやにやしながら留守番組の諭達に声を掛けた。
「やな奴だな、お前。どこでも良いからさっさと行っちまえよ。」
「ゆっくりやすんできてくださいね。」
これらの返事が返ってくる頃には好雄は既にその場を立ち去っていた。
好雄がゲートから基地の外へ出たとき、ミハルは生活費稼ぎも兼ねた露店から様子を窺っていたが、見慣れない顔が出てきたのであの艦の乗組員だろうと見当をつけて声を掛けることにした。
「ねえ、そこの兵隊さん。何か買っていってくれない?」
初めの内好雄は自分に声を掛けられていることに気付かなかった。
「へ、俺?何で軍人だって分かったんだ?」
「当たり前じゃない。私服でふらふら基地から出てきて警備兵に呼び止められないんだもの。」
「それもそうか。ま、いいや。で、何があるんだ?」
あいにくここの品揃えには今から出かける好雄に必要なものは無かった。
「今買って持ち歩くのも何だし、後で寄らせてもらうぜ。」
そう言って立ち去ろうとする好雄にミハルは声を掛けた。
「あ、ちょっと。あんたここ初めてなんだろ?案内してやるよ。」
「悪いね、たかったみたいで。」
「なあに、いいってことよ。遠慮しないでたっぷり食えよ・・・って、言うまでもなさそうだな。」
ミハルの弟と妹の食欲は旺盛だった。その見事な食べっぷりを楽しそうに眺めながら好雄が口を開く。
「この位が一番かわいい時期だよな。俺にも一人妹が居るんだが、これがまた生意気盛りでさ。おまけに俺より強いと来てるから手が付けられないったらありゃしねえ。
気にくわないことがあるとプロレスの技掛けて来るんだぜ。」
「でもさ、それでもやっぱりかわいいんじゃない?」
「まあ、機嫌がいい時はそれなりに、な。」
なにやら照れたような好雄の素振りにミハルの顔から笑みがこぼれた。
「さて、今日は俺達が休む番だ。ちゃんと留守番してろよ。」
「へいへい、わかりましたよ。いってらっしゃい。」
しかし諭達が出口へ向かおうとした時基地内に警報が鳴り響いた。当然休暇は中止、待機せざるを得ない。
「悪趣味だぞ、人の休暇邪魔して何が楽しい!」
この世の全ての理不尽に対する怒りが込められたかのような諭の叫びは基地の廊下に空しく響いた。
基地を巡る戦闘が激しさを増す中、丁度反対側の場所で僅かな動きがあった。
「ふん、この程度の監視システムしか無いとはずいぶん嘗められたもんだ。」
ウェットスーツのような服装に身を包んだ男はそう呟くとしばらくなにやら作業をしていたがすぐにインカムに話しかけた。
「こちらイワノフ。システムの無力化を終えました。」
「よし。基地内に侵入する。」
やがて4機のアッガイが基地の中へ消えていった。
「B2ブロックに敵MSが侵入、施設が攻撃を受けています!」
「最初の攻撃は陽動だったようですね。」
未緒が感心したように呟く。しかしすぐにキラメキ隊全機に指示を与えた。
「間もなく基地司令部より出撃命令が来るはずです。Aチームは現場に直行し敵MSを迎撃、Bチームは出口を包囲して敵の退路を断って下さい。」
「アッガイか。なるほど、破壊工作のエキスパートのお出ましというわけか。」
B2ブロックに到着したAチームはアッガイ隊に格闘戦を挑んだ。施設に被害が出るため射撃兵器は使用するわけに行かない。
「お前等か、人の休み邪魔しやがって!」
非常に個人的な怒りのこもった諭の一撃がアッガイの一機に直撃する。
「うわああ!こ、こいつ、強い!」
「大丈夫か、イワノフ?」
「はい、結構ダメージを食らいましたが、まだいけます。」
部下の安否を確認した後、赤鼻は全機に指示を出した。
「戦闘は俺達の仕事じゃないからな。適当にあしらってとっととずらかるぞ。」
端から見ればキラメキ隊に追い立てられるような形でアッガイ隊は出口へ向かった。先頭の一機が基地の外に姿を現した瞬間、待ち受けていたBチームの攻撃が集中する。
「ラムジはやられたか。こいつらなかなかやるな。・・・ボラスキノフ、今ので敵の位置は分かったな?援護してくれ。イワノフ、俺とマジソンが時間を稼いでいる間にラムジを回収してやれ。」
Bチームがアッガイ隊に更に攻撃を加えようとした時、中央にいた詩織は何か危険が迫るのを感じた。
「いけない、みんなここから離れて!」
その直後に部隊が展開していた地点に砲弾が降り注ぐ。支援砲撃が終わった後、敵の増援が姿を現した。中央にいる巨体が一際目を引く。
「ゾックか。重装甲・大火力。やっかいな相手ね。」
ゾックのコクピットではボラスキノフが不敵な笑みを浮かべていた。
「さて、あんたらはのんびり狩りを楽しむ予定だったみたいだが、ちょっと計画を変更してもらおうか。さあ、命がけのパーティーの始まりだ。」
何とか敵を撃退したものの未緒は何か釈然としないものを感じていた。
(今日のアッガイの動きはなんだかおかしいわ。確かにB2ブロックは甚大な損害を受けた。でもB2ブロック自体はそれほど重要な場所ではない。もしかしたら、あれも陽動?)
未緒は念のため基地内を捜索するよう司令部に進言することにした。幸い基地指令は少なくとも未緒の意見を聞き入れる程度の賢明さは持ち合わせており、その結果基地内部各所に仕掛けられた爆発物を発見、無事にこれらを処理した。しかしながらこれさえも真の目的を隠すカモフラージュに過ぎないとはさすがに誰も考えなかった。準備が整ってベルファストを後にしたアルビオン内部には情報収集の密命を受け、連邦軍の制服に身を包んだミハルが身を潜めていた。
次回予告
霧のロンドン上空を通過するアルビオン。その艦内にも疑惑の霧が立ちこめる。謎の少女と遭遇する好雄。そして待ち受ける再会。僕は連邦、君はDC。手に手を取って艦を出る二人。
次回ときめきロボット大戦「さよならのドーバー」を、みんなで見よう!